社会人を教員に転換??
理解に苦しむ記事。
政府は、社会経験を生かして大学などで講師を務める実務家教員の養成を支援する方針を固めた。
来年度にも、研修プログラムを開発・実施する大学を地域ごとに指定して全国で受講可能な体制を整える。実務家教員の指導力を向上させ、社会人向けの「学び直し教育」を担う人材を確保する狙いがある。
実務家教員の養成支援は、政府の「人生100年時代構想会議」(議長・安倍首相)が今夏までにまとめる基本構想に明記する。
理屈がおかしい
IT業界で言えば、情報処理技術者試験の内容が基礎研究だとすれば、プログラミングやWEBフレームワーク、クラウド利用や人工知能開発などビジネスに近い部分が応用研究だと思います。
会社で社会人をしていて思うこととして応用研究については学べる機会が多いです。よりお金になる部分を率先して身につけることで、できるエンジニアを目指すのは一般的だと思います。しかし、基礎技術を学ぶことは基本的に業務中はできません。したがって若手を見ていても、基礎を身につけた人は応用を身につけるのがすこぶる早いです。また、問題が発生した時の原因解析も基礎を身につけた人は、生産性が高いです。基礎が無く応用の手順だけを身につけた人は、「そうなること」はわかっても「なぜそうならないのか」についてはめっぽう弱い印象です。
大学においては原理原則をしっかり学んでほしいというのが私の希望です。社会人が大学に入ると、十中八九応用の話です。それは最先端な話なので学生は喜ぶでしょう。しかしそれはビジネスへの憧れを喚起するだけで将来のためを言えば基礎に集中してほしいと思っています。
かつ、現在大学の数は今後減少していきます。
自民党教育再生実行本部の高等教育改革部会(主査・渡海紀三朗元文部科学相)は10日、大学改革の方向性に関する提言案を大筋でまとめた。今後さらなる少子高齢化や人口減少が見込まれる中、全国に86ある国立大学の規模縮小や学部再編を求めた。月内に安倍晋三首相に提出する。
そして、現在、大学教員の待遇は、非常勤講師を中心に大変厳しいものになっています。
<日本の大学では90年代以降、大学教員に占める非常勤講師の割合が急増し、待遇の悪さなどから講師の間に不満が高まっている>
大学教育を担う先生がたが、非常勤雇用によって不安定な生活を強いられています。そこに少子化があいまってポストも減っていきます。追い打ちとして、社会人を教員に転用するという、もう支離滅裂な政策が並べられているのは何か恣意的なものでもあるのでしょうか。信じられません。
そもそも、この、「学び直し」(=リカレント)という言葉の意味を履き違えています。戦略なく学び直しした結果を転換すればいいというものではありません。社会にとって必要であり今後戦略的に強化していく部分に、学び直した社会人を振り分けていくべきです。例えば、出産・子育てを機にリタイアした優秀な女性などが、学び直しを経て社会的に今後要求される職場で活躍するのは、学び直しの良い例です。過去の私の記事を引用します。
働き方改革により生涯学習がリカレント教育と名前を変えて登場した背景 - orangeitems’s diary
学歴フィルターという現象を現実社会から考える - orangeitems’s diary
むしろ新しい人を大学に投入するより、今の大学教員の身分を保障し研究の生産性が高まるようにした方が得策であると思います。「学び直し」をいい理由のように使わないで頂きたい。
改めて政府の見解を待ちたい
さて、少し落ち着いて考えると、政府は「人生100年時代構想会議」にて基本構想をまとめると言っているので、これを待ちたいと思います。構想=ビジョンは大事です。1990年代後半の非正規雇用拡大が正しかったと言う人はいますか?。日本人は総じてこれによって幸せになったのでしょうか。教育界のみならず、いろいろな業界で非正規雇用がもたらす不幸な話を聞きます。これはビジョンが誤っていたからです。
非正規雇用の不安定な生活保障、男女の不平等問題が明確になるなかで、この基本構想がどんな問題提起をしてくれるか楽しみなのですが、幸先が不安になったニュースでした。
大学はもっと教員の生活を保障し研究や教育の質を高める。学び直しは男女不平等の解決の方法となる。そうなってほしいと願います。