orangeitems’s diary

40代ITエンジニアが毎日何か書くブログ

米中貿易戦争が導く未来をデータから検証する

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米中貿易戦争が始まった

トランプ大統領が今週、ついに貿易戦争を実行に移すことを決断しました。

mainichi.jp

米トランプ政権は23日、鉄鋼・アルミニウム製品の輸入制限を発動した。直前の22日には中国による知的財産権侵害や米企業への技術移転強要に対抗し中国製品に制裁措置を課す大統領令にも署名、強硬な通商政策を相次ぎ実行に移した。
 狙い撃ちされた中国は対抗措置として米国製品の課税リストを示すなど対決姿勢が鮮明で「米中貿易戦争」の様相だ。世界1、2位の経済大国の対立に世界は震え、各国株式市場は大幅下落した。

この貿易戦争が導く未来はどこにあるのでしょうか。本記事においては以下の手順で検証していきたいと思います。

・トランプ大統領就任前から予想されていた貿易戦争のシナリオの検証
・アメリカ・中国・日本の貿易データ確認
・考察

 

トランプ大統領就任前から予想されていた貿易戦争のシナリオの検証

もともとトランプ大統領は就任前から保護主義政策の実行を公言していました。就任から1年あまりで準備が整ったというところでしょうか。この状況を予想していた記事がありますので確認していきます。

 

塚崎公義氏 (久留米大学商学部教授)

wedge.ismedia.jp

選挙中の発言等からは、中国に対して高率な関税を課す可能性は比較的高いと言われています。そうなれば、中国が報復関税を課すことになり、米中の貿易戦争に発展しかねません。そうなった時に何が起きるのか、頭の体操をしてみましょう。

まさに現在の状況を予見した記事です。

アメリカの中国からの輸入額と、中国のアメリカからの輸入額をみると、前者のほうが後者の4倍近くあり、関税を掛け合っても中国の方がアメリカに対して影響が大きすぎる、という論です。

しかも中国の生産物は労働集約型、つまり豊富な労働力ありきで作られているものが多いので輸出が鈍ると失業者が溢れるとあります。かつ、アメリカは中国から輸入しなくても自国で生産したり他の国から輸入できるので痛くもかゆくもない。一方で中国はアメリカから輸入しているものは知識集約型のものが多く自国で生産できない。

このように、基礎条件からしてこの貿易戦争はアメリカが圧勝するしかないとあります。

一方で日本は、本記事においては、中国から輸入していた案件が日本に切り替わる可能性があり逆にチャンスだと説いています。ここは少々楽観的な議論だとは思っています。中国が弱った時の日本の影響も考える必要があると思いました。中国と日本の貿易においての関係は後半でデータを元に考えてみたいと思います。

 

ウォール・ストリートジャーナル

jp.wsj.com

次は、視点を変えて中国寄りの記事です。

アメリカが中国に貿易戦争を仕掛けた場合、国内製品が急激に値上がりし、低賃金でこらえてきたアメリカ国内のブルーワーカーが困窮するだろうという記事です。しかも中国の生産がアメリカに帰ってくる保証はなくむしろロボット生産などが進むだけになるという少し強引な論の進め方をしています。

米国の自動車やiPhone、ボーイングの飛行機が中国で売れなくなるとも。ただこの辺りの論は弱くて中国がアメリカに輸出できないことのほうがよっぽど大変なことを記事の中で認めています。

また、中国を破壊するということは、それに依存する韓国や台湾の経済も巻き込むことになるという警告もしています。

本記事では日本のことを触れてはいませんが、日本がどの程度中国に依存しているのかはやはり調査する必要があると思います。

 

アメリカ・中国・日本の貿易データ確認

さて、それでは実際の貿易データを確認していきましょう。

 

アメリカ貿易赤字の国別比率

興味深いデータです。この30年の間にすっかり状況が変わってしまったんですね。

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【図解・国際】米貿易赤字の国別比率(2017年2月):時事ドットコム

 

正直、日本の減少っぷりが激しくてもうしばらくすればもっと下がるのではないかということさえ思ってしまいます。一方でアメリカの貿易問題とは中国のことであるということをまざまざと見せつけられる表だと思います。

 

アメリカの中国からの輸入品目

こちらは少しデータが古いですが外務省が発表した2011年のデータです。

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http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000024741.pdf

軽工業品や機械等を工場で大量一括生産し輸出していることがわかります。別に中国から輸入しなくてもなんとかなる、という雰囲気はあります。

 

アメリカの対中貿易額

これも外務省のデータです。アメリカの中国に対する輸出入の割合を確認します。

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なるほど、アメリカが中国に関税をかけるのと、中国にアメリカが関税をかけることの意味合いは全く違いますね。4倍ありますので、アメリカが一方的に中国からの輸入に関税をかけることの意味は相当にあると思います。逆に中国が関税をかけてきてもアメリカはそこまで痛くはない。

 

日本の地域別輸出の状況

こちらは2016年のデータ。財務省の貿易統計から取得しました。

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http://www.customs.go.jp/toukei/suii/html/data/y1.pdf

このとおり、日本のお得意様、1位がアメリカ(14.1兆円)、2位が中国(12.4兆円)です。全体が70兆円なので、この2カ国で4割弱を占めており両方の国が戦って弱ると日本は結局何もいいことはないということになります。

会社で言えば、大口の取引先2社が揉めているということになり、日本の置かれている立場が微妙であると言わざるを得ません。

 

日本の地域別輸入の状況

輸出だけではなく輸入の数字も見ておきましょう。

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大きく状況は変わって、日本は中国から相当輸入(17.0兆円)していることがわかります。輸出額12.4兆円を上回っていますので貿易赤字ということになります。一方でアメリカからは7.3兆円しか輸入していませんので、輸出額(14.1兆円)を考えるとかなりの貿易黒字ということになります。

 

考察

アメリカと中国が貿易戦争を始めること、そしてアメリカに分があることはわかりましたが日本への影響はかなり読みづらいということがわかりました。ただ、どちらにしろ2国ともお得意様なので、日本にとって全然いいことはないのもわかりました。日本は中国から物やサービスを大量に仕入れて世界に輸出して貿易黒字を稼ぎ出している構図も見えますのでこの絵は変わらないとは思います。しかしそうすると、中国からやがて日本に矛先が向かうと思われます。中国から安く仕入れてアメリカに売っている構図が見えているためです。

大きな結論としては、日本よもっとアメリカの物やサービスを買え、ということを暗示していると思います。貿易収支上はあと5兆円くらいアメリカから買わないと収支が合いません。

さて、何をアメリカから買えばいいのでしょう。実はそこが問題だと思います。日本の輸出はかなりの割合が自動車です。なので、アメリカの自動車を買うのは合理的ではないです。自動車を作るのが得意な国がどうして他国から自動車を買わなければいけないのでしょう。だんだん話がマクロからミクロに落ちていきますが、一体我々はアメリカから何を買わなければいけないんでしょうね。ここは実は中国も困っているのではと思っています。

中国は実は去年、先を見越して「アメリカからものを買うから貿易戦争やめようね」という強いメッセージを出しています。

www.nikkei.com

中国側の統計によると、米国の対中貿易赤字は年間約2600億ドル。今回の巨額の契約には投資が含まれ、米国製品の購入も複数年にまたがる内容が多いため、すぐに貿易赤字が減るかは不透明だ。ただ、貿易赤字に匹敵する商談をまとめたことで、中国政府が貿易赤字を減らす意思を米側に伝えた格好だ。

この辺り、トランプ大統領も2017年は様子を見てみたが、上がってくる数字が芳しくないために、実力行使に出たといったところでしょうね。

みんなでハワイ旅行にでも行けばいいんでしょうか・・うーん。

 

まとめ

1990年のアメリカにおける貿易不均衡が日本が中心であったのが、中国に移っただけのように見える2018年の状況です。結局中国をつめても、別の国が選ばれるだけというのが歴史が教えてくれるところです。トランプ大統領が国内へ生産能力を回帰させることができるかがポイントになってこようと思います。もちろん、国内の人件費は中国などに比べると相当に高いので、民間にも高い生産性が求められます。これに耐えきれないのであれば、WSJの記事の通りインフレへの道を突き進むことになろうと思います。この辺りが物価指数や長期金利の上昇に敏感なことの理由に挙げられます。

一方で、日本の立ち回りを考えてみます。

アメリカに対しては貿易黒字額を減らすような交渉が必要になろうと思います。ただし言い値で対応すると国内の産業が大きなダメージを受けることは確実と思います。具体的には農業分野です。人質として日本の自動車への関税が話題に上がってくるでしょう。アメリカ国内で生産した日本資本の自動車についても特別税を課すとかなんとかやり出しかねない政権だと思います。

www.nikkei.com

「日本の安倍首相らは『こんなに長い間、米国をうまくだませたなんて信じられない』とほくそ笑んでいる。そんな日々はもう終わりだ」

はっきりとトランプ大統領も言ってますね。何しろ米国に対する貿易黒字を減らさないと次に何が飛んでくるかわからない状況だと思います。・・・やっぱりハワイ旅行かなあ・・。

中国に対してはどうでしょう。実は日本は中国と政治ではやり合っているように見えて、ビジネスパートナーですよね。数字の上からそう見えます。本当に仲が悪い国ならば日本の輸入額の4分の1が中国からだなんてあり得ない数字です。日本の外交姿勢というのは基本的にはウィンウィンを目指しているところがあり、9条が象徴する平和憲法のイメージとも合わせ相当諸外国とうまくやっている印象を持っています。中国とアメリカ、そして日本という関係からするとアメリカ寄りの発言を表向きはしていくしかないでしょうが、裏ではかなり中国と日本の間でコミュニケーションを取ると思います。

今後の未来を占うための変数としては、以下の項目が挙げられるでしょう。

・アメリカが国内生産に切り替えることをどれだけうまくやれるか(ITなどを使って新産業革命を起こせるか)
・中国や日本が、アメリカの貿易赤字を減らせるような施策を取れるか(アメリカでの現地生産のような「うまくだます」方法ではなく真の方法で)
・結果的にアメリカも中国も何も譲歩しなかったときに、二国が傷ついたときの日本の落とし所

日本がかなり影響を受けまくるポジションにいるのがわかると思います。あまり日本自体の意思でなんとかなるようなことではないのは明白です。よりアメリカや中国とコミュニケーションを取って、仲立ちするような位置どりが最も望ましいのではないかと個人的には思います。変数の振れ幅が大きいので、日本へ予想される結果は現時点では楽観にも悲観にも両方可能性があります。

トランプ大統領は貿易収支の数字しか見てないと思いますので、シンプルにこの数字の変動に影響するようなニュースを捉えていけば話が見えやすいでしょう。今後の動きに注目してきます。