orangeitems’s diary

クラウドで働くインフラエンジニアの日々の感想です(ほぼ毎日更新)。



RPAを導入したら86.2%の時間削減に成功した茨城県、どんな業務だったのか

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RPA導入の先駆者、茨城県庁の事例

先日の横浜市RPA導入レポートの件は、その破壊的な労働時間削減に戦慄が走りました。RPA自体の効果より、そもそもの対象業務があまりにもルーティンワークそのものであることが話題となりました。RPA導入以前に業務改革するべきではという声もたくさん聴かれました。

さて、横浜市のレポートはかなり具体的でありいろんな方が参考になったのではないかと思いますが、自治体と言うところで言えば茨城県庁が最も早い取り組みをしているということで注目します。

 

www.itmedia.co.jp

最近、全国の自治体でRPA(Robotic Process Automation)の実証実験が増えている。外部からは「定時で帰れる仕事」と思われがちな自治体の業務だが、実際はいまだに紙ベースで行われることが多い申請の処理作業などが山積みで、職員が多忙を極めるケースもあるという。また、「市民の税金で業務を回していることもあり、簡単にはツール導入の予算を取れない」と頭を抱える自治体もあるようだ。

 そんな中、2019年にいち早く大規模なRPA導入を決めた自治体がある。北関東に位置し、約270万人の人口を抱える茨城県だ。正職員だけで約4500人が働く茨城県庁では、2018年、導入予算が“ゼロ”の状態からRPAで業務の一部を自動化する実証実験に成功。2019年度の予算では、早くもRPAやAIなどのツール導入に約6700万円の予算を割り当て、庁内の20業務を自動化することを決めた。

 現在は、同じようにRPA導入を目指す自治体からの問い合わせも受けているという同県。いち地方自治体としては迅速かつ大胆ともいえるIT投資を、どうやって実現したのか。

(中略)その音頭を取るのが、2017年8月に初当選し、同年9月に就任した茨城県の大井川和彦知事だ。大井川知事は、東京大学卒業後、当時の通商産業省(現・経済産業省)で官僚を務め、日本マイクロソフトやシスコシステムズの執行役員をはじめ、ドワンゴの取締役も務めた経歴を持つ。2019年度の予算が決まる前の2019年1月30日に都内で行われたイベントで、知事はこう語っていた。

 

組織のトップがITに明るいというのはこれからの時代ならではだと思います。昨日、管理職は人だけではなくRPAも管理できるようにならなければいけないという記事をアップしましたが、まさにそれを体現したようなキャリアの方です。

 

実証実験の結果

茨城県庁の報道発表が以下となります。

 

www.pref.ibaraki.jp

茨城県では,ICTを活用した業務の生産性向上の一環として,RPA(ソフトロボットによる業務の自動化)の実証実験を行い,庁内業務におけるRPAツール導入の適合性の検証や,作業の効率性向上等の効果の検証を行いました。(ロボットによる業務自動化(RPA)の実証実験を行います)
その結果,対象4業務の職員の労働時間86.2%の削減効果があることが判明しました。今後,県業務へのRPAの本格導入を目指してまいります。

 

RPAの効果を語るとき、どうも90%という数字に近づいていくようです。逆に90%に近くならないと導入は失敗であるという肌感覚ですね。恐ろしい数字です、10倍速くできるようになるということを示しています。

記事中の下記のグラフを噛みしめなければいけません。

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しかも、4業務だけですので、冒頭の記事のように今後対象業務を広げていけば、さらにたくさんの業務が上記の結果となっていくのでしょう。

 

定型業務はどれぐらいの負担だったのか

横浜市のレポートに対するコメントの際、「公務員が四六時中、こんな定型業務をやっているわけではない。片手間だ。」という意図の内容があり記憶に残っています。

票を表に転記するのを一年中やっているわけではないと。しかし、茨城県の事例を検討すると別の側面が見えてきます。

 

4つの定型業務について、3,201時間だったと言っています。

一方で、

・一人がフルタイムで仕事しようとすると160時間(週40時間 x 4週)です。
・年間にすると、1,920時間(月160時間 x 12カ月)です。

つまり、少なくとも実験段階で、1.5人は一年中、この業務ばかりやっていたということになります。

かつ、有給休暇を取ったり、非正規雇用で週2~3、という形態もあります。したがって、この実験段階でも1.5人ではなく、数人が、かなりの時間この仕事に手を取られていたということになります。

 

どんな仕事だったのか

さて、本題です。

茨城県の報告は4つの定型業務を対象にしました。

 

・予算令達時の財務会計システムへの入力業務

・教職員の出張旅費の入力業務

・国民健康保険事業の資料確認業務

・水産試験場漁獲情報システムデータの処理業務

 

具体的にどんなルーティーンワークだったのか、見ていきましょう。

 

予算令達時の財務会計システムへの入力業務

令達というのは行政の専門用語でもありますね。あらかじめ決められた予算に対して、実際に利用することを「令達」と言うんですって。

そりゃあ、何か使ったらシステムに入力するのは当然か・・。

で、入力業務の事務処理プロセスはさすがに茨城県は公開していないのですが、なんと高知県が公開していたので参考にしてみます。

 

www.reikisyuutou.pref.kochi.lg.jp

4 歳出予算の令達

 課長は、予算規則第14条の規定により歳出予算の令達を行おうとするときは、次により処理する(旅費は、新旅費システムで予算を執行するため、令達不可)。

(1) 暫定令達

 出先機関において年度当初に支出負担行為の決議を必要とするものについて令達を行おうとするときは、手書きにより予算令達決議書(予算令達入力票)(予算規則第4号様式)を作成し、決裁後、その写しを別途通知する期日までに会計管理課へ送付する。

 なお、暫定令達の件数が少ない場合は、(2)随時の令達の例により処理することができる。

(2) 随時の令達《画面205及び207》

 随時に令達を必要とする場合は、財務会計システムにより予算令達決議書(予算規則第3号様式)を作成し、決裁後、財務会計システムにより令達確認を行い、予算令達確認書(電算処理第10号様式)を作成する。

 

多分に、茨城県でも似たような状況ではないかと。通常の予算であれば財務会計システムで完結するけれども、暫定予算の利用については手書きで、予算使ったよという書類を作成・・。これを会計管理課に送って、手入力するんでしょうね。

茨城県がどうなっているかはわからないのですが、少なくとも「入力」と言っている以上は紙の書類が回ってきて、それをシステムに入れなければいけないんだろうと予想します。

高知県の例ですが、通常予算であればシステムは対応しているけれども、暫定予算は手書き・・というようなところが、システムの穴になりそうな部分だと感心します。

 

教職員の出張旅費の入力業務

なぜ紙で・・とお思いでしょうが、たくさんの学校がまだ「紙」で帳票処理をしているのです。あくまでも「例」として、立教大学の帳票を参考にします。

 

spirit.rikkyo.ac.jp

※上記より引用

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申請書を受付けた事務担当者はワークフローシステムに代行入力して下さい(先端科学計測研究センター、チャプレン、カウンセラー、名誉教授、
その他学外者の出張はワークフローシステムに入力できませんので、必ず承認印をもらった上で紙のまま人事課に提出して下さい)。

 

今回は、上記と同様の書類が茨城県全体の帳票が回ってくるのですから、なかなかの負担であると思います。

 

国民健康保険事業の資料確認業務

健康保険の加入・喪失などを直接受け付けるのは県の仕事ではなく、市町村の仕事ですが結局は、市町村から資料を受領し処理を行っているんでしょうね。

茨城県神栖市より参考資料。

 

www.city.kamisu.ibaraki.jp

お勤め先の社会保険に加入されていた方で、再就職や家族などの社会保険の扶養とならない場合、国民健康保険に加入する必要があります。

社会保険等をやめたとき,届け出に必要なもの

・厚生・共済年金等請求手続き済の方(厚生・共済年金等を20年以上加入,または40歳以降10年以上加入)

・社会保険等資格喪失証明

・年金証書

・医療福祉制度・医療費の助成(マル福・神福)に該当している方は受給者証

・印鑑(朱肉をつかうもの)

・被扶養者(ご家族など)が60歳未満の場合は,その方の年金手帳
通知カードまたはマイナンバーカード(個人番号カード)など、マイナンバーのわかるもの(世帯主の方と国民健康保険に加入される方の分)

 

基幹システムはもちろんコンピュータ化されているものの、各種資料は紙。この辺りを攻めたということですね。

 

水産試験場漁獲情報システムデータの処理業務

世の中は、見えていないシステムによって成り立っているんだなあという感想を持つ仕事です。

 

www.gleas.jp

社団法人漁業情報サービスセンター(以下、JAFIC)は、日本周辺の漁業情報を収集・分析および提供する専門機関であり、全国の水産関連団体・企業との密接な連携により、我が国周辺資源評価情報システム(以下、fresco)および水産物流通情報リアルタイム提供システム(以下、リアルタイム提供システム)などを運営している。

frescoとリアルタイム提供システムは、いずれもシステム構築ベンダーにより構築・運用されているWebベースのセンターシステムとGléasおよびUSBトークンによる厳格なセキュリティプラットフォームから構成されている。

 

このfrescoというシステムに、茨城県の水産関係機関が水産データを入力しているらしい・・。ただ全く何をしているかわからないし、frescoを運営するJAFICのホームページからも何も読み取れない・・。

とにかく、Webに、何かのデータを入力するのが大変ということは理解できましたが。

 

まとめ

公共機関の仕事は、インターネットで語られることはあまりなく、無駄が多いと叩かれやすいと理解しています。しかし個別に見ていくと、法律によって決定している手続きを壊すわけにも行かず、個々のプロセスで四苦八苦している様子が伺えます。

RPA自体は業務フローを壊しませんから、非常に「手続き」を重視する職場には効果てきめんだと思います。自治体だけではなく金融機関も前のめりで導入していることも理解できます。

「定型業務の処理能力は、もはや人間よりもRPAの方が10倍速い」、というざっくりとした感覚値は日本全国に広がりつつありますから、むしろRPAを使う側に回るとともに、空いた時間をどのように活用できるかが労使双方に問われていると思います。

その余力を人員削減・肩たたきに使う動きについては、私は冷ややかに見ています。RPAによってこれまでより10倍多く生み出せるのだから、10倍の生産性を発揮する方向に行かねば、と強く思います。