orangeitems’s diary

40代ITエンジニアが毎日何か書くブログ

搾取労働、時短ハラスメント、中国と日本が共鳴する長時間労働問題

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長時間労働への抵抗が形を変えて

同じ日に、この2つのニュースが躍るのは興味深い現象です。

中国では「搾取労働」。日本では「時短ハラスメント」というキーワードが提示されました。結局は長時間労働がポイントとなるこの2件を整理します。

 

2つのニュース

中国: 搾取労働

まず1つ目は中国の話。IT企業の社員たちが、長時間労働が常態化していることに異議を唱え、GitHub上にブラック企業リストを作り始めているという話です。

 

www.itmedia.co.jp

中国のインターネット上でIT関連企業の長時間労働に対する告発が拡大している。残業続きで休日も返上して働いているのに、生活は豊かにならない-。こうした従業員たちの不満は企業側の“搾取”に対する怒りに転化しかねず、社会の不安定化を懸念する当局側も注視している。(北京 西見由章)
 「996勤務」。午前9時から午後9時まで、週6日働くことを意味するネット用語だ。中国のITやメディア、広告関連企業ではこうした「996勤務」が一般化する一方、給与などの待遇に対する労働者たちの不満が高まっている。

 

中国は日本とは全く事情が違い、労働法はあるのですが日本ほど当局の締め付けが厳しくない模様です。

 

gigazine.net

996勤務の登場には歴史的な背景があります。2000年代初頭に中国のハイテク企業が登場したとき、多くの企業は休日なしで働ける従業員を募集していました。たとえば、テクノロジー企業のテンセントも、その企業の1つです。テンセントは残業代を支払わない方針にしたことで人件費を大幅に削減し、大きな利益を上げて世界でも5本の指に入る企業にまで成長しました。そして他の企業も同じように成功するために、テンセントと同じ方針を採用。社員の長時間労働が常態化する文化が根付き「996」という言葉が誕生することになりました。

 

高成長の時は、ブラック労働はむしろ美徳とされていたのが、ここに来て「もう耐えられん」となった様子です。去年まではこんな絵図でした。

 

www.recordchina.co.jp

2018年6月12日、中国メディア・観察網によると、日本メディアが中国の労働環境について「日本以上のブラック労働でも悲壮感はない」と伝えた。

中国では「996工作制」と呼ばれる働き方がある。朝9時から夜9時まで週6日働くことを意味する。残業代も出ず、日本の会社員以上に厳しい長時間労働を強いられているが、それでも悲壮感がないのは「働いた分だけ見返りがある」からだ。残業も無駄ではなく、有効な残業だからこそ長時間でもがむしゃらに働くことができるという。

 

そりゃあ・・・、月に100時間も残業するのを続けたら、気も病みますよね。

996.ICUプロジェクトのURL(ttps://996.icu/#/ja_JP)から、転載します。

※URLを開くかどうかは自己責任でお願いします。あえてリンクを貼りません。

 

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書いてあることが、なんとも生々しい・・。

 

日本: 時短ハラスメント

 次はここ日本の話。仕事量やプロセス改善の変更なしで、頭ごなしに「早く帰れ」、その挙句にサービス残業やサービス在宅勤務が発生するというお話です。

 

www.dailyshincho.jp

日本人の労働に壮大な無駄があったのであれば、そんな数字も達成できようが、これまでも、すべき仕事がなければ、だれも残業などする必要がなかったのだ。現に、仕事自体が減ったという話はトンと聞かない。だから、早く帰宅しても家で仕事をせざるをえないのだろう。

 民主党政権時代の事業仕分けは、大山鳴動してなにも無駄が出なかったが、無駄の烙印を押して強引に削っていたら、国が立ち行かなくなっただろう。だが、いまの働き方改革には、そんな強引さが感じられないか。

 

時短ハラスメント、略称ジタハラですがこれをより理解するための記事をもう1本紹介しておきます。

 

ironna.jp

 そもそも、働き方改革で業務見直しを行わず、残業時間削減だけを行えば仕事が定時に終わらない可能性がある。それでも労働時間削減をお題目として、定時に帰らされる現象が起こる。これを今、「時短ハラスメント」と呼び、多くの企業で蔓延(まんえん)しているようだ。

 時短ハラスメントとは、職場において業務時間の短縮を強要し、何があろうと仕事を「時間内に終わらせろ」「残業はするな」と強要するハラスメントである。組織全体のことを考えないと起こりうる現象である。

 たちが悪いことに、労働時間を短くすることを強制されながら、業務量は減らない。業務時間中に無理をするか、残業代が払われないことを覚悟しながら持ち帰って作業するしかなく、結果として労働者の不利益になる。労働者はどこかで無理をしなければいけなくなる。

 

この「持ち帰って作業するしかなく」といういところが、この問題のポイントになっているように思いました。

 

考察

中国の996労働の件ですが、ITMedia Newsの文中には以下の記載が見られました。

 

中国紙・新京報は今月9日、「いかにして996勤務をなくすか」と題する論評を掲載した。国内経済が減速する中で、IT企業が「コストパフォーマンス」の低い人材を淘汰(とうた)し、人材の流動性を高めようとしていると分析しつつ、企業は法令を順守しなければならないと強調した。

 一方で論評は、中国人が勤勉に働いても豊かになれないことを資本家の「搾取」のせいにして企業への制限を強めれば、企業の業績は悪化し「労働者はいっそう稼げなくなる」とも指摘。より多くの、より良質な企業が市場に現れることで企業間の競争が生まれ、給与水準の向上や福利の改善につながると主張している。

 

これ、日本で同じことを言ったら血祭りになりますよね。

長時間勤務をするのは能力が低いからだと。それを棚に上げて企業のコンプライアンスへの攻撃ばかりをしていくと、むしろ業績が悪化し労働者はいっそう稼げなくなる。むしろそんなパフォーマンスの低い人材はどんどんクビにし、人材の流動性を高めながら企業は法令を遵守できるようにならなければいけない。

なかなかの強弁です。・・ただこれって、時短ハラスメントそのものではありませんか?。君の能力が低いから残業や持ち帰りが発生するんだろう?。違うかね?。辞めてもらってもいいんだよ?。・・ああハラスメント。

中国の場合は国家の力が強いので、むしろメディアの方からその雰囲気を作ってくるのかもしれません。

何しろ、この2つのニュースの根っこは全く同じです。生産性をサービス残業を含む長時間労働でダンピングしてきたという話です。

 

中国の生産性がダンピングが行われていたとしてこれが長続きしないとなれば、いよいよ中国の成長は怪しくなり、いよいよ真の生産性を競う戦いになるのかもしれません。それこそが望ましい経済の姿だと思います。生産性が低い企業経営のひずみを、労働者側がいつまでも犠牲になるのはおかしいと思います。