orangeitems’s diary

40代ITエンジニアが毎日何か書くブログ

ワークスアプリケーションズの経緯から学べること

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ワークスアプリ筆頭株主が経営権売却へ、の記事

日経ビジネスが、ワークスアプリケーションズの件でスクープ記事を出しています。

 

business.nikkei.com

システム大手のワークスアプリケーションズ(東京・港)の筆頭株主が経営権を売却する交渉を進めていることが16日、日経ビジネスの取材で明らかになった。働きやすい会社としての評価も高く、若者を中心に就職先として人気を集めてきたが、最近は業績不振に陥っていた。ワークスアプリの株式を6割強保有している投資ファンドが、全株を手放す意向で、売却に向けた入札を実施している。新たなスポンサーの下で経営の立て直しを迫られることになりそうだ。

 

ネットメディアにおいても、ここ数年革新的な企業として取り上げられることが多かった同社ですが、どこに業績不振となる原因があったのでしょうか。

巨額の訴訟等は有名なのですが、見方を変えて、これまでのメディアの記事を中心にこれまでの経緯を追ってみたいと思います。

 

2000年~2009年までの記事から

2004/12/3 ビジョン

www.atmarkit.co.jp

最後に牧野氏は、「多くの大企業では、会計システムそのものにはR/3を利用していても、周辺システムがレガシーである場合が多い。当社のシステムは周辺システムもノーカスタマイズで対応できることを強みにリプレイスを狙う」と戦略を披露。さらに、「SAP、オラクル、ピープルソフトの世界3大ベンダに対して、日本の商習慣に完全対応していることを強みに競争し、ERPパッケージ世界4大ベンダの仲間入りしてみせる」と夢を語った。

私は企業のビジョン以上には企業が成長することはないと信じていますが、SAP、オラクルと並ぶERPベンダーになりたいというビジョンを立てた時点で、SI、人事、財務、いろんな面における大胆な施策が実行に移されたと解釈しています。

それが正しいかどうかにかかわらず、ビジョンによって組織は大きく動かされていくのです。

 

2008/3/7 人事

www.atmarkit.co.jp

ワークスアプリケーションズのいまの基本方針は優秀な人材は数の限度を設けずに「すべて採る」(小河原氏)ということ。そのためにはIT業界の外からも人材を求める。同社はIT未経験者を対象にした採用活動「問題解決能力発掘プログラム」を実施している。IT業務は未経験でも、“地頭”のよい若手を募集し、5カ月の特訓で同社のコンサルタントや研究開発エンジニアに育て上げる。

この「すべて採る」という方針が、記事冒頭の2018年6月期に7,000人の社員数まで膨張していることは明らかだと思います。

 

2009/1/23 ビジネスモデル

japan.zdnet.com

ワークスの場合、製品の作り方がユニークだ。COMPANYでは基本的に個別のカスタマイズを行わない。顧客のニーズは汎用化した上で、標準機能に取り込んでいく独特のやり方をとる。宮越氏は「パッケージの標準機能としてお使いいただく。ニーズを汎用化し、標準機能にするのは、当社の開発陣にとっては困難なことだが、それが当社の価値だ」と話す。

ワークスを語るときに外せないのがCOMPANYという製品です。日本のSIがフルスクラッチ・カスタマイズありきの常識の中で、ノンカスタマイズのパッケージソフトウェアビジネスを立ち上げました。

お客様目線で言えば、COMPANY利用中で保守料さえ支払えば、どんな機能変更が起こっても定額保守内でやってくれると思うに違いありません。他ベンダーから見ればどうやったら採算が取れるのか不思議だったはずです。

 

2010年~2014年までの記事から

2010/10/26 人材戦略

mag.executive.itmedia.co.jp

内容の濃い記事であり引用は控えます。

とにかく課題解決型の人材を登用し、イノベーションを最も重要視し、チャレンジした結果失敗に終わっても責任を問わないということだと思います。

下記は個人的な感想です。

社員が数千人となると、イノベーション志向は乏しくても、調整型/業務遂行型の人材は特に必要になると思います。これを軽視すると、タイプの違うイノベーションが混在してしまったときに摩擦が起こりマイナスのエネルギーが生まれます。勝ち負けということにまで発展し、優秀だった人材が退職していくというシナリオも生まれます。戻ってきてほしいという制度をいくら作っても、戻る隙間もないと思われます。

私個人はイノベーション志向が強いので大きな組織が合わないと思っていて、仮に数千人もイノベーターが同居してしまい調整型がいないとすると、やむなく誰かが調整役にならねばならず、本来は業務に対する課題解決をしたいのに、顧客と自社、自社の組織間、部門の担当者間での調整に追われ・・嫌になってしまうということが起きるのではないかと想像しますがいかがでしょうか。

 

2012/9/13 クラウド(IaaS)対応

japan.zdnet.com

ワークスアプリケーションズは9月13日、IaaS/PaaS「Amazon Web Services(AWS)」上で同社の統合基幹業務システム(ERP)パッケージ「COMPANY」を稼働、運用するサービス「COMPANY on Cloud Managed Service(CCMS)」を発表した。9月下旬から提供する。

 2012年の段階でAWSでビジネスインするというのは、かなり素早い対応だと思います。ここに来てのAWSの隆盛はご存知の通りです。

 

2014/10/8 SaaS対応

tech.nikkeibp.co.jp

ワークスアプリケーションズは2014年10月7日、同社が開催したイベント「COMPANY Forum 2014」で、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)型ERP(統合基幹業務システム)「HUE(ヒュー)」を発表した。2015年春に販売を始め、2015年中に提供を開始する。牧野正幸代表取締役CEO(最高経営責任者)は、「HUEはこれまでのERPの常識を創造的に破壊する、全く新しいERPだ」と語った(写真)。

長期に記事を追っていると、どうもこのHUEというプロダクトに相当な投資をしていることがわかります。HUEの登場を機に経営に対するネガティブな記事が出るようになっていることから、ここは大きなポイントとなると思います。

下記は個人的な感想で根拠はありません。

新規ビジネスを立ち上げる決断をした時点で、優秀なエンジニアがHUEに流れた可能性があると思われます。しかし、主力パッケージCOMPANY自体が、定期保守の中で顧客の希望をパッケージに取り入れるというモデルであるため、この維持が立ち行かなくなりトラブルが続発したのではないかというのが私の推理です。

定期保守による定期収入を基本としたストックビジネスを会社の基盤であるとした時点で、このストックビジネスに対応するコア人材は絶対に手放してはいけないと思います。もともとイノベーション体質の人材ばかりだとすると、優秀なエンジニアがHUEに偏ったのは想像に難くありません。

なお、繰り返しますが勝手な想像です。

 

2015年~現在までの記事から

2015/2/11 HUEとクラウドネイティブ

japan.zdnet.com

代表取締役最高経営責任者(CEO)の牧野正幸氏は、HUEについてERPパッケージをSaaS対応にしたものではなく、「ゼロから作り直している」と説明。“SaaS型ERP”や“クラウドERP”ではなく、“クラウドネイティブ”なエンタープライズアプリケーションという言葉でHUEの立ち位置を表現している。

内容の通り、一から作り直したとすると相当な投資をしたことがわかります。

 

2015/12/11 AI

japan.zdnet.com

代表取締役で最高経営責任者(CEO)の牧野正幸氏は、「完全に分業化している企業は違うかもしれないが、経営層の仕事でもスプレッドシートに入力し、分析といった、経営判断とは異なる業務はたくさん残っている。こうした業務が人工知能によって自動化されれば、仕事の50%は省力化されるのではないか」とERPに人工知能を組み込むことで、業務効率が大幅に改善されると説明した。

さすがイノベーションをコアビジョンにするだけあって、2015年の時期にAIを取り入れようとすることは称賛されるべきだと思います。

実際におっしゃっていることは、のちのRPAにつながっていますし、また、AIにおいては2019年になってもまだまだビジネスになっていないのが現実です。先見の明はあったものの、資源を投入するにはまだまだ様々な壁が大きく、現場は困難を極めたのが想像できます。もし、本格開発するのが今だったら結果は違ったのかもしれません。

Google Glassですら、失敗の扱いを受けていますから、どれだけイノベーションを成功させるのが難しいかということを暗示している気がします。

news.yahoo.co.jp

 

2017/6/4 ぶれない人材採用方針

style.nikkei.com

多くの日系企業が海外の優秀な人材獲得に苦戦するなか、アジア圏を中心に多くの大学新卒者の採用に成功してきたワークスアプリケーションズ。2016年度も中国やインドの有力大学を出た理系の学生たちが入社した。米シリコンバレーのIT企業幹部にはインド工科大学(IIT)出身が多い。アジアのエリート大学の学生がワークスアプリを選ぶ理由のひとつは、若いうちから能力を伸ばせる機会が多く、将来のキャリアアップの「踏み台」になり得ることだという。米グーグルやアマゾンとの人材獲得競争に挑む牧野正幸最高経営責任者(CEO)に聞いた。

人材採用に関する姿勢は、当初から全く変わりませんよね。

 

2017/10/10 訴訟

it.impressbm.co.jp

日本のERPシステム大手であるワークスアプリケーションズ(ワークスAP、牧野正幸CEO)に関して、気になる話がある。2017年5月に兼松エレクトロニクスがワークスAPに対して14億円強の賠償を求めて訴訟を提起したこと、それに予約購読制の情報誌「FACTA」が2017年10月号に掲載した「業務ソフト大手『ワークスアプリ』が視界不良」と題する記事だ。ワークスAPに何かが起きているのか。実際のところはどうなのか─。牧野CEOを直撃した。

対外的に潮目が変わったのはFACTAの記事からです。本記事では財務面についての内容が主ですが、システムエンジニア目線で言えばプロジェクトにおいてテストフェーズに入る合意が顧客と取れないほどの混乱が生じていたことが大事だと思います。

なお、HUEではなくCOMPANYの問題です。

 

2017/11/11 火消し

style.nikkei.com

最近、一部で当社の「資金調達がうまくいっていないのではないか」という趣旨の報道がありました。社員と顧客には、すぐに説明しましたが、銀行やファンドとの守秘義務があり、すべては明らかにできなかった。非常に申し訳ない思いでした。私に限らず、経営者は、じっと我慢し、時機を待つなかで、自分だけで抱えなければならない事柄も多いはずです。

日経が火消しに協力したような形になっている記事です。

 

2017/12/25 財務増強

tech.nikkeibp.co.jp

日本とシンガポールに拠点を置く投資会社ACAグループから50億円の出資を2017年10月に受けたワークスアプリケーションズ。それまでワークスアプリケーションズについては、「財務基盤に不安あり」との報道も流れていた。ERPパッケージを手掛ける同社のCEO(最高経営責任者)を務める牧野正幸氏に真相を聞いた。 

私もこの時点で、とりあえずの急場はしのぎ切ったとみていました。

 

2018/11/6 さらなる訴訟

www.nikkei.com

古河電気工業は2018年11月6日、同社と同社の子会社である古河ASがワークスアプリケーションズに対して訴訟を提起したと発表した。損害賠償金として50億4644万3971円の支払いを求めている。

古河電工の発表によると、同社と古河ASは2016年に基幹系システムの構築プロジェクトをワークスアプリケーションズに発注。しかしプロジェクトに遅延が発生し、本稼働予定日までにシステムが完成しないことが判明し、契約を解除。支払い済みの代金の返還などを求めて提訴したとしている。

こちらは既報の通りです。

 

2018/11/7 財務面の記事

kabu-press.com

かつて日本を代表するベンチャー企業として知られていたワークスアプリケーションズ。上場していましたが、2011年にファンドの支援を受けてMBOを行い非上場化していますが、2018年6月期に180億円の赤字の計上が官報で判明しました。

数字はうそをつかないというか・・。総資産519億に対し株式資本が26億。ここから、冒頭の記事に返るということになります。

ACAが株式を手放すと同時に、どこか別の投資会社が引き受けつつ資本増強することで安定化する・・のかはわかりませんがそのような筋書きが現実的だと思います。

 

まとめ

世の中の新規事業のほとんどが失敗に終わる中で、売上400億クラスまで手を広げており学ぶべきところは多い事例だと思っています。

イノベーションは成長のためには必須ですが、それだけでは企業は持続しないことを学びました。未来をどうするかも大事ですが、今をどうするかも同じだけ大事だということです。財務的に重要な局面であることはわかりますが、ワークスアプリケーションズのプロダクトを現在も利用している企業数も多く、現場は立ち止まることはできないはずです。今後のかじ取りに注目していきたいと思います。