社員は「代わりのきかない人材」を目指すが、経営者はそれをリスクとみなす矛盾

 

仕事をしている方なら誰でもわかると思うけど、仕事場において自分の代わりとなる人がいない方が都合がよい。辞められたら困るからだ。この人にずっと会社にいてもらいたいと経営者が思えば、待遇も上がるし変な人事もない。従業員という立場においては、自分がより、会社に貢献するとともに高度な技術を身に着け、競争相手である同僚にアドバンテージをつけることが重要だと思う。とても自然だと思う。仮に何らかの理由で会社を退職するとしても、そこで身に着けた技術は他の会社でも売れるので、全く損はない。

色んな意味で、この人に真似できないくらいの能力を持っている感じ、いわゆる異能感を磨くのだが、これをやり過ぎて放置するとどうなるかというのも考える必要はある。

会社の事業において、この代わりのきかない人材しか担当できない分野の面積が大きすぎると、仮にいなくなったときに大きなダメージを受ける。シンプルな理由だが、このためにビジネスが急減速した例はかなりある。中途採用で補えばと簡単に考える経営者は危険だ。異能であるからこそできていたそれを、他から持ってくることができるかは、後手に回ると賭けに近いし、対策としても遅すぎる。外注を探し・・と言うのも、会社の事業のコア部分を他の会社に任せるというのは本末転倒である。

だからこそ、代わりのきかないポストというのはできるだけ会社から排除する必要があるのだが、特にビジネスの立ち上げ段階ではそこまで人をアサインできない。ビジネス拡大とともに、人材のリスクは大きくなっていく。

この経営側にとってのリスク、実は従業員から見れば知ったことではないのである。自分がいなくなるリスクは会社はあるのかもしれないが、自分は別の場所に行くだけだからその後のことなんて知ったことではない。それより、代わりがいるからと言ってぞんざいに扱われることの方がよっぽどリスクなのだ。この点で経営者と従業員の間には構造的な矛盾が生じる。

従業員はこんな防衛をする。仕事を引き継ぎしにくくする。周りへの報告を減らし何をやっているかわかりにくくする。でもすこぶる成績はいい。だから評価も上がる。そうやって、ブラックボックス化する。彼に任せておけばいいという状態を作り上げる。そしてある日、転職すると言いだし会社を慌てさせるところまで、あるあるだ。

経営者はそのリスクを大きくしないために、人事でカバーするべきだろう。直属の部下を付けて仕事をおぼえさせる。メンバーを増員し分担させ影響力を下げる。外注も使いつつナレッジをシェアしていく。組織が小さいうちは全権を担っていた部分を、分割しつつ誰でもできるようなことはチームメンバーに引き継がせる。そうやって、組織でチームで業務を解決するようにしていくだろう。

結構、40代にもなってくると、経営者の気持ちもわかるし、かといって自分は従業員である。会社としてあるべき方向と、従業員としての防衛本能。この間で揺れ動くのである。自分は会社にとって不可欠な存在であらねばならないと思うと同時に、それは経営としてはリスクである。この二つの天秤のバランスを自分で取らなければいけないという状況。そしてこれを放置すると、自分の評価まで下げてしまうのではないかという話である。

結論としては、やはり人材採用を充実させ、優秀な人材を複数配置し、一人当たりの担当領域の面積を小さくしていくしかなさそうだ。小さくしたうえで能力を最大限発揮させる。これはビジネスが拡大したからこその悩みなので、おそらくゼロイチ(0→1)の話ではなく1→10の話なんだろうと思う。

従業員個人としてはあまりうれしい話じゃないけど、誰しも頭の片隅にこの話を携えておかないと、ある日、リスク対策の話に及んでしまうので注意である。「代わりのきかない人材」はリスクにもなるのである。