orangeitems’s diary

クラウドではたらくエンジニアの日々の感想です。

日本が現金払い主義から脱しなければいけない理由がわからない

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現金払いの強い日本とキャッシュレス決済が進む世界

こんな記事を読みました。

toyokeizai.net

最近になって日本銀行が発表した統計によると、2017年の日本の電子マネーによる決済金額が5兆1994億円だったそうだ。問題なのは、世界では、電子マネーによる決済が爆発的に増えているにもかかわらず、日本の伸び率は前年と比較してわずか1.1%しかなかったことだ。

(中略)

問題は、これだけキャッシュレス決済が進行している海外と比較して、なぜ日本ではキャッシュレス化が遅れるのか。その理由は、銀行の経営基盤にかかわる事情があるからだ。周知のように、日本にはATMが街のあちこちにあって、気軽に現金を引き出すことが可能だ。昭和の時代には超便利になったと思ったものの、考えてみれば預金者は、1日の大半の時間は1回あたり108円~216円のATM手数料を払いながら、自分のおカネを引き出している。

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考察

キャッシュレス決済が世界で進んでいる一方で、日本で進まない原因は銀行のATMの手数料が銀行経営基盤に大きな影響を与えているから日銀が手をつけない、というのがこの記事の本旨です。

現象としては正しい認識だと思うのですが、その理由がしっくりきません。銀行のATMがどうなろうが、もし多くの日本人が望むのならばキャッシュレス決済は大きく進んでいるはずです。キャッシュレスを禁止する法案や規制があるわけでもなし、現金払い主義を選んでいるのは国民自身でありATMがどうか、日銀がどうかなど全く関係ないと思います。

インドや中国、スウェーデンなど、様々な国でキャッシュレスが進むことに関してはまたそれぞれの国の事情を見ていかないといけません。

 

インドの場合

インドがなぜキャッシュレス決済に突き進んでいるかについては、時事通信の記事が指摘しています。

www.jiji.com

これだけのダメージを承知の上で実施した高額紙幣廃止の狙いは、名目GDPの25%を占めるとされるブラックマネーの捕捉・締め出しや偽札対策、と言われているが、その先には不透明かつ非効率で脱税や不正蓄財を生みやすいインドの「現金依存経済」をデジタル経済、キャッシュレス経済へと一気に移行させるという途方もない狙いが見えてきた。

このように、インドの場合は現金払いが脱税や不正蓄財を生むから、という理由です。しかも記事を読み込むとわかってくるのが、農村世帯の3割はいまだに電気がない生活で銀行ATMやパソコンすらない生活という事実です。そうするとお金が国民に融通しにくいので、デジタル化を一気に進めることでお金の流通量が劇的に増えることを狙っているというのです。

日本においては全国民が銀行口座やクレジットカードをほぼ持っていて、どこでも使えますからこのような動機は生まれませんよね。かつお金に対する教育が厳しいお国柄なので、現金主義イコール脱税や不正蓄財とはなりません。

 

中国の場合

では国を変えて中国の場合です。

toyokeizai.net

このように、不便すぎる生活がスマホによるIT革命によって一挙に改善された。中国は広大なので、最低限のインフラを全国の主要都市に配置するだけでも莫大な費用がかかる。だが、だからこそ、使いこなせれば誰でも平等に使えるスマホが社会のインフラとなり、スマホから簡単に決済できるアプリがここまで人々に受け入れられ、普及したのだろう。 

この記事はとても丁寧に中国の状況が書かれていて勉強になります。中国ではパソコンはあまり国民に浸透しないまま、いきなりスマートフォンが全国民に浸透したそうです。中国はかなり広い国ですから、地域によってはインフラ基盤が貧弱でATMがなかったりクレジットカードが使えなかったりします。しかも現金は偽札のリスクがあるそうです。偽札を判別するためのライトを常備しているぐらいだと。かつ、スマートフォン決済だとデジタルで台帳管理されるため賄賂が渡しにくくなります。現金による不便な生活を、スマートフォンが一掃してくれた、ということです。

この件については、もう1つ洞察の深い記事がありますので紹介します。

wedge.ismedia.jp

中国国内でもむしろ経済的に遅れた地域のほうがモバイルインターネットの成長率が高いという。

 つまり、経済的に遅れた場所であればあるほど、キャッシュレス決済の恩恵を受けやすいということです。キャッシュレス決済を使いたい動機がしっかりあるわけですね。

 

スウェーデンの例

先進国の例も見なければいけません。スウェーデンは世界で最もキャッシュレス決済に取り組んでいる国家として見られています。

www.bloomberg.co.jp

スウェーデンの場合は、急激に進みすぎて現金が急激に極端に流通しなくなり、中央銀行が戸惑っているという状況にあります。最終的にどんな経済になるかということがあいまいなまま利便性ばかり追求すると、負の側面が生じてくるという例でもあると思います。

もちろん、これはキャッシュレスを否定するものではなく、急激に進めると負の側面が大きくなるという例です。思ってもみないデメリットが出る可能性もあるので、日本としては先行モデルとして観察を深めていけば良いと思います。

 

そして日本を考える

さて、日本に戻ります。日本は国土面積が小さく島国であり、田舎であっても世界と比べるとインフラが進んでいる国だと思います。ATM網やクレジットカード網も隅々まで張り巡らされています。この状況で、キャッシュレス化を進めても、国民自身がその良さを享受しづらい状況にあります。

一方で、日本人のお金に対する潔癖さもあると思います。確定申告にしろ税務関連にしろ、監査にしろこんなに複雑なルールをよく正確に運用できてるなあと感心します。金融業界はとても手続きに対して厳格さを持っていますし、こうした一つ一つが日本円を世界でも価値のある通貨に押し上げています。教育水準が高いため、各国民がルールを逸脱しにくいというのもあるでしょう。

したがって、人手やシステムコストはかかるものの、信頼性が非常に優れている日本の現金払い主義は今の社会構造や文化的背景から見てそこまでスウェーデンのようにキャッシュレスへ舵を切らなくても良いのではないか、と思っています。むしろその人手やシステムコストに付加価値が相当あるのではないかと考えます。

ガラケーがスマートフォンに急激に変わったように、日本人は役に立つと分かれば乗り換えること自体はすぐにできる国民です。キャッシュレス決済に突き進まないのは、現金払いにメリットがある裏返しだと思います。世界で最も優れた現金払い国家として君臨すれば良いのであって、他国と違うことで「遅れている」というのは誤った判断ではないかと思いました。