パブリッククラウドのITベンダーに対する影響
パブリッククラウドの浸透で大手のITベンダーが大きな影響を受けるという記事です。
これまではクラウド化と言っても、いわゆるプライベートクラウドと呼ばれる企業専用の仮想基盤であり、ハードウェアリプレースを含めたシステム更改案件でした。したがって、今までのシステムリプレースの仕組みを逸脱していなかったためむしろ優良案件として扱われていました。
ところが、これをパブリッククラウドに乗せ換えることが本格化してきて情勢が変わりました。パブリッククラウドにおいてはハードウェア保守期限がないため、5年に1度に必ずシステムリプレースがある状況がくつがえってしまいました。この結果人手をかかえるITベンダーは過剰人員を抱えることになってしまいリストラは避けられないという論調です。
なぜ今になってパブリッククラウドの影響がクローズアップされたか
パブリッククラウドの浸透がIT業界に影響を与えることは昔から語られてきており新しい話ではありません。なぜ今になって、この話がクローズアップされてきたかというと、3つ理由があります。1つ目はパブリッククラウドのプレーヤーが決まってきたこと。2つ目はVMwareです。3つ目はこの流れに企業のリプレース案件がフィットして大量に、パブリッククラウド移行案件が生まれていることです。
パブリッククラウドのプレーヤーが決まってきたこと
これは以前下記の記事で触れました。
アマゾン、配送業へ参入へ、から考えること - orangeitems’s diary
パブリッククラウドのシェアは上位5社で65%を占めているという状況が現在です。各国内ITベンダーもパブリッククラウド対策として、自社のパブリッククラウドを構築しています。しかし世界展開しているグローバルプレーヤーと比べると、資本力からして巨人と豆粒くらいの差があります。設備面でどんどん差が付けられ、国内オンリーのパブリッククラウドは成長できていません。設備面が充実するとその分コストパフォーマンスが優れますので、わざわざ高くてローカルなクラウドを使う理由が無くなってくるのです。グローバルで使えて費用が安く、しかも設備投資をどんどん行って機能が優れていくクラウドの方が益々強力になっていきます。
この状況に適応できる企業は指を数えるほどしかなく、これを利用することがますます合理的になってきます。ユーザー企業はますますパブリッククラウドを利用しやすくなり、一方で国内のITベンダーは追い詰められていくことになります。
VMware
いろんなITベンダーのイベントで語られてきたのですが、まだパブリッククラウドに行っていないITシステムは全体の95%あると言われてきました。結局残り5%でシェアを争っていたに過ぎなかったのです。
残りはVMwareという仮想基盤上で動くオンプレミス、つまりユーザーのオフィスであったりデータセンターで動いていたシステムが多数を占めていました。このVMwareというのは業界関係者ではかなり有名なのですが世の中では知らない人は知らないと思います。
このVMwareという企業は、自前でパブリッククラウドを作り展開する企業戦略を2016年あたりまで取っていました。ところが、自前でパブリッククラウドを運用することを止めて、各パブリッククラウド陣営と協業し、その基盤上でソフトウェアを使ってもらう戦略に変更しました。これはVMware社はソフトウェア企業でありパブリッククラウドの設備投資型ビジネスにそぐわなかったと考えています。この影響で、IBM、AWSをはじめ、MicrosoftなどVMwareをパブリッククラウドで動かすことに本腰を入れ始めたのが2018年初頭の状況です。
パブリッククラウドへの大移動のキーはVMwareだということを指摘しているのが、冒頭の記事の大事なところです。
大量にパブリッククラウド移行案件が生まれている
2014年にIBM社がレノボ社にPCサーバー事業を売却したころから、企業がクラウドへ移るかどうかの議論が始まったように思います。PCサーバーのシェアをIBMはある程度握っていたので、大きな転換と認識されていました。
ここから時間が進み、長い間をかけてクラウド移行について議論が交わされてきたのが、そろそろパブリッククラウドをうまく利用することがIT利用のポイントだという空気に変わってきました。これは先行してパブリッククラウドをし利用した会社群が軒並み成功し、業界によっては成長リーダーになったからというのがあります。
イノーベータ―理論というのをご存知でしょうか。
イノベーター(Innovators:革新者):
冒険心にあふれ、新しいものを進んで採用する人。市場全体の2.5%。アーリーアダプター(Early Adopters:初期採用者):
流行に敏感で、情報収集を自ら行い、判断する人。他の消費層への影響力が大きく、オピニオンリーダーとも呼ばれる。市場全体の13.5%。アーリーマジョリティ(Early Majority:前期追随者):
比較的慎重派な人。平均より早くに新しいものを取り入れる。ブリッジピープルとも呼ばれる。市場全体の34.0%。レイトマジョリティ(Late Majority:後期追随者):
比較的懐疑的な人。周囲の大多数が試している場面を見てから同じ選択をする。フォロワーズとも呼ばれる。市場全体の34.0%。ラガード(Laggards:遅滞者):
最も保守的な人。流行や世の中の動きに関心が薄い。イノベーションが伝統になるまで採用しない。伝統主義者とも訳される。市場全体の16.0%。マーケティング用語集 イノベーター理論 - J-marketing.net produced by JMR生活総合研究所
パブリッククラウドについてもきっちり当てはまっていて、業界にいるとイノベーターも全員パブリッククラウドに行っています。アーリーアダプター13.5%のうち5%くらいはクラウドに行きました。残りは今商談中ですね。これはもうやることが前提で、どのクラウドに行くかということを決めている最中です。
で、アーリーマジョリティまでが食いついてきた感があります。2020年に向けて要求仕様を考えている最中です。2018年はこのような絵図です。2019年にはもっと進むと思います。
最終的には、大事なものはオンプレミス(手元)におき、それ以外はクラウドで運用。その間をプライベートな通信回線が結ぶという形のシステムが非常に多くなると思います。
今後について
この記事においては、
次回は、このようなベンダーが適応策として乗り出した“エンジニアのセキュリティ転換”(システム構築からセキュリティ対策への担当替え)の動きについて述べていく。
ということで締められており次が気になるところですが、著者がITセキュリティで有名なラック社の方ということで、セキュリティ寄りになるのかなあという予想をしています。
小回りが利く中小ベンダーにとってはかえってこの状況はチャンスで、今までハードウェア一括でないと提案できなかったのが、パブリッククラウド前提であれば提案できるようになってきています。調達リスクやプロジェクトのとん挫リスクも軽減でき、追い風です。
一方で、ハードウェア一括およびそのあとの保守費用を利益の根源としてきたベンダーは非常に困るでしょうね。ミッションクリティカルなクラウドに持っていけない部分に注力するとしても、市場は限られます。
エンジニアとしては、このあたりの地殻変動を踏まえつつ上手にジョブチェンジやスキルアップを狙う必要があると思います。企業が立ちいかなくなったときに動き出すようだと、時すでに遅し、かもしれません。