orangeitems’s diary

40代ITエンジニアが毎日何か書くブログ

そろそろIT史という学問が必要なのかもしれない

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昔々、Windows 95だったときの話だけど会社でパソコンをもらった。もらったもののOSすら入っていなかったのでOSのインストールを行うんだけどハードディスクが認識しない。なぜか調べたら、OSのインストール時にドライバーを持ってきて読み込ませないといけないらしい。当時はインターネットにドライバーはなく、フロッピーディスクに保管されているのだがそのパソコンに付属していたので、オフィス中の棚を開けてそれらしきもの(フロッピーディスクのラベルから判別)を探さないといけなくなった。もう、フロッピーディスクは、山のようにボックスに入っていたのでトランプさながらドライバーはどれだと探したものだった。

ようやくドライバーを読み込ませハードディスクを認識させることができた。ただ当時のハードディスクも遅かったし、そもそもCD-ROMの読み込みスピードが2倍とか4倍とかを争っていたので、OSのインストールだけでも2時間以上かかった記憶がある。むしろエラー無くインストールが完了できることのほうがありがたい感じでもあった。

OSがようやくインストールでき、おなじみのデスクトップ画面が出るのだが、概ねグラフィックドライバーなど認識していないしサウンドも同様。640 x 480、つまりVGAでしかも256色の画面で四苦八苦することになる。また、ドライバーだ。

OSをインストールしたあとのドライバーインストールについては、パソコンのメーカーによってはドライバー集のようなフロッピーディスクを添付してくれるので、readmeを読みながら入れていく。今のようにインストーラーが付いていればいいのだが、ものによってはデバイスマネージャーから直接読み込ませたりして、結構カオスな作業だった。

一番大変だなと思ったのが、ネットワークデバイスのドライバーだ。ネットワークにさえつながれば、ドメインにログオンでき、ファイルサーバーにアクセスできる。しかしネットワークにつながらない限り、フロッピーディスクでファイルを移動しない限り、何も入れられない。フロッピーディスクは1.44MBしか入らない。今のデジタルネイティブの人たちには全く想像できない世界だと思うが、一つのアプリケーションにフロッピーディスクが5枚組なんてこともあった。

直後に、CD-Rが普及し540MBまで持ち運べるようになったり、USBメモリーやSDカードが登場してモバイルストレージの時代が到来することになるのだがそれはまだあとの話だ。

 

これらは本当の話だが、似たような話で、サーバー構築時の苦労もある。ある企業のビルにサーバーが10台ほど届き、そのフロアの中でサーバーを組み立ててOSをインストールするという仕事があった。

その場所まで家から片道2時間半かかるという、今では絶対にやりたくない環境だが。

しかも、その上インターネットが使えなかった。モバイルインターネットなんてなかった。当時、AIRH"(エアエッジ)というウィルコムの前身のDDIポケット(そもそもウィルコムも無くなったが)から出ているサービスを使ってかろうじて32Kやら64Kやらの細いスピードのデータ通信カードを持たされていたが、メールのやり取りがかろうじてできるぐらいの代物だった。

サーバーのセットアップで、エラーが出て進めない、なんてことは昔はザラだったのだが困ったのが、インターネットでググれないことだった。どうしたか。会社にマネージャーが待機していて電話をかけ、調べてもらっていた。しかも英語のメッセージなので検索させるのも一苦労。

つまり知らない会社の部屋に閉じ込められ、調べたいときは電話をして助けを乞う。クイズミリオネアのテレフォンのような環境で、何時間も進まないセットアップで「今日は帰れるのかよ」という状態になり、解放された時刻が終電だがそこから家に帰っても2時間半後みたいな世界観の仕事をやったことがある。

 

今では、当時考えられないほどのサーバー群を、家から瞬時にコントロールできる時代になった。インターネットにナレッジはたくさん落ちていて、おそらく世界で初めての事象に自分が当たることはほぼなくて、だいたいはすぐ調査が済むようになった。

今の恵まれた環境は今後もそのままだし、過去の苦労を知らない人たちは何も悪くない。自動車がある今、「俺が足軽だったときは江戸から大阪まで走っていってたんだぞ」と言ったって老害丸出しである。ただ、プロセスとして、今インフラエンジニアとして生き残っている40代以上の人たちはこんな体験を普通にしてきている。昔のIT業界が一律にブラック業界と言われていたのは伊達ではない。ものすごくリスクのある時代だったと思う。当時はどんな仕事でもやってみたらいろんなことが起きた。今はとても心地の良い状態が作られているけれど、過去の歴史を踏まえれば全然、当たり前ではない。

どのようにこの低いレイヤーの経験を若い世代に伝えていくか。そろそろこの業界にも、IT史のような歴史を振り返る学問が必要になっているのかもしれない。どんな分野にも過去のプロセスを学ぶ学問があるように。