orangeitems’s diary

40代ITエンジニアが毎日何か書くブログ

リスキリングに見るデジタル領域の拡大と歪み

 

最近は、デジタルに縁がなかった人に、教育を施してデジタル人材にしようという試みが大企業を中心に盛んだ。リスキリングという単語がキーワードのようで、これでニュースを検索するとたくさんの記事が出てくる。

大企業などの動きを見ていると、大胆な表現をするならば、社員を真面目に教育する気はない。システムエンジニア目線で言えば、それがデジタルなの?と言いたくなる。例えれば、RPGツクールの使い方を一生懸命教えて、RPGツクールでRPGを作れる人を、量産しようとしているのである。RPGツクールから離れてしまうと手も足も出なくなる人が、今のインスタントデジタル人材である。

ただ、それでもデジタルのことがさっぱりわからない、という状態よりはいいよねということでムーブメントが起きている。

多分に、エンドユーザー側で起きていることは、デジタルだったらこういうことが可能になる、という要素の積み上げだ。

自分たちで基盤を構築したり、アプリケーション開発をしたり、本番運用したりということを彼らがやることは絶対にない。しかし、どういうことをできるかという発想ができるようになるので、専門家であるSIerと会話ができる。要件定義に参加できる。SIerとのコミュニケーションギャップがなくなり、よりよいシステム開発ができるようになる。

また、運用保守フェーズに入ってからそのシステムを使いこなすための発想もできるようになる。なんのためのシステムかを理解できるようになるために、改善も発想できる。次のアップデートではここを変更してほしい、ということを自発的にエンドユーザー側で取りまとめ、SIerと相談できるようになる。

内製の開発部隊を社内で抱えていたらSIerは不要となるが、リスキリングと内製化を同時に進めるというのは、少しリスクが大きいように思える。わけのわからないものが、わけのわからないコストでたくさん構築され、保守できなくなり技術的負債が積み上がる未来も普通にある。Excelマクロ、Notesデータベースなど、エンドユーザー側に優しい技術は時に、社内のデータ管理について、モラルハザードを引き起こすのである。

最近思うのは、SIer側、いわゆる「リアル」デジタル人材の枯渇具合が半端ないことだ。エンドユーザー側がインスタントデジタル人材を増やすなら、エンドユーザー側の数が倍増していくことになろう。一方で、それに応えるリアルデジタル人材の数は増えていない。採用しようとしてもどの会社も苦労している。仕事はたくさんあるのに、それをこなすリアルデジタル人材がいないのである。

一方で、ソフトウェア市場の広がりが大きい。いろんなソフトウェアが社会のニーズを満たすようになった。ニーズが広がる一方で、今日もたくさんのソフトウェアが生み出されている。

このソフトウェアをいかに使いこなすか、というのが、実はインスタントデジタル人材のメインの目的になっている。彼らはソフトウェアが変わると手も足も出なくなる。特定のソフトウェアの操作に特化しているので、その要件の中でしか動けない。そして、そのソフトウェアの数が急増している。昔なら、ExcelとWordが使えれば・・だったのだが、今はデータ分析にしろAIにしろ、たくさんの製品が出ているのである。

こうやって状況を俯瞰すると、リアルデジタル人材は、リスキリングのように半年や1年の研修を受けさせたところで生み出せるはずはない。一方で、特定のソフトウェアに従属したインスタントデジタル人材は、マニュアル通りに教えれば、ある程度のことはできるようになる。

需要と供給がアンバランスなのである。リアルデジタル人材をいかに増やすかの議論がないまま、リスキリングだけ盛り上がっているので、基盤をこしらえ、本番で動作する品質を保証する人材が足りなくなるのは当然だ。

まぁ、他業種の未経験者で見込みがありそうな人をやっぱり業界に引き入れて、地道に教育していくしかないんだろうなと思っている一方で、リスキリング!5000人!とかいうニュースを見るたびに、ため息が出るのである。