残業のこと
日経新聞は、意地悪な言い方をすると、わかってこれを書いてるんじゃないのかなと思った記事。
大企業の残業に罰則付き上限が導入された2019年4月以降も月80時間超の残業をしている人が推計で約300万人に上ることが総務省の調査で分かった。労務管理の徹底でサービス残業があぶり出され、部下の仕事量が減ったしわ寄せで管理職の残業が高止まりしている。今後は画一的に残業を減らすのではなく、生産性の向上で収益を高め、働き手にも還元していく改革が重要になりそうだ。
考察
有料記事なので全文をかいつまんで言います。
・大手居酒屋チェーン→アルバイトの欠勤を埋めるために行なっていた残業が正確に把握されたから残業が増えた。
・流通(トラック運転手など)→労働時間を厳しく管理し減らしたら、労働時間管理がゆるい他社に移られてしまった。
・大手SIer→AIやRPAを活用して定型作業を減らし残業を減らしたら、離職率が半減し売上も増えた。
⇒残業時間だけを減らすことだけ注力し生産性を上げないと、労働者の消費が弱り経済が弱くなる。労働者にしわよせがあってはいけない。
ということがざっくり書いてあります。
・・・が、これ、かなり無理がありませんか?
大手居酒屋チェーンやトラック運転手は、どんなにAIやRPAを活用したって、労働時間が減るわけではありませんよね。
いわゆる労働集約型と呼ばれていて、人手と生産量が比例する仕事です。
これを、ITの知識集約型の産業と同列に扱い、「生産性を上げないと」というのは、雑な議論ではないでしょうか。
居酒屋をもっとIT化して、人手がいらない店舗にする?。
自動運転をもっと普及させ、トラック運転手が長時間運転しなくて済むようにする?。
それは本当に、西暦2020年の現実を見た議論になっていますでしょうか。
労働者は生産性が欲しいのではなく、お金が欲しいのです。
だから労働集約型においては、お金が欲しければ欲しいほど、残業するに決まっていますしそれが一義的に悪とは決めつけられません。
だから、もっとお金が欲しい、と思う人が会社を移るというのは自然に起きていることなのだと思います。残業代減った分副業で何とかしろみたいな話につながってしまいます。
結局働き方改革というのは、当てはまる産業と当てはまらない産業があり、一緒に論じると、労働集約型の産業を否定することにつながります。
だから、労働集約型の産業に人手が集まりにくくなり、人手不足につながっているのです。
居酒屋に入ったらロボットがやってきて「いらっしゃいませ、何名ですか」と接客をして、座卓まで案内する。席についたらタブレットが置いてあってオーダーする。奥からまたロボットがやってきて料理を持ってくる。
そんな居酒屋、私は行きたくはないですけどね。
生産性は低くていいから、それなりの対価を支払って、接客した人にも報酬を支払いたい。
なんとなく、生産性の議論のおかげで、接客する人が顧客に与える価値のようなものが不当に暴落しているような気がしてなりません。
人がやる、ということにもっと価値を与えないと、人が不幸せになっていくのではないでしょうか。
まぜない
業種によって事情が違うのに、残業や生産性のことを同一に語り、そのおかげで生産性の低い業種の労働者の給料を抑える方向にいくのはおかしい。
そのため、いわゆるサービス業と呼ばれる業種において、対人サービスの品質が大幅に落ちてきている気がします。
レストランに入っても、誰も接客しに来ない。
ビールを持ってきたあと、前菜がいつまでも来ない。
メインディッシュは持ってきているのに、ライスがいつまでたっても来ない。
最近私の身の回りでも起こったことです。料理はおいしかったのですが、人手がまわっていません。安いお店でも無かったのですけどね。
どれだけ高い店に行けば、満足得られる接客品質を得られるのかな・・なんて途方にくれました。
人手に対する対応をもっと世間が評価し、対価を支払うようになれば、結果として労働者の給与も上がるし生産性も上がることになると思うのですがどうなんでしょうか。
そういう意味では、外国の「チップ」っていう制度はよくできているのかもしれませんね。