富士通は大企業病か
富士通田中社長のインタビュー記事が日経電子版に掲載されています。実質5年周期の社長任期の中で当初に掲げた経営目標が未達。現状分析と反省が赤裸々に語られた内容となっています。
国内最大のIT(情報技術)企業、富士通が苦境に立っている。田中達也社長は自らが就任1年目の2015年に掲げた「営業利益率10%」「海外売上比率50%」という経営目標のうち後者を撤回。前者は社内外での認識より2年先送りの22年度の達成とした。田中社長は社長就任後の3年半をどう省みるのか。本人の独白から探る。
昨今のジョブ再配置/早期退職等の構造改革は、この状況から脱するためにはぜひとも必要なのだと読めますね。
有料記事ですが、日経電子版は無料会員でも月10本まで読めますので、業界の方はぜひご一読されることをお勧めします。
考察
この記事に二度出るワードに「コンサバティブ(保守的)」という言葉があります。大企業故に保守的でそれが弱みとなっているという分析です。
大きな企業でも、小さなスタートアップ企業にしてやられるということが昨今よく起こっています。デジタル・ディストラプションと言う言葉があります。
「デジタル・ディスラプション」とは、デジタルテクノロジーによる破壊的イノベーションのことを指します。ディスラプション(disruption)は、英語で「崩壊」。つまり、すでにある産業を根底から揺るがし、崩壊させてしまうような革新的なイノベーションこそ、デジタル・ディスラプションなのです。この数十年を振り返るだけでも、社会では数多くのデジタル・ディスラプションが起き、人々の生活に変化をもたらしました。
かつてのアップルがiPhoneで行ったように、AmazonがAWSでIT業界を席巻しているように、もともとあった市場を根底から覆すようなビジネス。これはコンサバティブ(保守的)の対極にあると言えます。
富士通田中社長はその原動力が社内に無いことを嘆き、大企業病と言う言葉を使っているのですが・・、この文脈に私は違和感を感じるのです。
というのは、実のところ例えばアップルは、ガチガチの大企業病に陥っているように見えるのです。昨日の新サービス発表会はご覧になりましたでしょうか。
Appleは2019年3月26日(日本時間)、スペシャルイベントを開催しました。残念ながら新デバイスの登場はありませんでしたが、4つの新サービスが発表されました。本記事では、発表内容を時系列順にまとめていきます。
もうこのところのアップルの発表会は、私にとっては「ガッカリ砲」です。以前は夜更かしして発表会を見たこともありましたが、もはやそんな意味は感じません。例えば今回にしても、Apple News+、Apple Card、Apple ArcadeにApple TV+。どれもこれも先駆者が先にいます。むしろNTTドコモ、AUやソフトバンクが既にやっていることに二番煎じに見えます。イノベーションがない。おそらく、夜更かしして発表会を見る層に対して刺してくるコンテンツではないのでしょう。ジョブズがいたころのAppleではないのです。発表会前日に、iPadやiMac、AirPodsの新製品も出しましたが、マイナーバージョンアップにとどまっていて、サプライズとはなりません。
じゃあ、それが失敗なのか。実はそうではありません。
基本的には数年間、右肩上がりのビジネスを維持しています。
特に最も大事なのが、CEOのティムクックは、ものすごく「コンサバティブ(保守的)」だということです。これだけ世界がiPhone SE 2を期待していたのに出してこないあたり、筋金入りです。
アップルとしては、iPhone SEを買う層は2年に一度買い換えるようなモチベーションがなく、安く手に入れて長期間使われるとまずいという判断が働いたのでしょう。ライトニングコネクターも全くUSB-Cに代わる気配もなく。アップルとしては、今のエコシステムを一年でも長く継続することがより重要なんだという意図が取れます。その安定したプラットフォームの上で、今更ながらサブスクリプションビジネスを充実させて、囲い込みをしたい。これは前段でも言いましたがNTTドコモなどと全く、全く同じです。
富士通の話に戻ります。
アップルの例から、「大企業病だから業績が落ちる」というのはミスリードする恐れがあると思います。大企業が大企業然としているのはある面から言えば強みです。安定した市場シェアを持ち、それを保っていくという意味においては大企業のパワーというものは圧倒的です。
問題は、富士通が優位性を持っていたのが、オンプレミス市場だったという点です。オンプレミスのSI案件は過去何回か提案にトライしたことがあるのですが、痛感したのは、ハードウェアの存在です。SIするにしてもそれを動かすハードウェア基盤が必要です。それを自社製のハードウェアとセットで販売できるのです。しかも、データセンターと運用部隊まで持っています。富士通にSIをお願いするなら、ハードウェアもデータセンターも運用も一括でお願いすれば、スケールメリット(値引き)もあるし強いね。これが富士通を始め、ハードウェアを持っているSIerの強みでした。特に、ハードウェアというものは、売れれば額が大きいのです。5年保守込みで売れるので、SIそのものよりも大きい売り上げとなることもあります。一方でハードウェアを持っていないSIerはどこからかハードウェアを買ってこなければならず、価格勝負では勝てっこなかったですね。そりゃあ自社仕入れの方が有利だよなと。
このやりかたで伸びたのが2015年ぐらいまででしたが、そこから、クラウドが大きく伸長してきました。
最近のSIの動向を見ると、完全にオンプレにするのか、それとも一部または全部クラウドにするのかという案件が激増しています。しかも、クラウドと言ってもいわゆるメガクラウド、AWS / Azure / GCP / IBM Cloudのような世界中に莫大な資本で投資され組み上げられた基盤が相手です。この状況においては、自社ハードウェアがかえって足かせになります。クラウドにリソースが逃げると、自社ハードウェアの売上が下がるのです。
そのうえ、クラウドが絡む提案となると、自社ハードウェアを持たない、中小のSIerでもがっぷり四つに戦えてしまいます。リソースはクラウドで、そこで経験をもつSI部隊。なんとも身軽で、富士通にとってはなんともやりにくい相手と戦うことになっているのではないかと推察します(というか、富士通に限った話でもないですが)。
つまり、田中社長が取った戦略、
「利益率が低いユビキタスやデバイスの事業を切り離し、国内のシステム構築サービスなどの利益率が高い事業に集中すれば、おのずと営業利益率10%という目標の達成はついてくる」
というのは、2015年段階においては間違っていないと思います。そのころは強かった。しかし、市場がクラウドで様変わりしてしまったのです。大企業病が問題ではなく、市場がデジタル・ディスクリプションされてしまったことが原因だと思います。
さてどうするか
過去を振り返ってみると、現在の状況をもっと先読みして行動に移した会社がありました。IBMです。
2014年1月23日、IBMがx86サーバー事業をLenovoに売却すると発表、IT業界には驚きの声が飛び交った。というのも、ほんの数日前、IBMはx86サーバーの新製品「IBM X6」の発表を行ったばかり。新製品に関する大規模なイベントも計画されており、このタイミングでの売却発表には驚かされることになったのだ。
当時は本当に驚きました。そこから、特に日本においてはIBMはしばらくx86サーバーがないことで、苦戦することになります。しかし、昨今では人工知能やクラウド、分析を強化しつつ、Red Hatの買収なども含め、復活基調にあります。
コモディティ化したx86サーバーを持たないことで、AI・分析・クラウドとより高付加価値のテーマに集中し、昨今評価が高まっている認識です。
IBMがどう苦しみ、どう脱していったか。参考にすべき点は多いと思います。
考察(さらに)
ここからは完全に個人的な見解です。
富士通の抱える問題は意外にシンプルで、富士通が今後5年後にどんな会社になるかというビジョンが、いかに先進的になれるかどうかにかかっていると思います。そして、何でもかんでもテーマにしていたら、力が分散してしまいます。集中が必要です。
そして、それに属しないものをいかに切り離せるかにかかっていると思います。逆に切り離していけないものまで切り離さないように気を付ける必要があります。
いざ勝ちパターンに入ったら、今の「大企業然」としていることは強みにもなります。現状分析で勝負に出ると、今回のように今勝ち組でも5年後には状況が変化することがある世の中ですから、未来予測が重要となってくると思います。
その意味では、数年前のIBMが「IBMはコグニティブとクラウドの会社になる」とあるカンファレンスで言ったの思い出され、その後紆余曲折を経ながら、AIやクラウドで復権を果たそうとしていることから考えても、そのスローガンが大事です。何の会社になるのか?。それをシンプルに発することができない経営者では、会社も変わらないと思います。
アップルのように変わらないことを強みにするには、富士通の足元は市場が荒れすぎていると思います。変わるために何をするのか、ぜひうならせる未来予測を期待しています。
備考
違った観点からこちらの記事も紹介しておきます。
ここでもIBMが出てくるのが面白いな。