orangeitems’s diary

40代ITエンジニアが毎日何か書くブログ

富士通が大企業病ならアップルはもっとそう。復活の道を考えてみる。

f:id:orangeitems:20190327005328j:plain

 

富士通は大企業病か

富士通田中社長のインタビュー記事が日経電子版に掲載されています。実質5年周期の社長任期の中で当初に掲げた経営目標が未達。現状分析と反省が赤裸々に語られた内容となっています。

 

www.nikkei.com

国内最大のIT(情報技術)企業、富士通が苦境に立っている。田中達也社長は自らが就任1年目の2015年に掲げた「営業利益率10%」「海外売上比率50%」という経営目標のうち後者を撤回。前者は社内外での認識より2年先送りの22年度の達成とした。田中社長は社長就任後の3年半をどう省みるのか。本人の独白から探る。

 

昨今のジョブ再配置/早期退職等の構造改革は、この状況から脱するためにはぜひとも必要なのだと読めますね。

有料記事ですが、日経電子版は無料会員でも月10本まで読めますので、業界の方はぜひご一読されることをお勧めします。

 

考察

この記事に二度出るワードに「コンサバティブ(保守的)」という言葉があります。大企業故に保守的でそれが弱みとなっているという分析です。

大きな企業でも、小さなスタートアップ企業にしてやられるということが昨今よく起こっています。デジタル・ディストラプションと言う言葉があります。

 

jinjibu.jp

「デジタル・ディスラプション」とは、デジタルテクノロジーによる破壊的イノベーションのことを指します。ディスラプション(disruption)は、英語で「崩壊」。つまり、すでにある産業を根底から揺るがし、崩壊させてしまうような革新的なイノベーションこそ、デジタル・ディスラプションなのです。この数十年を振り返るだけでも、社会では数多くのデジタル・ディスラプションが起き、人々の生活に変化をもたらしました。

 

かつてのアップルがiPhoneで行ったように、AmazonがAWSでIT業界を席巻しているように、もともとあった市場を根底から覆すようなビジネス。これはコンサバティブ(保守的)の対極にあると言えます。

富士通田中社長はその原動力が社内に無いことを嘆き、大企業病と言う言葉を使っているのですが・・、この文脈に私は違和感を感じるのです。

というのは、実のところ例えばアップルは、ガチガチの大企業病に陥っているように見えるのです。昨日の新サービス発表会はご覧になりましたでしょうか。

 

news.mynavi.jp

Appleは2019年3月26日(日本時間)、スペシャルイベントを開催しました。残念ながら新デバイスの登場はありませんでしたが、4つの新サービスが発表されました。本記事では、発表内容を時系列順にまとめていきます。

 

もうこのところのアップルの発表会は、私にとっては「ガッカリ砲」です。以前は夜更かしして発表会を見たこともありましたが、もはやそんな意味は感じません。例えば今回にしても、Apple News+、Apple Card、Apple ArcadeにApple TV+。どれもこれも先駆者が先にいます。むしろNTTドコモ、AUやソフトバンクが既にやっていることに二番煎じに見えます。イノベーションがない。おそらく、夜更かしして発表会を見る層に対して刺してくるコンテンツではないのでしょう。ジョブズがいたころのAppleではないのです。発表会前日に、iPadやiMac、AirPodsの新製品も出しましたが、マイナーバージョンアップにとどまっていて、サプライズとはなりません。

じゃあ、それが失敗なのか。実はそうではありません。

 

www.stockclip.net

 

基本的には数年間、右肩上がりのビジネスを維持しています。

特に最も大事なのが、CEOのティムクックは、ものすごく「コンサバティブ(保守的)」だということです。これだけ世界がiPhone SE 2を期待していたのに出してこないあたり、筋金入りです。

アップルとしては、iPhone SEを買う層は2年に一度買い換えるようなモチベーションがなく、安く手に入れて長期間使われるとまずいという判断が働いたのでしょう。ライトニングコネクターも全くUSB-Cに代わる気配もなく。アップルとしては、今のエコシステムを一年でも長く継続することがより重要なんだという意図が取れます。その安定したプラットフォームの上で、今更ながらサブスクリプションビジネスを充実させて、囲い込みをしたい。これは前段でも言いましたがNTTドコモなどと全く、全く同じです。

 

富士通の話に戻ります。

アップルの例から、「大企業病だから業績が落ちる」というのはミスリードする恐れがあると思います。大企業が大企業然としているのはある面から言えば強みです。安定した市場シェアを持ち、それを保っていくという意味においては大企業のパワーというものは圧倒的です。

問題は、富士通が優位性を持っていたのが、オンプレミス市場だったという点です。オンプレミスのSI案件は過去何回か提案にトライしたことがあるのですが、痛感したのは、ハードウェアの存在です。SIするにしてもそれを動かすハードウェア基盤が必要です。それを自社製のハードウェアとセットで販売できるのです。しかも、データセンターと運用部隊まで持っています。富士通にSIをお願いするなら、ハードウェアもデータセンターも運用も一括でお願いすれば、スケールメリット(値引き)もあるし強いね。これが富士通を始め、ハードウェアを持っているSIerの強みでした。特に、ハードウェアというものは、売れれば額が大きいのです。5年保守込みで売れるので、SIそのものよりも大きい売り上げとなることもあります。一方でハードウェアを持っていないSIerはどこからかハードウェアを買ってこなければならず、価格勝負では勝てっこなかったですね。そりゃあ自社仕入れの方が有利だよなと。

このやりかたで伸びたのが2015年ぐらいまででしたが、そこから、クラウドが大きく伸長してきました。

最近のSIの動向を見ると、完全にオンプレにするのか、それとも一部または全部クラウドにするのかという案件が激増しています。しかも、クラウドと言ってもいわゆるメガクラウド、AWS / Azure / GCP / IBM Cloudのような世界中に莫大な資本で投資され組み上げられた基盤が相手です。この状況においては、自社ハードウェアがかえって足かせになります。クラウドにリソースが逃げると、自社ハードウェアの売上が下がるのです。

そのうえ、クラウドが絡む提案となると、自社ハードウェアを持たない、中小のSIerでもがっぷり四つに戦えてしまいます。リソースはクラウドで、そこで経験をもつSI部隊。なんとも身軽で、富士通にとってはなんともやりにくい相手と戦うことになっているのではないかと推察します(というか、富士通に限った話でもないですが)。

つまり、田中社長が取った戦略、

「利益率が低いユビキタスやデバイスの事業を切り離し、国内のシステム構築サービスなどの利益率が高い事業に集中すれば、おのずと営業利益率10%という目標の達成はついてくる」

というのは、2015年段階においては間違っていないと思います。そのころは強かった。しかし、市場がクラウドで様変わりしてしまったのです。大企業病が問題ではなく、市場がデジタル・ディスクリプションされてしまったことが原因だと思います。

 

さてどうするか

過去を振り返ってみると、現在の状況をもっと先読みして行動に移した会社がありました。IBMです。

 

enterprisezine.jp

 2014年1月23日、IBMがx86サーバー事業をLenovoに売却すると発表、IT業界には驚きの声が飛び交った。というのも、ほんの数日前、IBMはx86サーバーの新製品「IBM X6」の発表を行ったばかり。新製品に関する大規模なイベントも計画されており、このタイミングでの売却発表には驚かされることになったのだ。

 

当時は本当に驚きました。そこから、特に日本においてはIBMはしばらくx86サーバーがないことで、苦戦することになります。しかし、昨今では人工知能やクラウド、分析を強化しつつ、Red Hatの買収なども含め、復活基調にあります。

 

japan.zdnet.com

 

コモディティ化したx86サーバーを持たないことで、AI・分析・クラウドとより高付加価値のテーマに集中し、昨今評価が高まっている認識です。

IBMがどう苦しみ、どう脱していったか。参考にすべき点は多いと思います。

 

考察(さらに)

ここからは完全に個人的な見解です。

富士通の抱える問題は意外にシンプルで、富士通が今後5年後にどんな会社になるかというビジョンが、いかに先進的になれるかどうかにかかっていると思います。そして、何でもかんでもテーマにしていたら、力が分散してしまいます。集中が必要です。

そして、それに属しないものをいかに切り離せるかにかかっていると思います。逆に切り離していけないものまで切り離さないように気を付ける必要があります。

いざ勝ちパターンに入ったら、今の「大企業然」としていることは強みにもなります。現状分析で勝負に出ると、今回のように今勝ち組でも5年後には状況が変化することがある世の中ですから、未来予測が重要となってくると思います。

その意味では、数年前のIBMが「IBMはコグニティブとクラウドの会社になる」とあるカンファレンスで言ったの思い出され、その後紆余曲折を経ながら、AIやクラウドで復権を果たそうとしていることから考えても、そのスローガンが大事です。何の会社になるのか?。それをシンプルに発することができない経営者では、会社も変わらないと思います。

アップルのように変わらないことを強みにするには、富士通の足元は市場が荒れすぎていると思います。変わるために何をするのか、ぜひうならせる未来予測を期待しています。

 

備考

違った観点からこちらの記事も紹介しておきます。

tech.nikkeibp.co.jp

 

ここでもIBMが出てくるのが面白いな。

 

AIでプロジェクトマネージャーの業務は80%削減されるという話

f:id:orangeitems:20190326151958j:plain

 

RPAの次はAIで仕事が消えていく話

このところ定型業務がRPAでことごとく削減されて、いわゆる事務職や間接部門の仕事がどんどんなくなっていく。そんな状況が明るみになっていますが、全く別の分野で人間の仕事が削減の危機にさらされているという記事です。

 

japan.zdnet.com

Gartnerは、プロジェクトマネージャーに任されている作業の80%が2030年までになくなると予測している。データの収集や追跡、報告といった作業が人工知能(AI)に取って代わられるためだという。

 

プロジェクトマネージャーといえば、現場の王様のような役割です。

 

www.liber.co.jp

プロジェクトマネージャ(PM)は期日までに成果物を完成させる使命を負います。そのためにプロジェクトチームを結成し、あらためて必要な人材、資材、費用を計画して確保し、プロジェクトを遂行します。成果物が完成し、ユーザやスポンサーに受け入れられた時点で、プロジェクトは終了しプロジェクトチームは解散します。成果物の完成後は運用担当チームがこれを運用しますが、運用すること自体はプロジェクトチームの役割ではありません。

とはいっても、プロジェクトチームは、できるだけ容易に運用できるシステムを開発し、スムーズに運用チームに引き継ぐ責任があります。なお、プロジェクトの途中で、事情が変わって成果物自体が不要となった場合、あるいはスポンサーが費用負担できなくなった場合などには、プロジェクト自体が中断され、プロジェクトチームが解散することがあります。

近年、ITシステム開発プロジェクトは、業務要件の高度化、IT技術の高度化、複雑化、マルチベンダ化などによって、益々困難なものとなってきています。このため、プロジェクトマネージャ(PM)の役割は益々重要となり、スポンサー、ユーザの期待は大きくなって来ています。

 

RPAの業務効率化とは全然違った観点で、今度はAIが人間の仕事を代替できるようになるというのは少し未来の話になると思います。RPAはすでに現在進行形です。AIがプロジェクトマネジメントを代替したという話はまだ聞き来ませんが、ガートナーが予想している以上は根拠があるのでしょう。

 

具体的にどのようなシナリオで代替が進むか

なかなか刺激的な見出しなのですが、上記の記事のみでは具体性がないため、英文のニュースを当たったところ面白い話がわかりました。

 

siliconangle.com

 

こちら、英文の記事なので私の方で要約してみます。

 

・ガートナーのアナリストは2030年までに、プロジェクトマネージャーやPMOの全業務の80%は、AIソフトウェアによって排除されると予測しています。

・排除されるタスクには、データ収集、レポート作成、追跡などが含まれます。

・プロジェクトやポートフォリオを管理を管理するPPMソフトウェアのプロバイダーが自社の製品にAIを加えるべく企業買収に積極的です。

・この分野は、しばしば新しい参入者により破壊的なイノベーションが起きます。

・今のところ、利用可能なツールはデジタルビジネスの要件を満たしていません。

・しかし2030年までには、企業の幹部は、どのプロジェクトが特定の事業に関連しているのかをシステムに尋ね、状況の最新情報を入手し、会議の項目を取り込むことができるようになるでしょう。現在は、これらのタスクの大部分は人間によって実行されますが、将来的にはチャットボットによって処理されるようになり、より正確に実行されるようになるでしょう。

・会話型のAIとチャットボットを使用して、PPMとPMOのリーダーは、自分のキーボードとマウスを使用するのではなく、PPMソフトウェアシステムに問い合わせてコマンドを発行することができます。

・ガートナーは、プロジェクトおよびポートフォリオ管理のリーダーが、会話型AI、機械学習、およびロボットプロセス自動化などの新しいテクノロジをできるだけ早く実装する方法を検討し始めることを推奨しています。

・AIがPPMソフトウェア市場に根付き始めるにつれて、このテクノロジを採用することを選択したPMOは、予期しないプロジェクトの問題やヒューマンエラーに関連するリスクの発生を減らすことができます。

 

考察

ということで、簡単に言えば便利で高度なソフトウェアが出回るようになると、今まで人力でやっていた部分がデジタル化されるということになります。これまでは、自分でデータを集め、考察し、その気づきが「バリュー」とされてきたと思います。自分ではなくAIが代わりにやってくれる。

では人間には何が求められるか。いわゆる「ガバナンス(統治)」になると思います。どんなにソフトウェアが進化しても、人間の行動を変えられるのは人間でしかありません。ソフトウェアはアラートを出すだけです。AIを味方につければ、レガシーなプロジェクトマネージャーと比べて、より正確に、かつ素早い判断ができるようになるのです。それを活かして、人間を適切に動かしていくのは最後に残る仕事になると思います。微妙な判断を、チャットボットからAIに指示されても、仕事はうまくいかないですよね。

一方で、経営層がプロジェクトマネージャーに一任していた状況が、経営層にもリアルタイムで見えるようになります。プロジェクトマネージャーにとっては即時的に評価を受けることとなり、いわゆる政治的なトリックを使いにくくなるでしょう。人間プロジェクトマネージャーの真の力は、良くも悪くもこの政治力にあったりすることもあるので、そこは世界がかわるでしょう。一方で、AIによって経営者はプロジェクトマネージャーのスキル不足によるリスクを軽減できるようになるとは思います。

以上はRPAの業務削減よりはよりスマートで未来的だと思います。「80%がなくなる」という言葉からはネガティブな雰囲気が漂いますが、むしろ味方につけて、どんな大きなプロジェクトでも、AIの力で正確にかつリアルタイムに把握し進行できる時代に寄り添っていきたいものです。

 

RPAを導入したら86.2%の時間削減に成功した茨城県、どんな業務だったのか

f:id:orangeitems:20190325163432j:plain

 

RPA導入の先駆者、茨城県庁の事例

先日の横浜市RPA導入レポートの件は、その破壊的な労働時間削減に戦慄が走りました。RPA自体の効果より、そもそもの対象業務があまりにもルーティンワークそのものであることが話題となりました。RPA導入以前に業務改革するべきではという声もたくさん聴かれました。

さて、横浜市のレポートはかなり具体的でありいろんな方が参考になったのではないかと思いますが、自治体と言うところで言えば茨城県庁が最も早い取り組みをしているということで注目します。

 

www.itmedia.co.jp

最近、全国の自治体でRPA(Robotic Process Automation)の実証実験が増えている。外部からは「定時で帰れる仕事」と思われがちな自治体の業務だが、実際はいまだに紙ベースで行われることが多い申請の処理作業などが山積みで、職員が多忙を極めるケースもあるという。また、「市民の税金で業務を回していることもあり、簡単にはツール導入の予算を取れない」と頭を抱える自治体もあるようだ。

 そんな中、2019年にいち早く大規模なRPA導入を決めた自治体がある。北関東に位置し、約270万人の人口を抱える茨城県だ。正職員だけで約4500人が働く茨城県庁では、2018年、導入予算が“ゼロ”の状態からRPAで業務の一部を自動化する実証実験に成功。2019年度の予算では、早くもRPAやAIなどのツール導入に約6700万円の予算を割り当て、庁内の20業務を自動化することを決めた。

 現在は、同じようにRPA導入を目指す自治体からの問い合わせも受けているという同県。いち地方自治体としては迅速かつ大胆ともいえるIT投資を、どうやって実現したのか。

(中略)その音頭を取るのが、2017年8月に初当選し、同年9月に就任した茨城県の大井川和彦知事だ。大井川知事は、東京大学卒業後、当時の通商産業省(現・経済産業省)で官僚を務め、日本マイクロソフトやシスコシステムズの執行役員をはじめ、ドワンゴの取締役も務めた経歴を持つ。2019年度の予算が決まる前の2019年1月30日に都内で行われたイベントで、知事はこう語っていた。

 

組織のトップがITに明るいというのはこれからの時代ならではだと思います。昨日、管理職は人だけではなくRPAも管理できるようにならなければいけないという記事をアップしましたが、まさにそれを体現したようなキャリアの方です。

 

実証実験の結果

茨城県庁の報道発表が以下となります。

 

www.pref.ibaraki.jp

茨城県では,ICTを活用した業務の生産性向上の一環として,RPA(ソフトロボットによる業務の自動化)の実証実験を行い,庁内業務におけるRPAツール導入の適合性の検証や,作業の効率性向上等の効果の検証を行いました。(ロボットによる業務自動化(RPA)の実証実験を行います)
その結果,対象4業務の職員の労働時間86.2%の削減効果があることが判明しました。今後,県業務へのRPAの本格導入を目指してまいります。

 

RPAの効果を語るとき、どうも90%という数字に近づいていくようです。逆に90%に近くならないと導入は失敗であるという肌感覚ですね。恐ろしい数字です、10倍速くできるようになるということを示しています。

記事中の下記のグラフを噛みしめなければいけません。

f:id:orangeitems:20190325151648p:plain

しかも、4業務だけですので、冒頭の記事のように今後対象業務を広げていけば、さらにたくさんの業務が上記の結果となっていくのでしょう。

 

定型業務はどれぐらいの負担だったのか

横浜市のレポートに対するコメントの際、「公務員が四六時中、こんな定型業務をやっているわけではない。片手間だ。」という意図の内容があり記憶に残っています。

票を表に転記するのを一年中やっているわけではないと。しかし、茨城県の事例を検討すると別の側面が見えてきます。

 

4つの定型業務について、3,201時間だったと言っています。

一方で、

・一人がフルタイムで仕事しようとすると160時間(週40時間 x 4週)です。
・年間にすると、1,920時間(月160時間 x 12カ月)です。

つまり、少なくとも実験段階で、1.5人は一年中、この業務ばかりやっていたということになります。

かつ、有給休暇を取ったり、非正規雇用で週2~3、という形態もあります。したがって、この実験段階でも1.5人ではなく、数人が、かなりの時間この仕事に手を取られていたということになります。

 

どんな仕事だったのか

さて、本題です。

茨城県の報告は4つの定型業務を対象にしました。

 

・予算令達時の財務会計システムへの入力業務

・教職員の出張旅費の入力業務

・国民健康保険事業の資料確認業務

・水産試験場漁獲情報システムデータの処理業務

 

具体的にどんなルーティーンワークだったのか、見ていきましょう。

 

予算令達時の財務会計システムへの入力業務

令達というのは行政の専門用語でもありますね。あらかじめ決められた予算に対して、実際に利用することを「令達」と言うんですって。

そりゃあ、何か使ったらシステムに入力するのは当然か・・。

で、入力業務の事務処理プロセスはさすがに茨城県は公開していないのですが、なんと高知県が公開していたので参考にしてみます。

 

www.reikisyuutou.pref.kochi.lg.jp

4 歳出予算の令達

 課長は、予算規則第14条の規定により歳出予算の令達を行おうとするときは、次により処理する(旅費は、新旅費システムで予算を執行するため、令達不可)。

(1) 暫定令達

 出先機関において年度当初に支出負担行為の決議を必要とするものについて令達を行おうとするときは、手書きにより予算令達決議書(予算令達入力票)(予算規則第4号様式)を作成し、決裁後、その写しを別途通知する期日までに会計管理課へ送付する。

 なお、暫定令達の件数が少ない場合は、(2)随時の令達の例により処理することができる。

(2) 随時の令達《画面205及び207》

 随時に令達を必要とする場合は、財務会計システムにより予算令達決議書(予算規則第3号様式)を作成し、決裁後、財務会計システムにより令達確認を行い、予算令達確認書(電算処理第10号様式)を作成する。

 

多分に、茨城県でも似たような状況ではないかと。通常の予算であれば財務会計システムで完結するけれども、暫定予算の利用については手書きで、予算使ったよという書類を作成・・。これを会計管理課に送って、手入力するんでしょうね。

茨城県がどうなっているかはわからないのですが、少なくとも「入力」と言っている以上は紙の書類が回ってきて、それをシステムに入れなければいけないんだろうと予想します。

高知県の例ですが、通常予算であればシステムは対応しているけれども、暫定予算は手書き・・というようなところが、システムの穴になりそうな部分だと感心します。

 

教職員の出張旅費の入力業務

なぜ紙で・・とお思いでしょうが、たくさんの学校がまだ「紙」で帳票処理をしているのです。あくまでも「例」として、立教大学の帳票を参考にします。

 

spirit.rikkyo.ac.jp

※上記より引用

f:id:orangeitems:20190325155837p:plain

申請書を受付けた事務担当者はワークフローシステムに代行入力して下さい(先端科学計測研究センター、チャプレン、カウンセラー、名誉教授、
その他学外者の出張はワークフローシステムに入力できませんので、必ず承認印をもらった上で紙のまま人事課に提出して下さい)。

 

今回は、上記と同様の書類が茨城県全体の帳票が回ってくるのですから、なかなかの負担であると思います。

 

国民健康保険事業の資料確認業務

健康保険の加入・喪失などを直接受け付けるのは県の仕事ではなく、市町村の仕事ですが結局は、市町村から資料を受領し処理を行っているんでしょうね。

茨城県神栖市より参考資料。

 

www.city.kamisu.ibaraki.jp

お勤め先の社会保険に加入されていた方で、再就職や家族などの社会保険の扶養とならない場合、国民健康保険に加入する必要があります。

社会保険等をやめたとき,届け出に必要なもの

・厚生・共済年金等請求手続き済の方(厚生・共済年金等を20年以上加入,または40歳以降10年以上加入)

・社会保険等資格喪失証明

・年金証書

・医療福祉制度・医療費の助成(マル福・神福)に該当している方は受給者証

・印鑑(朱肉をつかうもの)

・被扶養者(ご家族など)が60歳未満の場合は,その方の年金手帳
通知カードまたはマイナンバーカード(個人番号カード)など、マイナンバーのわかるもの(世帯主の方と国民健康保険に加入される方の分)

 

基幹システムはもちろんコンピュータ化されているものの、各種資料は紙。この辺りを攻めたということですね。

 

水産試験場漁獲情報システムデータの処理業務

世の中は、見えていないシステムによって成り立っているんだなあという感想を持つ仕事です。

 

www.gleas.jp

社団法人漁業情報サービスセンター(以下、JAFIC)は、日本周辺の漁業情報を収集・分析および提供する専門機関であり、全国の水産関連団体・企業との密接な連携により、我が国周辺資源評価情報システム(以下、fresco)および水産物流通情報リアルタイム提供システム(以下、リアルタイム提供システム)などを運営している。

frescoとリアルタイム提供システムは、いずれもシステム構築ベンダーにより構築・運用されているWebベースのセンターシステムとGléasおよびUSBトークンによる厳格なセキュリティプラットフォームから構成されている。

 

このfrescoというシステムに、茨城県の水産関係機関が水産データを入力しているらしい・・。ただ全く何をしているかわからないし、frescoを運営するJAFICのホームページからも何も読み取れない・・。

とにかく、Webに、何かのデータを入力するのが大変ということは理解できましたが。

 

まとめ

公共機関の仕事は、インターネットで語られることはあまりなく、無駄が多いと叩かれやすいと理解しています。しかし個別に見ていくと、法律によって決定している手続きを壊すわけにも行かず、個々のプロセスで四苦八苦している様子が伺えます。

RPA自体は業務フローを壊しませんから、非常に「手続き」を重視する職場には効果てきめんだと思います。自治体だけではなく金融機関も前のめりで導入していることも理解できます。

「定型業務の処理能力は、もはや人間よりもRPAの方が10倍速い」、というざっくりとした感覚値は日本全国に広がりつつありますから、むしろRPAを使う側に回るとともに、空いた時間をどのように活用できるかが労使双方に問われていると思います。

その余力を人員削減・肩たたきに使う動きについては、私は冷ややかに見ています。RPAによってこれまでより10倍多く生み出せるのだから、10倍の生産性を発揮する方向に行かねば、と強く思います。

 

RPA導入後のオフィスはこうなる/RPAは管理職必修スキルへ

f:id:orangeitems:20190323143051j:plain

 

たくさんの現場でRPAがブレイク

RPAを導入したら業務にかかる時間が9割削減された--。そんな見出しのニュースが氾濫しています。

 

www.itmedia.co.jp

長野県は、富士通のRPAツール「Axelute」と公共工事の設計・積算業務支援ソフト「ESTIMA」を活用し、行政事務を効率化する実証実験を実施。RPAでは作業時間を最大88%削減するなどの効果を確認した。職務を単純作業から付加価値の高い作業へシフトさせ、行政サービスの品質向上を目指す。

 

japan.zdnet.com

ジャパンシステムは3月19日、熊本県天草市と共同で自治体業務にRPA(ロボティックプロセスオートメーション)を適用する実証実験を実施したと発表した。

 その結果、公共料金関連業務(管財課)で稼働時間の削減率が52.4%(6.9勤務日数相当)となり、健康診断関連業務(健康増進課)では77.5~87.1%(13.6~26.6勤務日数相当)の稼働時間削減が確認された。

 

japan.zdnet.com

マルエツは、NECのRPA(ロボティックプロセスオートメーション)製品を導入し、本部経理の交通費精算業務と会計システム入力業務を自動化した。NECが2月20日に発表した。

 2018年4~6月まで実施した実証では、交通費精算と会計システム入力の2つの業務について、月間200時間掛かっていたところを20時間に削減できた。また、会計システム入力業務では、複雑な作業のため発生していた社員教育の負担を軽減した。

 

共通するのは「業務削減率90%」と言う桁外れの数字です。そこに人がいたのは間違いないのですから、そろそろ、宣伝文句でも無ければ絵空事でもないことを日本の誰もが認識すべきだと思います。

 

導入に成功した職場の様子

とても象徴的な写真があるのでご紹介したいと思います。

 

f:id:orangeitems:20190323134855j:plain

引用元:DIAMOND online「ロボット導入で人員1/10も、あいおいニッセイ同和損保の災害対応が劇的効率化」より

 

上記は、あいおいニッセイ同和損保保険が昨年、台風被害が拡大し支払事務が爆発的に拡大した時期の際、RPAを自動処理する会議室を構築した際の様子です。

元記事を読んでいただくとわかりますが、すべての業務が9割削減されるわけではありません。500人の増援スタッフの横に構築したのがこの設備です。RPAは魔法の杖ではないので、導入に適切な業務を見極める必要はありますが、見極めができて導入が成功したときの絵は刺激的なものがあります。パソコンがいっぱいあるのに、人はまばら。でもどんどん仕事をこなしているのです。その人は仕事を直接するのではなくRPAの動作を管理しているということになります。

つまり、定型業務を大量にこなす必要のある職場は、具体的にこの写真のような景色になるのが必然ということになります。

 

管理職はRPA必修の時代へ

これまでの管理職の定義はこのようなものでした。

 

www.kushida-office.com

労働基準法が定める管理監督者とは、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な関係にある者」をいいます。それは、部長、店長、工場長などの名称ではなく、実態で判断されます。

厚生労働省の通達(S63.3.14)で示された、管理監督者に該当するポイントをまとめると、主に以下の3点となります。


管理監督者に該当するための3つのポイント

1.職務内容、権限、責任

労務管理について、経営者と一体的な立場にあること

2.勤務態様、労働時間管理の現況

労働時間、休憩、休日等に関して厳格な規制を受けず、自己の勤務時間について裁量性が認められていること

3.待遇

賃金などの面で、一般労働者と比較して、その立場に相応しい優遇を受けていること

 

このように労働基準法では、一般の労働者とは区別して「管理監督者」という存在が定義されています。経営者と近い立場で裁量を持たされていて勤務時間が拘束されないということを一般的に、「管理職」と言いますよね。

昨今のRPAブレイクと上記の写真を見ると、今後管理職は、人だけではなくRPAも管理するスキルを持つことが必須になってくるのではないかと思うのです。

これまでは、人を管理する、という概念だけが重要でした。自分がどれぐらい部下がいて、どれぐらいの仕事量を生み出すかが管理職としてのポテンシャルでした。自分がどれだけ仕事ができても組織で大きな結果を出せなければ、管理職としては評価されない。いろんな組織でそんなことをたくさんの人が言ってきたでしょう。

でも、RPAがこれだけ一般化してくると。人間の仕事の10倍の量を労働時間にこだわらずこなし続ける部下がいるようなものです。でも人間ではないのです。そうなると莫大な結果を一人の担当者が生み出すことができるようになります。

また、RPAの使いこなし方によっては、結果が出ない人もいるし、トラブルだって起こす人もいます。そうです。会社の部門と何ら変わりはしないのです。部門長によって結果が大きく左右されるから「管理職」とは特別な職制であり、優遇されるのです。ということは、部下が人であろうとRPAであろうと、その群を管理する責任を持った人は経営に対して近い役職であることと同じ意味になります。

RPAの活用が一担当者任せではうまくいかないのは、この観点です。管理職こそRPAのスキルを今後持たなければいけないし、逆に置き換えられる人間側に属するのがまずい明確な理由となります。管理職がマネジメント研修を受けるのと同義に、RPA研修を今後受ける必要が生まれるでしょう。そして大きな業務をこなすときに、どのような仕事を人に任せ、アウトソーシングを行い、そしてRPAをどの部分で使うか。そして会社に横断的にRPAをガバナンス(統治)する部署がある。こんなふうに今後、組織が変革されていくのが目に浮かびます。

RPAに特化した管理職スキルもあれば、仕事をこなす主体がRPAなのか人なのかを見極めることも重要。管理職スキルはRPAと今後切っても切り離せなくなると思います。

 

RPAを使う「繰り返し仕事」はなくならない

最後に、この9割の仕事を消せるRPAの話題となると、必ず「そんな仕事はもとから削減すべき」という話が出てきます。しかし私がいろいろな現場を見てきた限り、どんなにシステム化を進めたとしてもどこかで繰り返し仕事は発生します。それが定常的であり永遠に続く仕事であればシステム改修の話となるのですが、上記のように一時的に大量に発生した仕事の場合、システム化していたら間に合わないかもしれません。

横浜市の例では、メールアドレス作成の仕事も不定期ですし、勤怠システムから労働時間を抜き出す仕事も月初の作業でしょう。このように、システム化したときの効果測定がしにくい仕事が「残念な繰り返し仕事」として各職場ではびこっているというのが現実ではないでしょうか。

こんな仕事に対してRPAは即効性があります。その時しのげればいいのでしたら、力業だけれども自動化によって効果10倍。当然の帰結であろうと思います。そして、そんな仕事は思いのほか多いのです。

RPAスキルを持つ管理職が従来の管理職を駆逐する。そんな未来が見えます。

 

新しく実装されたOperaブラウザのVPNの出口を調べてみた

f:id:orangeitems:20190322172927j:plain

 

アクセスはしたい。でも自分の存在を知られたくない。

インターネットをいかに安全に利用するか。

自分とサーバーの間には通信路があるのですが、この間に何者かが介在して盗聴されるかもしれない。特に公衆の無料Wifiなど、運営者が100%信用できない場合にはリスクが増加します。

また、サーバーの運営者に対してもできれば匿名でアクセスしたいという動機もあるのかもしれません。

動機は色々あると思いますが、とにかく安全にアクセスしたいという要望は強く、その中でもVPNアクセスに興味を持たれている方は多いのではないでしょうか。自分とサーバーの通信路の手前にVPN(仮想プライベートネットワーク)を構築し、自分の存在を隠してしまうという仕組みです。

 

今日、気になるニュースを目にしました。

 

japan.cnet.com

ノルウェーのOpera Softwareは現地時間3月20日、「Android」版の「Opera 51」の提供を開始した。この最新バージョンには、無料のビルトインVPNサービスが追加されている。これにより、公共Wi-Fiネットワーク使用時にセキュリティを確保するために、サインインしたり、追加のアプリをダウンロードしたり、追加料金を支払ったりする必要がなくなる。Operaによると、この機能を利用することで、ユーザーは自分のオンラインプライバシーをより強固に管理できるという。

 

一見良いことばかりなのですが、本当に安全なのでしょうか。

Opera 51は今のところ日本ではまだダウンロードできませんが、ベータ版(51.0.2461.137246)にてこの機能が使えるので実際に利用して確認してみたいと思います。

 

手順

私は今Android 9を利用しているのですが、久しぶりにOperaをダウンロードしてみたらUIが結構洗練されていて驚きました。

さて、このVPN機能ですが、とても設定が簡単です。

 

右下のオペラアイコンをクリックし・・。

f:id:orangeitems:20190322165108j:plain

 

設定を選び・・。
f:id:orangeitems:20190322165125j:plain

 

VPNをオンにするだけです。

f:id:orangeitems:20190322165136j:plain

 

ただし、プライベートタブだけがVPNの対象になることが重要です。

タブを開くときに、プライベートを選んでWEBを見るようにしましょう(プレイベートタブはスクリーンショットすら取れないので画面は省略しますね)。

 

VPNサーバーってどこにあるの??

このOperaブラウザがVPNセッションを確立したらどんなIPアドレスで、どこから出て行っているのか気になりませんか?

ということで、実際に試してみました。

私の持っているWEBサーバーに、VPN+プレイベートタブ経由でアクセスしてみたのです。IPアドレスを引っ張ってきて、その所有者や地域を調べてみました。

本当はアクセスログやIPアドレスをさらすと信ぴょう性が高そうですが、個人のブログではやめておきます。IPアドレスの場所確認は、「IP Address Location」でぐぐると、たくさんサイトが出てきますので複数で確認しました。

 

結果

スウェーデンのようです。Opera Software ASというISPが保持していているように見えます。アクセスするたびにスウェーデンのProxyサーバーが代理でアクセスを行うので、どうしても日本からアクセスすると遅くなるだろうと思います。

また、最終的にスウェーデンから出ていくのは分かるのですが、VPNのトンネルの受け口もスウェーデンにあるかというとそれは、パケットキャプチャーを取らないと分からないです。でもそこまですることもないかなと思いここは不明としておきます。

まあ、VPNの入り口と、プロキシを遠くに置くことは考えにくいので多分にスウェーデンに一緒にあるんじゃないかな・・、と思いました。

また、入り口もスウェーデン、出口もスウェーデンだけど、その経路がスウェーデンのみという保証は何もないですよね。これはもうOperaを信じるしかないという話です。

 

気になること

 Operaは、2016年に中国資本が入ったということ一点です。

 

wirelesswire.jp

中国企業のつくるグループがノルウェーのオペラ(Opera Software)からウェブブラウザ関連などの一部事業を約6億ドルで買収することになった。両者が合意していた完全買収の計画が頓挫したことを受けての動きという。

 

そのあと、NASDAQにIPOを果たしたり、非公開で資金調達したりと、資本も複雑になっています。

 

japan.cnet.com

Operaは、IPOと同時に、Bitcoin採掘用コンピュータメーカーのBitmainとしても知られるTospring Technologyや、IDG Capital Fund、IDG Capital Investorsから非公開の資金調達ラウンドで6000万ドル(約66億6100万円)を調達した。IPOを引き受けた金融会社には、新たに15%相当の株式(144万株)を公開するオプションが付与される。

 

今回のVPN設定も、中国経由だったらアレだなあと思っていましたが、そんなことはないように見えます(ただトンネルの中がどうなってるかまでは全然わからないですが)。

まあ、スウェーデンだろうが中国だろうが、ホテルの無料Wifiなんかよりはよっぽど安全な気もするのですが、宣伝文句に乗って手を出す前に、その運営企業のバックボーンや技術背景はきちんと押さえた方が良い‥と思います。