orangeitems’s diary

40代ITエンジニアが毎日何か書くブログ

「無給医よ、甘えるな」に見るブラック現場の思考原理

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IT企業だけではない、ブラック労働

ブラックな仕事のさせ方がIT企業に蔓延していた時代の経験を数日前にエントリーし、反響を頂きました。

 

www.orangeitems.com

中高年引きこもりが社会問題化していますが、その原因はブラック企業にあったのではないかという説です。

この話、実際に同様の状況を見たことがあるので、かなりの説得力を感じました。私の体験をシェアします。

 

さて、この文章の内容は全てノンフィクションで全て本当のことなんですが、あまりにも同じロジックで別の話を今日目にしました。

 

www3.nhk.or.jp

大学病院などで無給で働く医師の問題を取材してきた私たちに、先月、こんな一文が書かれたメールが寄せられました。「無給医は甘えている」ショックを受けた私。早速、メールの送り主に連絡をとりました。

 

ブラック労働のプラットフォームであったデータセンターも、こんな顧客が牛耳る組織でした。共通点を整理していきます。

 

共通点

 

無給に巻き込まれるのが若手・非正規雇用

「無給医の多くは大学院生など若手の医師です。まだまだ学びの時期です。医師にとって、若い時に様々な種類の症例を経験することは、一生の財産になります。それなのに、今の若い医師たちが貴重な勉強の機会を『苦役』とばかりに否定的に捉えることに違和感を覚えたからです」

 

私の例でも残業代支給がない状態におかれていたのは多重請負下で働いていた若手の二十代でした。一方でそのデータセンターの運営は日本の誰でも知っている企業でした。その企業の正社員たちはとてもプライドを持って仕事をしていたように思います。そのうえで、この現場で若いうちに仕事ができるのだから、将来に向けて大変な勉強ができる。彼らは本当にそんなことを言っていました。無給どうこうは知らなかったと思いますが、非人間的な長時間労働/夜勤や休日出勤のことは目の前で見ていたからわかるはずです。

 

自分の若いころは

「私も無給医を経験しましたし、月100時間以上の時間外労働をすることもありました。でも、辛いと感じたことはありませんでした。医師として経験を積むことが楽しかったんです。それにほかの病院でアルバイトすれば報酬は高額なので、生活には困りません。また、人生の一時期、経済的に厳しかったとしても、生涯賃金としては、世間一般からすれば恵まれています」

 

昔の「先輩」「取引先のお偉い方」は必ずこれを言っていました。自分の若いころはこんなもんじゃなかった。家に帰れないのはザラだった。今も家に帰ってシャワーを浴びて、2時間ほど横になってまた会社に来ている。そんな話を聞かされました。

また、SES契約ということもあり、ちゃんとお金は払っているぞ、とも。末端までは支払われてないんだけどね。

 

自己責任論

「大学医局に所属することを選んだのは、あくまでも本人です。誰かに強制されたわけではありません。医学博士の肩書きがほしい、ブランド病院で働いていたという実績がほしいなど理由は様々でしょうが、勤務の条件を分かったうえで、自ら大学病院で働くことを選んでいます」

 

以前のエントリーでも自己責任論が社会に蔓延し、長時間労働になるのはお前のせいだ、となることが多かったと述べました。まさか現代の時代にもこんな自己責任論が残っているとは・・。違法でも自ら望んでいるのから我慢するべき、なんという暴論かと思います。

まあ、長時間労働を適法化しようとする業界もどうかと思いますが。

 

blogos.com

厚生労働省の有識者検討会は、医師の働き方改革案をまとめた。一部の病院勤務医には特例で年1860時間(月155時間)と、過労死認定の目安(月80時間)の2倍近い残業を認めている。一気に規制を強化すれば地域医療が崩壊する、という現実論を踏まえた結論に落ち着いた。だが、過労で倒れる医師は後を絶たない。勤務医の長時間労働に寄りかかってきた、日本の医療体制の歪みが露わになった改革案だ。

 

しかも無給かよ・・と。

 

話のすりかえ

「若い医師は『希少な疾患』を経験したいと主張し、『よくある一般的な疾患』を軽視する傾向があると思います。しかし、一般的な疾患を診察する中で、異変に気付くのが本当に優れた医師です。『川崎病』は一般病院の医師が日々の診療の中で見つけました。全ての患者は宝であり、貴重な経験をさせてもらっています。今、私が勤務している病院は、医局の関連病院でなくても、地域医療の中核を担っている自負はあります。魅力を維持できない医局はいずれ淘汰されるのではないでしょうか」

 

これは、大学病院を選ばないで一般病院に行けばいいということを書いてますか?。一般病院なら無給や、長時間労働はないのですか?

正直、下積み論や自己責任論を繰り出すことから考えて、少なくない一般病院も同じような状況に置かれているのではと思います。

ブラックなデータセンターで働いていた時も、金融庁が悪いとか金融証券取引法が悪いとか謎の悪玉論をたくさん聞きましたからね。問題の本質を自分自身に求めず、どうにもならない別のことに持っていこうとするのです。

価値観が間違っていると、結果まで違っていく。そんな事実ではないかと思います。

 

自分の業界を自分で変えられないのか

働き方改革はすでに今月(2019/4)から施工され、民間は相当に変化が起こっています。長時間労働の罰則化や割増率のアップなど、利益第一の民間は対応せざるを得ない状況だからです。

一方で、医者だけではなく公務員(特に官僚、教師など)は失敗しているように見えます。

 

news.careerconnection.jp

ここ最近、働き方改革が推し進められ、残業時間削減が叫ばれるようになった。だが、今年3月、厚生労働省の働き方改革を推進する担当部署で、残業時間が最長で200時間にも上っていたことが発覚した。

働き方改革の旗振り役である厚生労働省が、長時間労働を追われている現状に「お前らがまず働き方改革に取り組め」とツッコミを入れたくなってしまう。

 

news.yahoo.co.jp

文部科学省の発表によると「小学校教員の約3割、中学校教員の6割が、月に80時間以上の時間外労働をしている」というデータが出ています。「月に80時間以上の残業」はいわゆる「過労死ライン」です。多くの小中学校の教員が過労死ラインで日々働いている現状は非常に深刻な社会課題であります。

 

共通なのは、医者でも公務員でも教員でも、利益を至上命題にしていないことです。医者なら患者の命を救うこと。公務員は国益の達成。教員は生徒の教育です。残業代による決算への締め付けが緩いのです。したがって外圧が緩い。しかも政治と深い関係があるため、法律の運用そのものを骨抜きにできる。

民間は、経営者のブラック思考のあるなしに関わらず、厳しい法律によって「働かせ方」の改革が必要となりました。しかし、上記の業界は利益主義でないことを利用して改革を拒んでいる印象です。

おそらく、今回の話のように「非正規雇用」「自分たちの若い時もそうだった」「自己責任論」「話のすりかえ」が起きているのではないでしょうか。巻き込まれそうになっている若手の方は、ぜひ今回の話を踏まえて判断して頂きたいです。我々の世代が大量に引きこもりの被害者を出しているように、人生を蝕むリスクが高くなります。そのリスクを乗り越えたというベテランたちをぜひ見本に「しない」ことを強くお勧めします。