orangeitems’s diary

40代ITエンジニアが毎日何か書くブログ

ダメな内製化もあるという話

 

内製化すればいいというものじゃない、ということを考える。

 

japan.zdnet.com

 ガートナージャパンは1月18日、日本でのソフトウェア開発の内製化に関する調査結果を発表した。方針が内製化の方向にある企業が54.4%に上り、IT部門の人手不足が開発内製化の最大の障壁になっていることが分かった。

 

最近はデジタルそのものが商行為になることが多く、それ全体を外部ベンダーに乗っ取られたら、会社からノウハウが流出してしまうというのは正しいと思う。

だからといって、それを自社で全部賄うというのは、デジタル自体の仕組みから言ってかなり無理のある思想に思う。

デジタル自体、外部ベンダーが基盤を作っている。ハードウェアからネットワーク、ソフトウェアまで全部自社にあるものは何もない。

その上で書くコードだけは内製化、としても、かなり小さな面積だなと率直に思う。デジタルにかけるお金のうちかなりの額がすでに外部にある。

せめて、何を選定するか。選定したものの組み合わせ。そしてその上で開発したソフトウェアを内製する、という狭い内製の概念で考えるとしてもだ。

何を選定するかについて、どうやって社内で最適であるという納得感を担保するのだろう。たくさんの相見積をして、安ければいいのか。自社内にテクノロジーをスマートに解釈する基盤がいつもあるというのはどういう自信なのだろうか。安くても、導入してみたら遅い、負荷に耐えられない、しょっちゅうトラブルになる、では意味がない。

また、社内で作成したものを、どうやって保守し続けるかについてビジョンがどこまであるのか。頼れる外部ベンダーがいない状況で、社内にいつでも有識者を確保し、問題があれば責任持って対応できる体制を、いつも用意することの難しさ。

 

ある大手SIerのシニアエンジニアが、全くITとは無縁の当社に入社してきた。役員が口説き落とし情報システム部長としてリクルートした。

その部長は、内製化に向けて大きく舵を切った。部長が長らく経験してきたテクノロジーを当社のシステムに採用するとともに、ITに詳しい中途採用社員を増やした。もちろんコストがどんどん増えたが、役員の助けもありこれは投資だと言い張った。

部長がやり手だったということもあり、複数のシステムが内製で構築され、そして実際にサービスインに至った。当社は内製化の成功例としてメディアにも頻出することになり、そこで当社が使っていたテクノロジーについては、その企業のイベントでも優良事例として登壇するまでになった。

情報システム部門の規模が大きくなったため、分社化も果たした。分社化の根拠としては、内製化で抱えている人員のコストが無視できなくなったためである。当社内のシステムを抱えているだけで毎月人件費がかかっていき、そして社員も社内システムということで、食いっぱぐれる危機感も感じなくなる。したがって、外部の会社の内製化も手伝うビジネスも始めたらどうかということになった。

ところが、ここで問題が起こる。内製化を率いていた部長が突然退職した。理由はわからないが、キーマンが抜けた。大混乱が起こる。結局のところ、外部ベンダーを社内に作っていたに過ぎないから、その外部ベンダーのキーマンがいなくなったら、普通なら別のベンダーに乗り換えるところである。しかし、当社の中の話である。残った情報システム子会社、誰がこれから切り盛りするのだろう。

今までの内製化における、さまざまな選定の根拠が部長そのものだったため、当社のIT戦略は根本から見直す羽目になった。そもそも「なぜ」がなかった。部長が全部決めていたからだ。

 

・・・というのは架空の話だが、ダメな内製化とならないよう、各社頑張っていただきたい。

自社情報システム部門は「切れないベンダー」と同義なのである。