orangeitems’s diary

クラウドで働くエンジニアの日々の感想です(ほぼ毎日更新)。

人月商売の脱却とは何だ?

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優秀な技術者が辞めていく

いつも読んでいる木村氏のコラムの新作です。

 

tech.nikkeibp.co.jp

最近、SIerなど大手ITベンダーの経営幹部に会うと、決まって次のようなぼやきを聞かされる。「若手や中堅の優秀な技術者が相次いで辞めてしまってね。我が社の将来を背負って立つような人材ばかりだから極めて深刻なんだよ。懸命に引き留めるのだが、とても翻意してもらえなくてね」。

 

人月商売の悪影響を考察します。 

 

人月商売が優秀な若手を転職させるロジック

「人月商売」は私のビジネス論から言って最も遠ざけるべき言葉です。

システムエンジニアとは、人手で行っていた仕事をコンピューターを利用して自動化し、効率を上げることを目的とした仕事です。

したがって、効率を上げること自体に価値があるのであり、システムエンジニアが出社し時間を過ごすことは直接の価値ではありません。極端に言えば、出社しなくてもクライアントの効率が上がれば、それは価値なのです。

人月商売はこれを真っ向から否定します。一時間当たり一人おいくらという精算方法ではどの程度の価値を生み出せたかさっぱりわからないのです。

昨日(日曜日)、カフェに入ったら長蛇の列ができていました。店員さんは少ない人数でオーダーからドリンクの作成まで一人でやっています。いくらせわしく動いても、客の列が切れません。おそらく数時間動き詰めだったでしょう。一方で、平日の午前中などは客もまばらです。店員同士で雑談ができるぐらい空いていて客さばきも全然余裕です。さて、日曜日と平日、店員さんはアルバイトですが、時給は同じか、少しだけ割り増しされるぐらいです。明らかに仕事量も違うし売上も全然違います。でも一時間対応したとして、1000円もらえるか1125円もらえるかの違いぐらい。125円。

これが人月商売の最も悪い部分です。生み出した価値を無視して、そこに存在することにだけ価値を見出すのです。これがアルバイトであればまだ話は小さいのですが、あろうことかシステムエンジニアに当てはめる。システムエンジニアのスキルは、初心者と熟練者で数百倍違うことがあります。一か月かけてもできないことを10分でやり遂げてしまうのがシステムエンジニアリングの面白いところです。

そのような優秀なシステムエンジニアが人月商売が嫌で辞めていく。実は私自身も数年前に同じ経験で転職しました。私を人月商売ロンダリングしていた自社担当営業の彼はこう言い放ちました。

「・・さんは、ベテランだから人月単価が高くて持っていきにくいんですよ」

ああ、この会社にはもういられないな、と思いました。スキルが高いことを表現するのが人月単価であり、この単価が高いとエンドユーザーに提案しにくい。そんなアホな。

結局アルバイトで、スキルの高い1800円の人と、未経験で990円で若い人、どっちを取るかということです。アルバイトであれば990円の方を誰しも採用するでしょう。担当営業にはその程度しかシステムエンジニアリングの価値が見えていなかったということになります。

ところが、IT業界、まだまだ人月商売がはびこっています。大手SIerが人月商売しているのではなく、大手SIer経由で中小SIerに人月単価で案件紹介が大量に出回るのです。この辺りがITゼネコンという言葉で、大手SIerはきちんとユーザーから請負で受注します。これをこなすためのマンパワーを、中規模SIerが人月単価で受注し、さらにその末端の協力会社にこれより安い人月単価で廻す・・。これが業界構造であり、今もって存在しています。

今起こっていることは、大手SIerが人月商売をしているのではなく、大手SIerをトップとしてそこから人月商売ピラミッドが構築されている、ということです。

このピラミッドで輝けるのは実は若手です。若手は人月単価が安いので提案がしやすく、そこで大手のプロジェクトに入って力をつけていくのです。ベテランはもともと給料が高いので逆算して人月単価も引き上げなければならず、かつより新しい技術だと結局は若手に対してアドバンテージがない場合があり、営業からすると「使いにくい」となってしまうのです。

若手は、ある程度したらこの業界構造に気が付き、ドロップアウトして、ユーザー側に行って情シス担当となったり、大手SIerのピラミッド構造にない、エンドユーザー直で商売をしている企業に転職します。これが今起こっていることだと思います。

 

大手SIerがなぜ45歳以上にリストラをかけるか

大手SIerはピラミッドの上で安全な場所にいるように思えたのですが、昨今はそうではないようです。

 

smart-flash.jp

 

私が思うのは、大手SIerと直契約で下請けしていた中堅SIerが力をつけ、自分たちで商売をしようとしていて(いわゆるプライム)、大手を脅かしているのではないかという読みをしています。中堅SIerが人月商売でシステムエンジニアを多く抱え現場で仕事をさせているうちに、本当に力をつけて、大手を通さなくても自身でリスクを取ってプライムで仕事をするようになっているのでは、と思っています。

特にクラウドサービスが伸長し、大型の設備投資がなくとも顧客に提案できるようになりました。とすれば、実際に手を動かしてきた中堅SIerが力を付ければ、大手SIerに負けない提案ができるようになるのは自明の理です。

大手の独壇場だったSI業界が、だんだんレッドオーシャンになってきて、ピラミッドをマネジメントすることしかできないような高齢のプロジェクトマネージャーの居場所が小さくなってきたのでは・・・。これはあくまでも個人的な推測ですが、IT系のニュースを見ていると、何だか中堅SIerがどんどん市場に出ていこうとしているなと思うことが最近多いです。

「人月商売の脱却」とは、システムエンジニアリングの本当の価値への回帰、ということだと思います。人月商売を脱却した一人の現場のシステムエンジニアとして、「本当に価値を生み出せるのであれば人数は全く関係ない。価格の形成に必要なのは顧客がどの程度価値を享受できるかだ」、ということを強調し、業界全体が適正化してほしいと願います。