orangeitems’s diary

40代ITエンジニアが毎日何か書くブログ

システム障害の説明責任と、現場の統制

 

経験をふまえて言っておくと、対外的な説明と、社内的な事情はだいたい乖離している。社内的にはわかっていることは積み上げられているが、まとまってはいない。それらの情報をいかに対外的に表現するか。技術トップがシナリオをいくつか作り、経営層へ提示する。経営層が顧客の立場から納得できるか、そして開示したことで法的な問題へ発展しないか弁護士の意見も聴いたうえで、社外報告書のかたちを決めていく。

今回のKDDI記者会見や去年の東証記者会見の際にも、トップの説明がスマートで世間の支持を集めたが、これはトップが優秀であること以外にも要素がある。記者が何を質問するかなど専門家にはお見通しである。想定問答が相当丹念に練られている。記者会見で露わになったのは想定のほんの一部である。だからこそあれだけ、余裕のある返しが成立する。

ただ、第一報としての会見は問題ないが、今後である。きっと、世間の大部分は復旧したことで関心を無くす。どうせ言いたいだけである。普通のサービスレベルが戻ったら、ロジックなんてどうでもいい。でも二度と起きたら許さないからな、って。そして残るのは専門家だ。このまま最終報告があやふやだったら再度起こるじゃないかと。マスコミもテック系の担当者だけ残る。復旧以降である程度の時間を使い、現場が確信を得るまで状況を確認し、再発防止対応が終わってから、最終報告書を作り上げる。このときに、第一報で余計なことを言っていると、つじつまが合わなくなるので、第一報の段階から慎重さが必要なのは言わずもがなである。

ここまでのプロセスで、大企業なら説明、資料作成、技術調査、まで分業で分かれていて問題ないだろうが、問題は中小企業である。全部を数人、いや、一人でやっている場合もある。そのとき、以下の状態となる。

・技術的に調べられるのは自分だけであり、復旧に向けて努力している。

・説明できるのは自分だけであり、報告に向けて努力している。

・社外的なストーリーを考えられるのは自分だけであり、納得感のあるストーリー作成に向けて努力している。

・経営層に説明できるのは自分だけであり、説明に努力している。

いくら努力すればいいのか、技術調査を行おうとしても、営業担当や顧客から説明を求められ、そこに役員登場。詰むのである。

こう言ったことにならないために、非常時の体制とプロセスは常にアップデートしなければいけない。誰かに過度に依存すると物事が進まなくなる。責任を決めておかないと、誰かがやっているだろう、となり、統制が取れなくなる。

昨日の記者会見を思い出しても、本当は知っていることと、ここで話していいこと。そして誰がどの立場で話すか。きっちり分けられていて素晴らしいと思った反面、実際のところ、はまた違うんだろうな、という感想しかなく、ちょっと見ていて苦しくなった。少し、大企業がうらやましくなったのも合わせて言っておく。

社内の真実と、社外的な説明が乖離するのも、仕方がない。きっと、本当のことは専門家にしかわからないからだ。第一報の段階だと、「過半の人に理解できるよう翻訳して話す」のが重要だからだ。その中で、本当に知りたいことがぼやけていく。

それに、実際に手を動かす技術者が関わり始めると、今、調べなきゃいけないこと、やらなきゃいけないことと、別のもう一つの事実を頭にいれなければいけなくなり、わけがわからなくなる。

だから、分業したほうがいい。技術者は技術だけやった方がいい。説明は説明専任の担当者がやったほうがいい。

ふと、そんなことを思った。