orangeitems’s diary

40代ITエンジニアが毎日何か書くブログ

アメリカのクラウド事業に対する対中制裁検討(301条)の影響を考察する

f:id:orangeitems:20180418044833j:plain

 

クラウド事業における対中制裁検討

ZTEへの製品販売禁止の裏で、1つ大きなニュースが流れていました。

mainichi.jp

米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは16日、中国による米IT企業への取り扱いが不公正だとして、トランプ米政権が米通商法301条に基づく制裁措置を検討していると報じた。新たな制裁発動の可能性を示すことで、現在の知的財産権侵害をめぐる対立で優位に立つ狙いもあるとみられる。

 

考察 

今年に入って、利用クラウドの選択肢に「アリババクラウド」を挙げる企業が現れました。これまでは、AWS・Microsoft Azure・Google Cloud・IBM Cloud、または国内のローカルクラウドぐらいが選択肢でした。日本において、中国のサービスを利用するのはまだまだ地政学的リスクがある感覚でした。2012年に、co.jpドメインごと中国から遮断された事件はまだよく覚えています。

www.news-postseven.com

「co.jp事件」が、今年6月、中国に駐在する日本人ビジネスマンたちを震撼させた。中国国内からco.jpドメイン(日本のサーバー)へのアクセスが遮断されたのだ。3日後に接続できるようになったが、尖閣問題で神経を尖らせる中国による回線遮断が疑われている。

普段から中国に情報資産を配置した場合のリスクとして、何らかの政治的紛争により、没収されたり利用できなくなったりする可能性を想起しています。せめて、自由主義文化の残る香港にしたほうがいいという感覚です。

一方で、アリババクラウドは中国のアリババが推進しているクラウド事業で、AWSの仕様を手本にしサービスを拡張しています。

qiita.com

業務上主にAWSを使っている私がAlibaba Cloud中国サイトにあるプロダクト一覧などを見て感じたのは、AWSが提供されているサービスと似ているサービスが多くあったことです。さらに、一部のサービスにはAlibaba Cloud独自の魅力を感じました。

さて、最近は日本と中国の間の緊張も少し穏やかになってきたこと、また、ソフトバンクがアリババとの合弁会社を通じてアリババクラウドを強力に国内で販売し始めたことが影響し、企業が利用を検討するケースが出てきました。

cloud.watch.impress.co.jp

ソフトバンク株式会社は1日、グループ企業のSBクラウド株式会社と協力し、中国に拠点を持つ企業を対象として、クラウドサービス「Alibaba Cloud」を販売開始すると発表した。

アリババクラウドとコンペになってわかったこととしては、恐ろしく安いことです。AWSとコンペになったときには価格で負けることはないと思います。この安さというのは毒で、平常何もないときであれば、安いほうがいいよねともなりかねません。

このままの状況が続けば、本当にアリババクラウドも私のテリトリーでも検討しなければいけなくなるほどの脅威を感じていました。もし私が相談されたら、過去の地政学的リスクを説明しますけどね。ただソフトバンクが表にいることでガードが緩んでいるのが事実です。

一方で、この301条のニュースです。前段で紹介した、AWS・Microsoft Azure・Google Cloud・IBM Cloudのいわゆるグローバル巨大クラウドの面々ですが、中国国内にデータセンターを置くのが非常に大変で苦労しています。

jp.techcrunch.com

ノー。AWSは中国ビジネスそのものを売却したわけではない。AWSは今後とも中国のユーザーに対してクラウドのリーダーとしてサービスを提供していく。中国の法規が非中国企業がクラウド・サービスの提供に必要なある種のテクノロジーを所有ないし運用することを禁じているため、中国の法規を遵守する必要上、AWSは一部の物理的インフラ資産を長年の現地パートナー企業であるSinnetに売却した。AWSの中国リージョン(北京)サービスの法律上の提供者は従来どおりAWSであり、そのサービス提供に必要な知的財産権はAWSが全世界で所有する。われわれは中国で大規模なビジネスを展開しており、今後数年の間にさらに事業を拡大する展望を抱いている。

ascii.jp

Azureの中国リージョンは、2013年にマイクロソフトがテクノロジーを中国のデータセンター事業者21Vianetにライセンスして、21Vianetがオペレーションしている(21Vianetは同様の契約でOffice 365も中国市場で提供している)。

などなど、アメリカ企業は中国国内でクラウド事業をやろうとすると、資本規制がかなり厳しく苦労をしてきたことを知っています。一方でGoogleは中国では検索サービスから撤退していたりと、世界において中国だけは同じ理屈が通じないと常々感じていました。

一方で、AWSを真似て世界にデータセンターを構築しつつあるアリババクラウドが、アメリカ本国で好き勝手されては不公平です。従って今回のニュースはアメリカサイドから見ればごくごく自然に見え、ZTEやファーウェイなどがもはやシェアを握っていた状況の通信業界と比べると、かなり早い段階で手を打ってきたなという印象です。

地理的に考えれば、日本と中国は隣国なので、中国のサービスを使うのは日本は有利なはずではあるんですが。ただ政治の分野で本格的にアメリカと中国が貿易戦争を開始した状況なので、アメリカのサービスを使う方が安全に決まっています。

そんなにアメリカに依存していいのか、という声もあろうと思いますが、そもそもIT機器なんて上から下までアメリカの部品、アメリカのソフトウェアです。もし本当に純日本製でITを組み上げるとしたら、電卓まで戻らなければいけないかもしれませんね、冗談抜きで。

まずは、IT業界にいる人は、アメリカと中国の動きを注視すべきかと思います。クラウドへの移行が本格的となっている2018年ですが、いざクラウド環境に全面移行してしまえば、このような政治的な動きをもろに受けてしまうことも把握しなければいけません。便利なんですけどね。