事業会社があるとする。
大抵の規模の事業会社は、会社の歴史もあり、仕事の仕方自体もかなりアナログである。歴史の中で機械化はしてきたが、機械化とデジタル化はまた違う。機械化は人手でやっていた手作業を物理的に機械にやらせることだ。デジタル化は、色んな情報の取り扱いをパソコンやサーバーなどで自動計算させることだ。しかも、単なる計算だけではなく、利用者の入力と同期してさまざまなデータを出力することができるようになった。
昨今は、この情報の取り扱いについて、利用者にスマートフォンとインターネットがくまなく配られたこともあり、事業そのもののやり方を見直し、よりデジタルを意識していかないと競合他社に差を付けられるようになった。何をするにもこれまでのような人手を大量に使うようなやり方、人海戦術は、お金ばかりかかって利用者には評判がよろしくない。デジタルを使って、対人でのやりとりをしなくてもサービスが得られるようなやり方にしないと、いくらいい物を作っても見向きもされなくなってしまう。
これまでも、システムは使っていたよ。会計システム、在庫管理システム、人事システムなど、基幹システムと呼ばれるものはお抱えのITベンダーとお付き合いしながら導入してきた。数年に一度、保守の観点から入れ替えながら対応してきたし、これからもそうするつもりだと思っている。
ただ、昨今のデジタル化というのは、こういった基幹システムの開発や運用とは全然違う。これらのシステムはまさに裏方の働きで、事業そのものについてはやり方を変える必要もなかった。うちの仕事の仕方は歴史に裏付けられていて、いろいろな試行錯誤のもと改良し、そしてお得意様もおり従業員も慣れていて変えられない。基幹システムはいろいろとITベンダーに手を入れてもらって、うち専用の仕組みを取り入れてもらっている。ITベンダーのエンジニアたちも、参考になると目を丸くしていたからね。やっぱり仕事というのは、人間が先で、デジタルでもそうでなくても根っこは同じだと思ってる。
それでな、ITベンダーに昨今のデジタル化、DXっていうのかな、を相談してみたんだけど今一つラチが空かない。彼らは、こちらの言ったことしかやらないから、じゃあウチの事業をどうデジタル化するか?、みたいな話をしてもかみ合わないんだよね。見積もります、とは言うんだけど、何を見積もるかってのが今回問題なんだからさ。
でもさ、ウチの会社、デジタルまわりはITベンダーに任せて来たってのもあって、社内にデジタルに精通した人がいない。業務をまわせる社員ならたくさんいるから、彼らにITベンダーみたいなことをやらせるしかないんだろうか。とりあえず、詳しそうな社員を集めて、DX推進室みたいな部門を編成し、活動させてみてはどうだろうか。
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・・・という話が、日本のたくさんの事業会社で繰り広げられているのが多分、3年くらい前だと思う。共創という言葉が流行した。事業会社のDX担当者と、ITベンダーのコンサル寄りのエンジニアが、合宿みたいなことをしてデジタル化の知恵を出し合うみたいな活動だ。
ここから、会社によって選択肢が分かれた。
①あくまでもITベンダーと協力し、DXに対する仕様を確定し、ITベンダーにこれまで通り発注しシステム構築を委託する。
②社内に内製化のためのグループを作る。元ITベンダーやコンサル的な人を高待遇で迎え、あたかも社内にITベンダーを1つ作るような方法で、社内で完結するようにする。
③DXなんてやらない
さて、この3つの選択肢、どれが正しいのかはまだ答えが出ていない。②の内製化に進んだ会社は、業務で成長している予算が潤沢なところだと思う。というのは、かなりリスクもあるからだ。ポンコツ内製化グループができあがっても簡単には整理解雇できない国だからだ。①のようにITベンダーと付き合いする限りは、置き換えできる。その分一時的な費用はかかるという仕組みだ。
案外③でも、実は余計なお金を使わないし、本当にデジタル化を隅々までしないと事業が残らないのかも実は不明。案外SaaSみたいなものを駆使して自前でやらずにやったように見せかけるという手段もある。
まだ、歴史は答えを出していない。この世の中が本当にDXによって便利になったのかもよくわからない。少なくとも5年後くらいに、保守切れが近づいて、「ああ、やめるか」みたいな事例もたくさん出てくると思う。ブームだったからね。