orangeitems’s diary

40代ITエンジニアが毎日何か書くブログ

システム内製化とアウトソーシングの話

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内製化とリスクの話 

システム構築を内製化したよすごいでしょ的な記事を見かけるんですが、負の側面もあるんじゃないかと思いまして。

 

 

SIerから社員を引き抜いて、自社の情報システム部門に入れて内製化させるっていうのはたまに聞きます。「ほら、自社のシステム部門でもSIerに頼らずできるでしょ」って言う社長のドヤ顔は浮かぶのですが、リスクがあると思うんですよね。

 

誰が面倒をみるか

結構システム構築を行なったり、運用テストから本番リリースに行くまでは結構、内製化楽しいんですよ。だって、お客様は自社の社員です。言いたいことも言える関係だし、何か大きな失敗をしてもリカバリーに対して寛容です。経営者も手ごたえを感じます。スタートアップのテック企業はそもそもそういう雰囲気でしょう。

ただ本当の戦いは本番リリース後です。システムは変更を前提とするし障害も発生します。保守しながら変更管理を行わなければいけません。それを担当するのはもちろん内製化していますから、自社の社員が実施する必要があります。

しかし、リリース後に内製化に携わった社員全員をそのまま張り付けておくわけにはいきません。社内で遊んでいたら人件費分丸損ですから、違う仕事に割り振られたりします。保守に必要な人数だけ残して残念ながら離散してしまいます。リリース後はテスト後ということもあり障害も少なく変更対応もそこまでありませんから人数は大きくしぼられてしまいます。しかし変更しないシステムなどあり得るはずもなく、数年後変更が必ず必要となってきます。もしくは基盤の問題等も発生しやすくなってきます。その時に本当に対応できるかどうか、これは内製化した後に非常に問題となってきます。システムは5年から10年使われるのに、社員がその期間、その会社に雇用され続けているかどうかは非常に危ういのです。

これが、アウトソーシングしたベンダーの場合、ベンダーは法人です。もし担当者が変わったとしてもきちんと引き継ぎができるように指導されています。法人は「人間」ではないので経営に問題がない限りは永遠の命を持ちます。システムの責任を法人に持たせるのはしたがって、非常に合理的だと思います。有限の人間に、いつまで使うかわからないシステムの責任を持たせるのはかなりリスキーなのだと思います。

一方で、GAFAなど自社でSIできる会社の情報システム部門は、自社でSIベンダーと同じぐらいの体制と技術を持ちます。自社向けのSI部門を持っている上で彼らは内製化しているのですから話が違います。

 

内製化を成功させるためには

内製化自体を否定しているのではありません。

内製化を成功させるためには、システム部門をSIベンダー並みの体制にしつつ、そのコアメンバーが会社を離れないように十二分な待遇を与える必要がある、と言っています。

だってこれからの情報システムは、事業そのものになっていきます。デジタル化しない事業はどんどん陳腐化していくのはもはやビジネスの常識となっています。経産省は2025年と期限まで切っています。

では、そのコア部分を内製化によって構築する自社の社員は、事業のコア部分そのものと言えます。そういう方を、これまでの「ひとり情シス」のようなバックオフィスの単なる一担当のような扱いをしたら、例え内製化に取り組んだとしても他社に移るでしょう。だって、それぐらい価値のある仕事です。

SIerは去年くらいまではかなりの逆風下にあり、かなり揶揄されてきました。ユーザー企業の言った通りのことしかできないし、古いシステムをお守りしてその遺産で食べているだけみたいなことも言われていましたが、今年に入ってかなり潮目が変わりました。SIer自身もユーザーに対して提案しようとしていますし、デジタルビジネスをユーザーと共に考え、リードしようとしています。そしてユーザー企業の投資もかなり活発になっています。

この状況下で、本当に内製化に取り組むのであれば、体制・待遇について十年単位でビジョンを策定し、所属メンバーの心理的安全性を高め、永続的に成長していく仕組みを持たなければいけません。

もし、今それができていても、五年後できていない。実際内製化に成功した会社が、五年後にその仕組みが傾いていると言った話を耳にします。あんなに自社の技術力はすごいんだぞ‥と言っていた会社が、そう言っていた人自体いなくなっている。そして保守に四苦八苦している。

個人的には、企業の情シス部門は低いレイヤーはアウトソーシングし、業務の要件化、基盤技術の選定、ベンダー選定とコントロールに注力しつつ、ベンダーにその実装および保守・変更を任せると言った、従来の日本的SIの仕組みは保持した方がいいと思います。

一方で、内製化しテック企業を目指すなら、結局はSIerと同じことを自社内で抱える宿命にあります。そこまでの覚悟を持って臨んでほしいところです。