orangeitems’s diary

40代ITエンジニアが毎日何か書くブログ

リスキリングという言葉自体がおかしいのであって

 

リスキリングをめぐる有名企業人事担当者の座談会の模様が記事になっていました。

 

style.nikkei.com

「リスキリング」という言葉の認知度は上がってきたが、企業の人材育成の現場ではどう受け止められ、どの程度進んでいるのか? NIKKEIリスキリングは、有名企業の人事担当者3名に呼びかけ、実情を語ってもらうための匿名座談会を実施。そこで飛び出した驚きの本音とは……。(参加者は、大手メーカーのAさん、大手ファッションブランドのBさん、大手小売りのCさん)

 

リスキリングが、e-learningの受講と読み替えられているのがよくわかります。有名というだけあってたくさんの人を抱えているので、マンツーマンで教えてられないということなんでしょうね。

e-learningって、そもそも失敗の可能性が高いと思います。定着しません。なぜかというと、修了するのが目的であり、自己学習したいというモチベーションが低いからだと思います。義務・必須と言われ、このe-learningを修了しないと会社から怒られる。だからスライドを斜め読みし、適当に習熟度テストだけ正解を答えて終わらせようとする仕組みを私も過去何度も経験しました。そして、会社は全社員にe-learningを受けさせたのでスキルがあると思い込むのです。

コンプライアンス教育など、社会の法制度が変化していく中で、環境に適応しなければいけない社員がまとまった情報を知る、という目的があれば機能します。

しかし、学校のように1年間かけて教科書1冊進めるような学問だと、数時間のe-learningを斜め読みしたところで「ふーん」で終わるのが関の山です。

e-learningそのものが学習教材となっていては機能しないと考えます。企業が社員に伝えるべきはこういうことだと思います。

・今の世の中、こういうことになっているんだよ、という情報提供
・社会にニーズのあるトピックそれぞれを、どのように学べばいいかという情報提供
・具体的、先進的な実践例

わかりやすさ、伝わりやすさを重視することが大切です。トピックさえ伝われば、あとは具体的に学ぶかどうかは社員に委ねるしかない、と思っています。必要性を感じたのに変わろうとしないなら、リスキリングなんて成立しないのです。やるのは自分自身なのですから。

何か魔法の手段があって、個人のスキルが洗い替えされると思ったら大間違いです。結局は自習なのです。身に付ける行動をするのは自分。企業は「どう促すか」のほうが大事で、学習内容をe-lerningで垂れ流ししても、形だけ修了者が増えるばかりで、本来の仕事に活かされるはずがないのです。

そう意味では、リスキリングという表現自体がおかしいと思います。まるで経営が従業員に施すような印象を与えるこの言葉ですが、本質は「自習」なのです。

また、記事中では中途採用のほうがリスキリングよりも投資効率がいいとありましたが、これはなぜかというと、中途採用者が新しい業務を呼び込み、そして既存社員に教育を直接的・間接的にしてくれるからです。ああ、身に付けるとこういう仕事ができるんだ、こういう責任が果たせるんだ、という見本になります。ですからただただ雇うだけだと、他者からスキル保有者を盗んだだけ、となりかねません。

また、中途採用だけを引き抜くような会社は、社内で社員を教育するモチベーションが育ちにくいです。その結果、特定業務しかできない人の集まりになり、組織の構成員が固定されてしまい、新しい分野に取り組まないので業績が伸びなくなります。そして人が入れられないまま、平均年齢が年々上がり、高齢化していきます。業態も古くなるので新しい人が入りにくくなる・・こういった悪循環が起こりがちです。

ですから、社内教育文化と中途採用、バランスを考えないと中長期的に痛い目に遭うというのが私の経験上の結論です。特に昨今、スキルを持った人を採るのが大変な時代に突入しつつありますから。むしろ、未経験なり、社内教育なりで新しいスキルを会社内に安定的にどう取り込むかについて、もっと方法論を議論すべきだと思います。少子化による人口減少はこれから深刻な影響を企業にもたらすようになります。スキルを持った人を中途採用する方法論が、今後通用しなくなる未来を真剣に受け入れるべき時期です。中にいる社員が変わる方法を見つけないといけません。