orangeitems’s diary

40代ITエンジニアが毎日何か書くブログ

「『コンテナ疲れ』と戦う、k8s・PaaS・Serverlessの活用法」を迷えるエンジニアは読もう

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コンテナ技術のカンファレンス

Japan Container Days v18.04という、コンテナ技術をテーマにしたカンファレンスが2018/4/19に東京のベルサール神田で行われました。

prtimes.jp

東京にいると、こんな刺激的なイベントが毎週のように開催されていて、IT関係の技術者は居心地がいいと思います。

このカンファレンスの中で、Pivotal Japanに在籍されているKazuto Kusamaさんのスライドが超よくできているので、ぜひご紹介したいと思います。

 

おすすめのスライド

こちらです。

 

www.slideshare.net

 

私はクラウドを重用するインフラエンジニアで、かつ、界隈ではコンテナ!クーバネティス!サーバーレス!ってうるさいものですから、情報収集は欠かさず行っています。ところが、なかなかそういう仕事がこない。コンテナ使っていないのに、すでにコンテナ疲れしています。

そもそも、Dockerにしろk8sにしろ、無愛想なインフラエンジニアの存在を無視して開発エンジニアだけでインフラまで自動化しちゃうおう、という魂胆が見えるので、非常に苦しさもありました。モノリシックである前提でインフラエンジニアはいますからね。ロードバランサー一丁!喜んで!、冗長化設計!喜んで!、という感じです。それをk8sなんかで自動化されたら取りつくシマもないです。また、PaaSとかでサーバーレス、なんてやられてしまったら、サーバーがレスなんですから、インフラエンジニアもレスでしょうね。お茶でも飲んでますかね。

で、戦々恐々としてたんですが、仕事はこないですね。このスライドにもあるのですが、Dockerにしろk8sにしろ、結局はインフラを知らないと使えなそうです。Dockerfileを書いてたら半日過ぎてたということですが、それっておそらく今までインフラエンジニアがやってた部分です。丸投げしていたことを開発者自身がやらなきゃ行けなくなった。それって幸せなの?ということで、非常に、非常によくわかります(そう言ってくれるのを待ってました)。そこは本当はインフラエンジニアが楽する部分なんだろうと思います。

あと、リポジトリーを適当に作って運用したら障害頻発、とかいうのもこれもインフラエンジニアの仕事です。非機能要件と言って、アプリケーションの機能以外の部分が、コンテナには含まれているんですね。そこを整える仕事もある。

で、全部を読んだ結果、消極的に考えればまだモノリシックな設計は十分採用できると思いました。ここまでして新しい技術に合わせたとしても、現時点では得るものより失うものの方が大きい。

一方で、将来的にはどうか、というと、必ず「これ」といったベストプラクティスが確立するとおもます。LAMP構成というのがしばらく流行りましたが、ああいう、誰でも成功できるテンプレートのようなものです。

昔話になるのですが、Linuxがまだオモチャだったころ、私も触っていました。インストーラーをCD-ROMに焼いて手持ちのパソコンにインストールするのですが、なかなかうまくいかない。そもそもCD-ROMが認識しない。いろんな事例を調べ回避策を入れ込んで、数日かけてやっとインストールが完了する。ただ無線LANに繋げるにはまたそこから数日・・そんな世界でした。今や、Linuxなんて数クリックでインストールできてしまいます。今のコンテナ技術も似たような状況だと思います。もっと、決定版のようなものが出てきて、試しに入れたらマニュアル無しでも使えるぐらい簡単、そんな状態になる過渡期だと思います。

私の黎明期のLinuxのときの苦労など誰も知らず、今の若手はLinuxを当たり前のように空気のように使っているわけです。今コンテナで疲れている人の苦労も知らず、未来はコンテナを新人エンジニアが使っているんでしょうね。だいたいWindowsだって3.1のころは・・(もにょもにょ

 

・・・ということで、このスライドを読んで少し心が落ち着きました。情報収集を継続しつつ「お、これ楽チンか?」と思ったら手を出してみればいいかなーと思いました。そこまで行かないで消えていく技術もたくさんあります。全部に手を出していたらきりがないので・・。

まあ、「絶対に来るでしょこれ」っていう最新技術の黎明期に、リスクを飲んで挑戦するのも人生です。それで来たら来たでパイオニアです。伝説になれます。そういうエンジニア魂もまた素晴らしい。

とりえあず、コンテナの現在の状況がつかめる良い資料だったのでご紹介しました。ぜひ。

 

Oracle Code Oneの開催、GraalVMの公開から見るORACLEのビジョン

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Oracleから2つの大きな発表

Publickeyというブログから最近情報収集することが増えました。客観的な記事が多く大変ためになっています。

さて、Publickeyから、Javaについて2つ大きなニュースを頂きました。

 

①Oracle Code Oneの開催

www.publickey1.jp

毎年秋に開催されていたJavaのイベント「JavaOne」は、今年から名称が「Oracle Code One」になり、Javaだけでなく他の言語や技術なども扱うデベロッパー向けの総合イベントになることが明らかになりました。

 

②GraalVMの公開

www.publickey1.jp

米オラクルがオープンソースで公開した「GraalVM」は、これまで言語ごとに個別に用意されていたランタイムを統合し、単一の高性能なVMにするという同社の研究の結果開発された汎用仮想マシンあるいは汎用ランタイムです。

 

2つの発表から見るOracleの姿勢

以下、個人見解です。

OracleはもうJavaという歴史的な負債を精算したいのではないでしょうか。Javaはもともとサン・マイクロシステムズ時代の資産なのは有名です。そして、オープンソースとのつきあいに失敗し、現在はGoogleとのAndroidをめぐる巨額の訴訟や、サポートロードマップの変更による利用者の混乱など、ネガティブなトピックを抱えていることは周知の事実です。

2018年にJavaを利用している人は全員理解すべきことを説明してみる(追記あり) - orangeitems’s diary

OracleとGoogleのJava著作権侵犯裁判の現状を知る(2018年版) - orangeitems’s diary

Javaに対して、Oracleが多大な貢献をしているのは紛れもない事実です。しかし、残念ながらOracle本体ビジネスへの貢献ができていません。いくらJavaソースコードに修正を加えても、ライセンス料は発生しないのです。

Java9からは、Oracleによる無償サポート期間が半年になり、それ以降は有償サポートを受けないと最新版が手に入らなくなったのは既報の通りです。また、3年のサポート期間をつけるLTSはJava11で予定されています。このLTSも今のところOracle JDKでしか予定されておらず、オープンソース版であるOpenJDKにて同じように、LTSが存在するのかいまだ不明瞭です。OpenJDK自体もOracleが大きくコミットしていることを考えるとOracleはOpenJDKでLTSが出るのを快く思っていないと個人的には考えています。ここはまだどうなるかわかりません。

一方で、GoogleにはAndroidを踏み台に巨額の損害賠償を起こし、Javaが本来得られるはず(と主張している)利益をもくろんでいます。なにしろ、Javaがビジネスになっていないことについて、どうにかしなければいけないとOracleが考えていることは明白です。

以上の状況のもと、Oracleが正常と考える状態にJavaが変化するのは並大抵の作業ではないということがわかります。これを、今回のOracle Code Oneと、GraalVMにて刷新しようとしているのではないでしょうか。

 

今後の展開を探る

GraalVMがサポートしている言語は、以下の通りです。

・Java、ScalaGroovyKotlinNode.jsを含むJavaScript、 C、C++、Rust、Ruby、R、Python

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Announcing GraalVM: Run Programs Faster Anywhere | Oracle Developers Blog

 

一方で、Oracle Code Oneのホームページにはこんなことが書いてあります。

Oracle Code Oneは、他の会議よりも多くの言語、テクノロジ、開発者コミュニティを含む新しい開発者会議です。 Go、Rust、Python、JavaScript、Rの話を期待してください。また、開発者が期待する優れたJava技術コンテンツがたくさんあります。この会議には、JavaチームのアーキテクトからのJavaに関する最新情報が記載された技術基調講演が含まれます。チャットボット、マイクロサービス、AI、ブロックチェーンなどの最先端のトピックの詳細な説明が必要です。また、Oracle JET、Project Fn、OpenJFXなどのオープンソース開発者テクノロジのトレンドに関するセッションもあります。 Oracle Code Oneは、世界的な開発者コミュニティの盛んな学習者になるために必要な1つの会議です。これは最終的な開発者会議です。

Oracle Code One 2018

 

なんとなく、戦略が見えてくるのですが、多数の開発者がしゃべっている言語を、GraalVMに取り込み、今後のソフトウェア開発のイニシアチブを取りたいのが明らかではないでしょうか。

 

そして、MySQLのように、2つのバージョンが出て、マネタイズもOracle納得の状況になるわけです。

GraalVMはオープンソースで開発されており、無料のCommunity Editionと、セキュリティやスケーラビリティを高めた商用版のEnterprise Editionが提供されます。

Publickey

で、GraalVM Community Editionに注目したいわけですが、ライセンスがクラスパス例外付きのGPLです。

graal-core/LICENSE.md at master · graalvm/graal-core · GitHub

OpenJDKと同じですね。GPLではあるものの、例外事項のおかげで、実用的には問題なさそうです。MySQLの時には、完全にGPLだったので実質商用利用しようとすると有償版を利用せざるを得ないということで議論があったのを思い出します。

MySQL - ライセンス早分かり - MySQL, Qooker, VG-Sync, BitDefender, IP-PBX

 

最後に、不明な点です。

1点目にサポートポリシーが不明です。まだCommunity editionの1.0.0RC1(リリース候補)が出たばかりですし、正式にはリリースされていないので、リリース時には見解が出るでしょう。Enterprise editionもOracleに直接連絡しないと手に入りません。

2点目にGraalVM内の各言語のバージョンの整合性です。例えばJavaだと、JDK8相当です。以下の混乱が発生するかもしれません

・GraalVMはサポート期間だがJDK8のサポートは終了している
・ネイティブなJDKと動作が違うときの対応はどうするか
・Javaが半年ごとにリリースアップされる中で、GraalVMの中のJVMはどのような変更がされるのか

このように、Java一つとっても整合性に苦労しそうな半面、他の言語も同様な調整が必要となると、何かネイティブの言語とは別の物として扱ったほうがいいという判断もあながち間違いではないような気がします。今のところはですが。

改めて、公式ホームページをご案内します。

GraalVM

Oracleが、GraalVMを持ってJavaの負債を一掃し、多言語化したデベロッパーコミュニティーをマージし、Oracleがイニシアチブを取り、かつビジネスとしても成功するというこの絵が成功するのかどうか、興味を持って推移を見守りたいと思います。裁判をやったりサポートポリシーでもめたりするよりは、ポジティブです。ただ、「実際どうやるんだろ?」とう技術的興味の方が先です。

 

働き方改革 テレワークが万能ではない2つの場面

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「自分の部署でテレワークをするのは無理だ」

もはや政局絡みで働き方改革という言葉を言う人も少なくなってしまいましたが、大切な視点なのでたまに考えていきたいと思います。

 

tech.nikkeibp.co.jp

 筆者は、ノートPCなどを使って会社のオフィス以外で働くテレワークの普及活動を、顧客企業で支援している。オフィスで働く部署に出向き、テレワークの導入を進めると、現場の管理職から「自分の部署でテレワークをするのは無理だ」という指摘を受けることが多い。

 そういった現場の管理職に理由を尋ねると、「部下の顔を見て、状況判断をしながら仕事を進めているから」「テレワークができる人とできない人が出てくるから」という2つの答えが返ってくることが多い。

 

考察

私も基本的にはテレワーク賛成派です。私も外出しても自宅にいても、オフィスと同じレベルの仕事ができるようにしています。ですから、テレワークは無理、なんていう頭ごなしな意見に「愕然とする」のもわかります。

ただ、全部が全部テレワークが効率がいいとは全く思いません。ケースバイケースです。どんなケースが合うか/合わないかを自分の経験をもとに考えていきます。

まず、会議については、テレビ会議より一緒に集まって普通に会議した方が100倍効率がいいです。そもそも私は会議が嫌いです。課題管理などリアルタイムでバックログとかRedMineとかいいツールが出ているのに、何を対面で関係のない人まで集めて時間を浪費するのか・・。ということで私は自分が会議を開催することはほぼしません。会議の最も嫌なのは、ブレーンストーミング的なものとか分担を決めるとか、進捗を確認するとか、オンラインでワークフローの中で自然にできることをわざわざオフラインでやること。これは無駄で、オンラインでつながってそれぞれのメンバーがチャットや課題管理ツールなどでリアルタイムに情報処理するほうがよっぽど効率がいいと思っています。優れたツールに対して人間の働き方を変えていった方が行動が最適化されると思います。なので、情報のエクセル管理は愚の骨頂だと思っています。行と列で全てを表現すると正規化されないためです。優れたツールは情報が入れ子になっていて、かつ従属関係があるので、「間違った情報処理」を自然と拒むのです。ですから、会議が必要な時というのはよほどリアルタイムコミュニケーションが必要とされている場面なので、リアルに集まった方がいいです。テレビ会議で済むような会議は、おそらくテレビ会議すら開く必要がないと思います。テレビ会議がカッコいいからやってみたいだけなんだと思っています。そんなことに時間は使いたくない。会議するなら集まった方がいい派です。会議はテレワークじゃなくリアルがいい。

さて、テレワークできない人なんていないという前提で、みんなできるだけテレワークすればいいと思っていますが、具体的にもう1つだけテレワークがふさわしくない場面を知っています。大規模な障害対応のときです。

すぐ復旧しなければいけない、すぐ原因追求しなければいけない、という状態で、かつメンバーがリモートにいるときにすぐテレワークをはじめがちです。オンラインで課題管理スレッドが立ったり、調査を始める人がいたり、お客様対応をはじめたり、どんどんワークは動くのですが、一番まずいのは、「全員が何をしているかだれも把握できないこと」です。往々にして冗長な行動をしたり二次被害が発生したりします。そしてマネージャーには情報は伝わってこず、電話もチャットもまともに機能しないのです。目の前の作業に集中したエンジニアは、テレワークだと作業を優先してしまうのです。このような時は、「テレワーク禁止!」「みんなオフィスに集まれ!」とやった方がかえって安全です。集まってから会議をし作業分担を行なってから、各自作業に取り掛かるのが最善です。そうすると、結果としてテレワークで対応を開始し解決するまでよりも、被害が最小になり時間も短くなったりします。始めの人が集まる時間なんてすぐに取り返せます。構築プロジェクトのように、全体スケジュールが決まっていて、分担が決まっていて、かつ平常時であれば、これはテレワークでも全然問題ありません。ところが、緊急時となると面白いぐらいテレワークは機能しないことを共有しておきたいと思います。デスマーチかしそうな非常モードのプロジェクトも、集まったほうがいいでしょう。

 

このように、業務や状況によって、テレワークに向いたり向かなかったりは確実にあります。テレワークを導入するときは、原則論(テレワークをできるだけ使う)としながら、例外事項をきちんと定めることによって機能すると思います。マネージャーは、「みんな集まれー!」という権限を常に持っていくことで最終的な保険となると思います。

ご検討されている企業はご参考ください。

 

アメリカのクラウド事業に対する対中制裁検討(301条)の影響を考察する

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クラウド事業における対中制裁検討

ZTEへの製品販売禁止の裏で、1つ大きなニュースが流れていました。

mainichi.jp

米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは16日、中国による米IT企業への取り扱いが不公正だとして、トランプ米政権が米通商法301条に基づく制裁措置を検討していると報じた。新たな制裁発動の可能性を示すことで、現在の知的財産権侵害をめぐる対立で優位に立つ狙いもあるとみられる。

 

考察 

今年に入って、利用クラウドの選択肢に「アリババクラウド」を挙げる企業が現れました。これまでは、AWS・Microsoft Azure・Google Cloud・IBM Cloud、または国内のローカルクラウドぐらいが選択肢でした。日本において、中国のサービスを利用するのはまだまだ地政学的リスクがある感覚でした。2012年に、co.jpドメインごと中国から遮断された事件はまだよく覚えています。

www.news-postseven.com

「co.jp事件」が、今年6月、中国に駐在する日本人ビジネスマンたちを震撼させた。中国国内からco.jpドメイン(日本のサーバー)へのアクセスが遮断されたのだ。3日後に接続できるようになったが、尖閣問題で神経を尖らせる中国による回線遮断が疑われている。

普段から中国に情報資産を配置した場合のリスクとして、何らかの政治的紛争により、没収されたり利用できなくなったりする可能性を想起しています。せめて、自由主義文化の残る香港にしたほうがいいという感覚です。

一方で、アリババクラウドは中国のアリババが推進しているクラウド事業で、AWSの仕様を手本にしサービスを拡張しています。

qiita.com

業務上主にAWSを使っている私がAlibaba Cloud中国サイトにあるプロダクト一覧などを見て感じたのは、AWSが提供されているサービスと似ているサービスが多くあったことです。さらに、一部のサービスにはAlibaba Cloud独自の魅力を感じました。

さて、最近は日本と中国の間の緊張も少し穏やかになってきたこと、また、ソフトバンクがアリババとの合弁会社を通じてアリババクラウドを強力に国内で販売し始めたことが影響し、企業が利用を検討するケースが出てきました。

cloud.watch.impress.co.jp

ソフトバンク株式会社は1日、グループ企業のSBクラウド株式会社と協力し、中国に拠点を持つ企業を対象として、クラウドサービス「Alibaba Cloud」を販売開始すると発表した。

アリババクラウドとコンペになってわかったこととしては、恐ろしく安いことです。AWSとコンペになったときには価格で負けることはないと思います。この安さというのは毒で、平常何もないときであれば、安いほうがいいよねともなりかねません。

このままの状況が続けば、本当にアリババクラウドも私のテリトリーでも検討しなければいけなくなるほどの脅威を感じていました。もし私が相談されたら、過去の地政学的リスクを説明しますけどね。ただソフトバンクが表にいることでガードが緩んでいるのが事実です。

一方で、この301条のニュースです。前段で紹介した、AWS・Microsoft Azure・Google Cloud・IBM Cloudのいわゆるグローバル巨大クラウドの面々ですが、中国国内にデータセンターを置くのが非常に大変で苦労しています。

jp.techcrunch.com

ノー。AWSは中国ビジネスそのものを売却したわけではない。AWSは今後とも中国のユーザーに対してクラウドのリーダーとしてサービスを提供していく。中国の法規が非中国企業がクラウド・サービスの提供に必要なある種のテクノロジーを所有ないし運用することを禁じているため、中国の法規を遵守する必要上、AWSは一部の物理的インフラ資産を長年の現地パートナー企業であるSinnetに売却した。AWSの中国リージョン(北京)サービスの法律上の提供者は従来どおりAWSであり、そのサービス提供に必要な知的財産権はAWSが全世界で所有する。われわれは中国で大規模なビジネスを展開しており、今後数年の間にさらに事業を拡大する展望を抱いている。

ascii.jp

Azureの中国リージョンは、2013年にマイクロソフトがテクノロジーを中国のデータセンター事業者21Vianetにライセンスして、21Vianetがオペレーションしている(21Vianetは同様の契約でOffice 365も中国市場で提供している)。

などなど、アメリカ企業は中国国内でクラウド事業をやろうとすると、資本規制がかなり厳しく苦労をしてきたことを知っています。一方でGoogleは中国では検索サービスから撤退していたりと、世界において中国だけは同じ理屈が通じないと常々感じていました。

一方で、AWSを真似て世界にデータセンターを構築しつつあるアリババクラウドが、アメリカ本国で好き勝手されては不公平です。従って今回のニュースはアメリカサイドから見ればごくごく自然に見え、ZTEやファーウェイなどがもはやシェアを握っていた状況の通信業界と比べると、かなり早い段階で手を打ってきたなという印象です。

地理的に考えれば、日本と中国は隣国なので、中国のサービスを使うのは日本は有利なはずではあるんですが。ただ政治の分野で本格的にアメリカと中国が貿易戦争を開始した状況なので、アメリカのサービスを使う方が安全に決まっています。

そんなにアメリカに依存していいのか、という声もあろうと思いますが、そもそもIT機器なんて上から下までアメリカの部品、アメリカのソフトウェアです。もし本当に純日本製でITを組み上げるとしたら、電卓まで戻らなければいけないかもしれませんね、冗談抜きで。

まずは、IT業界にいる人は、アメリカと中国の動きを注視すべきかと思います。クラウドへの移行が本格的となっている2018年ですが、いざクラウド環境に全面移行してしまえば、このような政治的な動きをもろに受けてしまうことも把握しなければいけません。便利なんですけどね。

 

NECがついに人事制度にメスを入れるニュースを考察する

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NECがついに人事制度にメスを入れる

過去、NECの中期経営計画をレビューしたことがありました。

www.orangeitems.com

 

再度読み返してみて、かなり厳しいことが書いてあるなあと思いました。このままでは達成は難しいと。一方で、今日入ってきたニュースから、変化の可能性を感じました。

 

www.itmedia.co.jp

NECは2018年度中に執行役員クラスの人事報酬制度に成果主義を導入する。最後までやり抜く実行力ある組織づくりの一環として、業績目標の達成度合いに加え、経営のスピード感を重視するという。同社ではこれまでも成果主義を導入してきていたが、「さらにメリハリをつけた報酬制度にする。ゆくゆくは従業員も含めて導入する予定で、まずは上から変えていくことで企業文化そのものを変えていきたいと考えている」(同社広報)。

 

NECの人事制度とは

実は、NECの人事制度はネットでオープンになっています。

www.nec-careers.com

このページのうち、後半の「プラクティス制度」「2WAYマネジメント」が人事制度の根本となります。

プラクティス制度

高い成果を上げている人の特徴的な行動やスキルを分析して、「どのような働き方が成果に繋がるのか」「必要となる資格・語学などは何か」など成功事例を示したもの(プラクティスファイル)をベースにしたものが「プラクティス制度」です。

この制度は「社員一人ひとりの意識・行動の変革を促進し、プロアクティブな輝く個人として最大の成果を達成していくことに、より寄与する」ことを目的に導入されたものです。

 

2WAYマネジメント

組織の目標と個人の目標のすり合わせについて、上司との双方向コミュニケーションにより、お互いが納得するまで話し合いを行うこと、これが2WAYマネジメントの基本であり、NECの基本的なマネジメントスタイルです。

 

この制度を、より成果主義型に変えると言っています。ただ、実は、11年前の2007年に労働政策研究・研修機構という独立行政法人より、もっとわかりやすい資料がアップロードされています。

NECの賃金処遇制度と雇用制度 - 労働政策研究・研修機構 (PDF)

 

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※上記PDFファイルより引用

 

f:id:orangeitems:20180417173848p:plain※上記PDFファイルより引用

 

考察

私も大分会社員生活をやっていますが、人事評価というものは往々にして「過大評価」になりがちです。自分に厳しくつけても誰も得しないからです。自己評価の段階で満点な人もいました。満点じゃないだろという言うのですが、どうせ上司評価が採用されるのなら低くつけるだけ損だと言われ、なるほどなと思ったこともありますし、自分も多少そういうところもありました。

能力とか、目標とか、キャリアとか、いろいろ言葉は踊るし定義もあるのですが、現場レベルに落とし込むと、評価を低くすることにより社員のモチベーションは下がるんですよね。だから上司としても評価は高めにつけがち。組織で集計すると、平均点は真ん中より上になってしまう。ところが、業績(売上・利益)は計画未達。なんで会社は予算を達成していないのに、評価は半分より上なんだ、みたいなことはどんな企業でも起きていると思います。そしてこの絵の通りやったらおそらくそうなるのではないかな、と思います。

これは、「業績」というものをどう捉えるかになると思います。思い切り数字、つまり予算の達成度で計算すれば客観的です。予算についてはもともと株主や投資家に約束している数字のため、これは必達前提です。そこを超えればプラス評価、そこから下ならマイナス評価。ただ、業績の低い部署にいると、どんなに頑張っても組織の全体評価が低いので、能力が高くても貢献したとしても、評価は下にならざるを得ません。このような評価制度にする場合は、組織ごとにきっちり予算を振り、末端の社員レベルまで予算を意識した行動をする必要に迫られます。

おそらくこういう形、つまり経営目標をきちんと予算というかたちで事業部門におろして、それを人事制度に反映されようとしているのではないかな‥と思います。

そういえば、10年前に富士通が成果主義にチャレンジして失敗したニュースがあったように思います。

富士通の成果主義(1)−結局何が問題だったのか?

なつかしいですね。この書評を見る限り、成果主義が問題だったのではなく、目標の決め方が主観的で政治的であったために、社員の目標ができるだけ低くなっていきがちになり業績が低迷してしまったと読めます。本来の成果主義は数値主義なので、おそらくマイクロソフト流の人事制度が導入され、かなり数字で首を絞められることになるんじゃないかな・・と想像します。

あとは、東芝の問題のように、数字が強くなりすぎてモラルハザードが起きるようなことがないよう、コンプライアンスの問題も気を付ける必要があると思います。

 

まとめ

変化しないと生き残れないことを考えると、人事に手を付けるのは、ポジティブに感じます。これまでの柔らかい人事制度から一変し社員も大変かと思いますが、危機感が末端まで行かないと組織は変われません。間違いなく良手だと思います。期待しています。