大学を卒業し、新卒のころからIT業界に入り、およそ25年経つ。
長い時間いないとわからないことはたくさんある。
結局、ディスプレイとキーボード、そしてマウスというこの入出力3点セットは何もかわっていない。ブラウン管から液晶になった上に解像度が上がりたくさんの情報が表示されるようにはなったけど、キーボードやマウスはちっとも形を変えていない。これは面白いことだよね。だって先進技術!とか言ってても外形はほとんど変わっていないんだから。VRとかスマホとかあるけど、仕事としてはパソコン一択だ。そしてそのパソコンの形は変わっていない。それぐらいこの3点セットが洗練されていたということだと思う。パソコンの処理能力はどんどん上がったけど、人間の処理能力は全く変わっていないので、人間のインターフェースがそこまで変わることはないんだよねという思考に行きつく。
昔と今とで大きく変わったのは、労働環境だと思う。昔は人間は人間扱いされなかった。仕事が終わらないんだったら会社に泊まってでも仕上げろという指示がパワハラ扱いされなかった。時計が24時を回るころ、終電も近いというときに会社を出るのが、社会人、というのも当たり前だった。そこで発生する残業代をちゃんと払えるか払えないかで、いい会社と悪い会社が分けられた。あの会社は残業代ちゃんと出るんだ、いい会社だね、と言われる時代だった。
特に開発部門がそういう傾向にあったように思う。納期があってそこまでに作る。それなのに間に合わない。業界がまだ未成熟で、プロジェクト管理方法も無ければ、開発環境も貧弱だった。どんなに優秀な人でもスケジュール通り進めるのは至難の業だった。労務管理も適当だったので、そこはもう気力体力時の運の世界になっていた。私は何を思ったか、新卒の段階で開発部門の組織を希望せずITサポートの組織の方を希望していた。結果的に大手のサポート部門に潜り込めることになった。
大手のサポート部門は超絶ホワイトで、残業をほとんど行わず働くことができた。私の二十代は残業がほとんどない。多分あの時代のIT業界でそういう環境で過ごせたことが私のラッキーの一つになっている。もし、残業上等休日出勤上等の世界で二十代を過ごしてたら今の私にはたどり着いていないだろう(どうなっていたのか興味はあるが)。
三十代になってサポートからインフラ運用の仕事に変わったのだが、そこは大変だった。二年ほどは残業時間が膨らむ仕事場にいたのだが、これはこれで経験になっている。この二年間で現場の運用を立て直し、残業があまり発生しない世界に改善することはできたが、リーマンショックのおかげで急に職場を去ることになり、世の中の厳しさを教えられた。大変な職場だったが二十代に身に着けた知識が活かせたり、システム運用の厳しさを知ったことで、その後のキャリアの基礎となっている。
こうやって自分のキャリアと25年の前半部分をふまえ、そして今を考えると普遍的な原則のようなものが見えてくる。
・基本的な情報処理技術はほとんど変化がない。
・ハードウェアの仕組みはほどんど変わっていない反面機能は恐ろしく向上したため、昔アイデア倒れで終わったことが、今そのまま実現できている事例が多い(AIやビッグデータ、インターネットでのソフトウェア配信など)。
・WEBアプリケーションサーバーや、データベースの仕組みは、基本については登場時からほとんどかわっていない。
・一方で、実装方法はどんどん変わっている。同じ言語でも登場時と今では全然使い方が違う。
・違う言語であっても一つの言語をマスターしていれば比較的短時間で使えるようになる。そうじゃない言語はすぐ廃れる。
・昔は構築したら何も変えないでそのまま使い続けるのが主流だった。今は、どんどん改善・改築してアップデートしていくようになっている。
昔は結構職域のようなものがはっきりしていて、プログラマー・システムエンジニア・サーバーエンジニア・ネットワークエンジニア、みたいな分業体制だった。かつその中でどんなスキルを持っているかを明記し仕事するようなスタイルだった。ところが最近は、クラウドも現れてその境目が溶けだして、開発の上流・下流、そしてインフラぐらいしか区別はないと思う。これは実装方法が流動化していて、せっかく何か特定の技術をおぼえても来年にはまた新しい方法がでてきているかもしれないし、一生食べていくような保障が何もないところから来ていると思う。
古い技術にしがみつく、ということがどんどんできにくくなっている。
ただ、基本さえできていれば、技術はすぐに使える方向に進化していっている。クラウドも、ノーコード・ローコードも、そして最近の開発技術もどんどん、「すぐ使える」がコンセプトとなってきている。
この「すぐ使える」というところだけを切り取って、「未経験でもすぐ戦力なれる/高収入」みたいな宣伝文句が巷で流行しているようだが、俯瞰的に考えると、基本がない人は、技術がどんどん変わっていく様子に追随できなくなるだろう。それこそ、そのツールしか使えない技術者の出来上がりだ。それでは短い期間でIT業界をすぐに退場させられてしまうことになりかねない。
だから、今こそ基本が大事になっていると強く思う。以前こういう記事を書いた。
最近は、基本情報処理技術者試験もCBT方式と言って、パソコンに回答する方式に変わって来たようなので、ますますお勧めだ。
基本さえ身に着けておけば、業界がどんどん様変わりしても、どんどん追随していける。昔と違って、人間もアップデートを頻繁にしていく時代に変わっているのだ。そのためには基本が必要となる。
※興味を持った方のために良さそうな本を置いてみる。はじめは「やさしそうな」本から入るのがお勧め。
以上は私の経験を踏まえたIT業界イメージで、私にとっては当たり前のことだけれど、他人にとっては別世界なのかもしれないので、誰かの役に立つかも知れず書き留めておきたいと思う。