orangeitems’s diary

40代ITエンジニアが毎日何か書くブログ

日本政府のすべてのシステムがAWSに行くということではない

f:id:orangeitems:20200214001743j:plain


 

政府がAWSを使うという意味

政府のシステムをAWSに載せるという記事。少し拡大解釈されているような気がします。

 

www.nikkei.com

政府は今秋からスタートするIT(情報技術)システムのクラウド化をめぐり、人事・給与や文書管理など各省共通の基盤システムを米アマゾン・ドット・コム傘下のクラウド企業に発注する調整に入った。

 

政府のシステムもいよいよクラウド化するのか。しかも日本企業ではないAWSに。そんな理解をする前に、これまでの経緯をぜひ知っていただきたいのです。

 

 

ということをつぶやいたのですが、これを深掘りします。

決して、重要システムまでAWS移行するということではない、ということです。

 

 

経緯

最も重要なのは「政府共通プラットフォーム」ということばです。

下記は2014年度の記事です。

 

xtech.nikkei.com

「政府共通プラットフォーム」とは、クラウドコンピューティングをはじめとする最新の情報通信技術(ICT)を活用して、従来は各府省が個別に整備・運用していた政府情報システムを統合・集約するとともに共通機能を一元的に提供する基盤システムのことです。

 2012年度に1450存在していた政府情報システムを、2021年度までに619システムまで減らし、そのうち300システムを政府共通プラットフォームに移行する予定です。

 

この時期から「クラウド化」という言葉は使われていたのです。ただクラウドと言ってもVMwareを利用した仮想基盤を利用するだけのことであり、オンプレミスの粋を出ていませんでした。しかも国内ベンダーが設計構築から運用まで実施していました。

さて、この政府共通プラットフォームですが、結果的にうまくいきませんでした。2016年の記事です。

 

xtech.nikkei.com

会計検査院は9月、政府が進める情報システム改革に関する報告書を取りまとめた。22府省の情報システムを統合・集約するクラウド基盤「政府共通プラットフォーム」について、整備・運用の状況を検査したものである。検査は移行状況、運用経費、整備・運用の効率化、セキュリティ対策、データ連携の5つの観点で実施。いずれも不十分と指摘した。政府情報システム改革を主導する内閣情報通信政策監(政府CIO)にダメ出しをした格好だ。

 

つまり、政府のお金の使い方を監視する会計検査院が、たくさんのお金を使って作った「政府共通プラットフォーム」はさっぱり機能していない、と断罪したのです。

有料記事の中で、コストは高止まりしているし移行も予定通り進んでいない、と書かれています。

 

しかも、2018年、もっと決定的なことが起きました。こともあろうか、この「政府共通プラットフォーム」上で、18億を使って作ったシステムを、利用しないまま捨ててしまったのです。

 

xtech.nikkei.com

サイバー攻撃から機密情報を守るにはインターネットとの完全隔離が必要だ─。こうした方針の下、総務省は政府のIT基盤「政府共通プラットフォーム」上で、高セキュリティーを確保した専用区画「セキュアゾーン」を2017年に構築した。ところが利用実績が全くなく、わずか2年で廃止した。対策があまりに強固すぎて利用する側の要件に合わなかった。拠出した予算18億8709万円は無駄遣いに終わった。

 

2019年に下記のニュースが出ます。次期「政府共通プラットフォーム」はAWSでやるのだと。

 

xtech.nikkei.com

政府は2020年10月に運用を開始する予定の「政府共通プラットフォーム」に米アマゾン・ウェブ・サービスのクラウドサービス「Amazon Web Services(AWS)」を採用する方針であることが分かった。日経 xTECHの取材に複数の政府関係者が明らかにした。

(中略)

政府は2018年度から政府共通プラットフォームの整備に向けた入札を実施し、このうち設計・開発などの請負業務の一般競争入札について、アクセンチュアが19年5月に4億7520万円で落札して受託契約を結んだ。政府関係者によると、アクセンチュアはAWSの利用を前提に設計・開発を進めている。

 

ここでアクセンチュアの名前が初めて出てきます。

一方で、NTTデータがイニシアティブを失う、という記事が日経BPにあります。

 

active.nikkeibp.co.jp

対照的なのが、日本の公共市場における米アマゾン・ウェブ・サービス(Amazon Web Services)の躍進だ。政府は2020年10月の運用開始を見込む共同利用型のIT基盤「政府共通プラットフォーム」の次期基盤で、AWSが提供するパブリッククラウドサービス「AWS」の採用を決めた。

 政府共通プラットフォームは「霞が関クラウド」と呼ばれ、現在は主にNTTデータが整備・運用を担当する。次期基盤が完成すれば、現行基盤で稼働する行政システムは段階的に移行していく。NTTデータはIT基盤の運用で大きくポジションを失うことになる。

 

そして、ついに冒頭の記事の通り、AWSへ発注・・というところまで来たという経緯です。

 

 

考察

政府系のシステムについて、NTTデータからアクセンチュアへイニシアティブが移った、という見方ができますが、これを裏付ける資料があります。

 

www.soumu.go.jp

 

政府がクラウドベンダーの安全性評価を行っていくことで、政府がクラウドを使いやすくしようとするお話です。

この「クラウドサービスの安全性評価に関する検討会 とりまとめ」の中に、気になる記載があります。

2か所ほど、「(出典:アクセンチュア クラウドサービスの安全性評価に関する検討会 調達・構築関連調査)」という箇所が見られるのです。

これまで、政府の関連資料でIT関連と言えば、NTTや富士通、NECなど国内SIerのコメントがほとんどでした。

AWSを利用したい政府関係者の意向に対し、そのマネージドをすることを国内SIerは嫌がったのではないか、と思っています。

また、一次「政府共通プラットフォーム」がうまく行かなったことも踏まえ、ただ単に国内SIerがアクセンチュアに仕事を取られた、というよりは、あえて譲った可能性もあると考えています。

 

一方、重要システム、例えばマイナンバー関連のシステムは共通クラウドを使うことはありません。

 

xtech.nikkei.com

 内閣府は2014年3月31日、社会保障・税番号(マイナンバー)制度を支える中核システム「情報提供ネットワークシステム」の設計・開発業者を一般競争入札で決定した。NTTコミュニケーションズを代表とし、ほかにNTTデータと富士通、NEC、日立製作所が参加するコンソーシアムが落札した。落札金額は税抜き114億円である(8%の消費税込みでは123億1200万円)。

 

こまごまとした末端システムはAWSへ、重要システムは相変わらず国内SIerへ、という図式は崩れないように思えます。

AWS化の目的は、ITインフラの利用率向上によるコスト削減と、集中管理によるガバナンス向上です。

ニュースを読む限りは、こういった流れのように思えます。