orangeitems’s diary

40代ITエンジニアが毎日何か書くブログ

人を辞めさせない技術

 

いかに優秀な人を集めるかみたいな話の方がよく議論されるが、実はそれよりもっと大事なことがある。

いかに人を辞めさせないか。

いつでも辞めても結構と言う類の人は案外簡単に辞めなかったりして、一方で辞められたら困るという人が先に辞めてしまう。こういう状況を放置していると会社から優秀な人がどんどんいなくなる。

そうならないように努めなければいけないが、これを言葉にしている会社は少ないはず。少ないが、結構色々な会社がなんとか危機的な状況を避けようと努力しているのだろう、間違いない。

つまり「辞めないで」とはどの会社も直接社員に対して言わない。普通に働いていて、役員から「辞めないで」というメールが来たらかえっておかしいでしょう。言わないでいてそれで、辞めさせない、というのは結構レベルの高い戦略活動だと思う。

どんな戦略が試みられているだろうか。私の感覚では3つある。

 

①福利厚生の充実

②社内イベントの企画、一体感の醸成

③労働環境の改善

 

ここで一番大事なことは「給与水準の向上」は入れないことだ。ビジネス観点で言えば、人件費が高すぎると経営を圧迫する。それに相応した売上が必要となるし、基本的に年々給与は上げて行かないといけないので、会社の状況がどうあろうと人件費は高止まりし続ける。実力に見合った給与を、ということで、毎年給与が上がらない制度にすると「1年こんなにがんばって評価も頂けたのに給与が上がらない」というもっぱら平凡な不満を社員に与えてしまう。「社員が頑張り、そして評価される」という事実を与えた方が会社を辞めないだろう。であれば、年々給与は上げていくに越したことはない。だからこそ、おいそれとは給与水準を上げるのは得策ではない。業界平均をにらみながら「他社に対して劣っていないよ」という線を維持するくらいなのである。

給与水準は上げない一方で、福利厚生やイベント、環境面は向上させる。育児休暇、何か私事で発生した際の会社の援助、会社内の人間関係を円滑にするきっかけ作り。あとはオフィスにコーヒーマシンを設置して見たり、リフォームしてインテリアをキラキラにしてみたり。

こういったお金は、人件費を上げることに比べると、実は微々たるものだ。だからこそ「人を辞めさせない」観点で言えばコストパフォーマンスがいい。そして、社員はこう感じる。うちの会社は社員に手厚い、と。

さらに、社員の満足度を高めるために、日々組織を改造して、「人がいいマネージャー」を育成しその下に社員をぶら下げるようにする。昨今の実力主義の危険性の一つに「仕事はできるが、部下の面倒見が良くない」というマネージャーが台頭しがちなことが挙げられる。仕事ができることに起因し上司が部下に対して冷たく接してしまうような現象を常にケアしないと、社員が辞めてしまう原因を確実に醸成する。上司とソリが合わないというのは、いつの時代も、どの会社も辞める理由のトップだろう。

だからこそ、昨今は「人がいい」というのも大きなスキルの一つだし、その特徴を活かして、人のめんどうを見ることだけに特化したマネジメント、というのもあり得るのかなと思う。だって、そのポストがあることで優秀な人が辞めないなら、十分価値がある。最近思う。あの人がいるから会社を辞めない、というのはある。

一方、こういった辞めさせない戦略が暴走してしまい、社員を多く抱えてしまうとともに本業が傾き始め、人件費や福利厚生にかける費用が高止まりし、経営成績が慢性的に振るわなくなるという現象も、よくある。

そうなりそうだ、と経営者が思い、かつ豊富にまだキャッシュがあると判断したときに、希望退職・早期退職による社員数減らしを画策し始める。特に、年齢が高い社員の方が恩恵を高く受けているため、その層を減らすことにお金を使うことが効率的だったと理解している。また、人のめんどうを見る、というだけのスキルを持った人ばかり抱えても、本業を圧迫する。いびつになった組織の整理をしていくなかで、各社苦肉の策として起こった現象だろう。

今の若手は、その反省のもとの人事制度で働いているから、おそらく50代までいても、一昔前の50代ほどは平均給与は上がらないだろう。十分に人件費を減らした後に、またそれ以外の、辞めさせない政策にお金を使えばいい、なんて考えが主流だと思われる。

色んな会社を外から観て「うちの会社はこんなにキラキラしていて、福利厚生も労働環境もこんなに充実しています!」という求人広告を見ながら、一方で平均給与の数字を見て思うのである。まあそういうことですよね、と。