orangeitems’s diary

40代ITエンジニアが毎日何か書くブログ

オープンソースとフリーライダー、昔からそこにあった問題。クラウドサービスによって潮目が変わる。

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もう無理 from オープンソース

オープンソース開発元が、成果物をそのままクラウドベンダーがビジネス利用し、しかも巨額の利益をオープンソース開発元に還元しない、いわゆるオープンソースのフリーライダーが横行しているという件です。

 

www.publickey1.jp

オープンソースソフトウェアの開発元がクラウドベンダへの不満を表明し、商用サービス化を制限するライセンス変更を行う例が続いています。

 

実際のライセンス変更の中身を見ると、こんなことが書かれています。

www.confluent.io

コードを使用してSaaS製品を構築できますか?

はい、ほとんどの場合Yesです。SaaS製品を構築している場合は、Confluentコミュニティソフトウェアを使用できます。

唯一の制限は、ソフトウェアを当社の独自のマネージドサービスオファリングと競合するオファリングとして提供するマネージドサービスオファリングにあります。したがって、たとえば、KSQL自体が提供されている製品であるSaaS製品を構築することはできません。

 オープンソースの開発元がマネージドサービスとして運用しているビジネスと競合して、オープンソースを利用してはならぬ、ということです。

オープンソース開発者が、「もう、無理。。」、と言っているように思います。

 

オープンソースフリーライダーの議論は古くからある議論

まだ強気だったころ (2006年)

2006年の記事を紹介します。

hyoshiok.hatenablog.com

フリーライダーというのは、共有地の悲劇として知られている、誰もがそこから利益を得るのだけど誰もそこのコストを負担しないようなことが続くと、財が消費されて終わるという時、コストを負担せづに利益だけを得る人を言う。

 嗚呼、まさに今回の件を表現していますね。

オープンソースって、フリーライドされまくるんじゃないかという懸念に対する文章です。この文書の結論として、以下のことを言っています。

 

OSSの場合、フリーライダーが仮に存在したとしてもOSSに直接的な悪影響を発生しにくいというような意味でネタにマジレスかこわるいであった。

 当時は、クラウドのない世界でした。ハードウェアがあり、OSがあり、そしてミドルウェアがあるという古き良き時代でした。ハードウェアベンダーはその上に乗っかるOSとして何もしなければWindows Serverにすべて市場を奪われる危険性があったのですが、だからといって各社独自OSを作るより、Linuxとそのうえで動作するミドルウェアをオープンソース化するほうがコストが安いと判断しました。ハードウェアベンダーはお金だけではなく人的リソースも含めてオープンソースを支援し、Linux全盛の今日があります。

さて、オープンソースがあるからハードウェアが売れる。ハードウェアが売れるからオープンソースに投資する。この関係ですが、ハードウェアベンダーはあくまでもハードウェアを売るのが目的だったので、オープンソース開発元が行うマネージドサービスオファリングとは競合しなかったというわけです。

 

まだ強気だったころ2(2008年)

ダメ押しにもう一つ。

www.nurs.or.jp

「あなた」には「街をきれいにするという義務」はないかも知れないが、街がきれいになれば、気持ちよく街に住めるだろう。だから街をきれいにしたいと考えることは、何もおかしくはない。そこに「住んでいる」者の当然の「権利」なのだ。それは「街をきれいにしない人」はフリーライドしているように見えるかも知れないが、たとえば「ゴミ箱」をどこに置くかは、「街をきれいにしている人」が決めることが出来るし、「自分の家の前を最初にきれいにする」ことだって出来る。「貢献」する者は、意思決定に参加する権利を得るのだ。

「あなた」には「フリーライドする権利」がある。それがオープンソースだ。しかし、「フリーライドしない権利」もあるし、そっちの権利を行使した方が得であることも少なくないのだ。

 今、クラウドベンダーが真顔でこれを言ったら、蹴り飛ばされるだろうなあという内容です。結局のところ、ハードウェアベンダーであったり、RedHatのような会社がメリットがあるからお金も人も「好きに」出してくれるだろうということを前提としています。

特定のクラウドベンダーの登場で、この前提が大きく崩れたということに他ならないと思います。

 

予見されていた今の状況 (2004年)

これは日本の中の話とも言えますが、フリーライダー問題はこの時点で問題提起されています。

tech.nikkeibp.co.jp

まず,企業は,社内のオープンソース/フリー・ソフトウエア活動を認知すべきです。オープンソース・ソフトウエア開発者が,夜,家に帰って寝ずにやっているのが健全な姿ではないはずです。昼間,勤務先でもできるように,活動を認めなければなりません。

 また,オープンソース/フリー・ソフトウエアの開発者を雇用すべきです。開発者が好きでやっているのは確かですが,かすみを食っているわけではない。経済的基盤が必要です。

 例えばSRAは,PostgreSQL開発チームの中心メンバーであるBruce Momjianをコンサルタントとして契約して収入が確保できるようにし,彼がPostgreSQLの開発に注力できるようにしています。PostgreSQLを使用して恩恵を受けている企業はほかにもたくさんある。何もしないで利用するだけでは,フリー・ライダー(ただ乗り)と非難されることになりますよ。

(中略)

また,ソフトウエア開発自体がプロセスであるということが考慮されていない。ソフトウエアは何年にもわたって改善され続けていかなければならないのに,作るだけ作ったらそこで支援もおしまい,というのでは,よいソフトウエアは決して生まれない。単年度予算主義から抜け出すことが必要です。

 フリーライダーが、オープンソースを破壊するというのは、そもそものITの単年度予算主義から生まれているという指摘です。仕事しながらオープンソースを触っていたら、そりゃあ業務外じゃないかみたいな文化って残念ながら現実も変わっていませんね。そして日本がオープンソースに対するフリーライダー気質は変わりないかと思います。

 

でも問題意識もある(2019年、2017年)

こちら、今日出たばかりの記事。

developer.hatenastaff.com

具体的には以下のようなトピックを取り上げます。

- OSSコミュニティがどの様に成長し、どの様に人を育てるのか、
- 「普通の」エンジニアがOSSに貢献する方法や
- 良い車輪の再発明、悪い車輪の再発明
- OSSフリーライダー問題
- 業務でどうOSSに関わるか
- エンジニア向けSaaSを運営する上で、どの様にOSSを戦略的にやるか

 ということで、はてなは、フリーライダーには心を痛めていて、社内的にどうするかを具体的に行動されている企業だと思います。

 

こちらは2017年の話。

www.iii.u-tokyo.ac.jp

【講義概要】
IT企業においてオープンソースソフトウェア(以下、OSS)の活用は一般的になっており、コスト削減のためにのみOSSを活用することは競争優位を得る要因ではなくなっている。OSSを活用したITソリューション市場で優位性を獲得するためには、OSS自体への知識、開発力を高める必要があり、そのためにOSSの開発プロセス自体に関与すること、すなわち開発プロセスの過程へ貢献することは避けられない。しかしながら、日本の多くのIT企業にとって主要OSSは,未だに活用対象であり,これに対してOSSへの開発貢献は依然として低く,日本のIT企業がOSSのフリーライダーとなっている。

 一般的にはそうですよね。。

 

核心と怒り(2017年)

www.geek.sc

これは名文なのでぜひ読んでいただきたい。

耳の痛い人は非常に多いと思います。。

 

オープンソースが変わる潮目?

このように、フリーライダーに長年の間寛容な姿勢でいたオープンソース開発側も、一部のクラウドベンダーのフリーライダーの度が過ぎることから、態度を硬化させたということが起こっているのです。

クラウドベンダーのフリーライダーサービスをユーザーとして使おうものなら、自身がフリーライドしていることと同じ意味になってしまうのがわかりますでしょうか。

ライセンス上それができなくなったとして、AWSのAmazon DocumentDB(mongoDB互換)の例のように中身をそっくり入れ替えてクローズドソースにしてしまうのが果てしてよいことなのかどうか。

オープンソースの潮目が変わったと感じる2019年1月のこのトピックでした。