遥か昔の話。
私が大学一年生の時、授業で課題になった本がある。
心理学の大家の先生がお勧めした本なので読んでみて損はないと思う。
中身を詳しく説明することはしないんだけど、一つ真理が書いてある。
余り教育を受けなかった、教養を身に着けなかった人が、ある日学習することに目覚め、どんどん賢くなっていく。知らなかったことを身に着けるだけではなく、身に着けたことで深い思考ができるようになっていく。
そして、どんどん精神的に成長していくと、だんだんわかってくることがある。
「あ、過去のあの他人の私に対する態度や物言いは、親しみや信頼からではなくて、バカにしていたんだ」と。
知恵や教養がないと、わからないのである。他人が自分に何をしようとしていたか、ということの正体に。自分に対してとても失礼なことをしているにもかかわらず、自分は薄ら笑いをしてその社会からつまはじきにならないように、突っ立っていた。それは今ではとてもバカげていると思うけれど、その当時の自分はちっともそれをわかっていなかった、と。
ただし、この本は、主人公が勉強して成長したのではない。
2歳で幼児の知能しかないパン屋の店員チャーリイは、ある日、ネズミのアルジャーノンと同じ画期的な脳外科手術を受ければ頭がよくなると告げられる。手術を受けたチャーリイは、超天才に変貌していくが……人生のさまざまな問題と喜怒哀楽を繊細に描き、全世界が涙した現代の聖書。
というあらすじである。
私が当時これを読んだときには、まだ少年だったのでその意味や価値までわかることができなかったが、やけに記憶に残っている本である。
そこから30年ほど、今ならわかる。そうなんだな、これは人生の縮図なんだな、と。
賢いことは素晴らしい事だが、賢くなり過ぎるともしかしたら知らない方が良かったこと、まで知ることになり、幸せという人間の主観的な観点から考えると、ろくなことではないかもしれない。
私はそれでも、賢くありたいと思う。まがい物はまがいものと知っていたい。そんなに人生において宝物の数はないけれど、宝物は宝物と知りたい。今はそう思う。他人の言う真実など全く信用はしていない。自分でわかりたい。
この本、読んでみたら、人生観がすぐ変わるかもしれないし、その時変わらないかもしれないが心にひっかかり長い時間の後に気づくことになるのかもしれない、そんな一冊である。