orangeitems’s diary

40代ITエンジニアが毎日何か書くブログ

働き方改革により生涯学習がリカレント教育と名前を変えて登場した背景

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働き方改革とリカレント

今後、日本は労働人口がどんどん減少していくことはここから30年間は決まっているので、対策を考えていかなければいけない、というところから働き方改革は始まっているのだろうと思います。夫婦を考えた場合、世帯年収が同じでも1000万/夫+0/妻より、500万/夫+500万妻のほうが税制が圧倒的に有利なのもふまえ、男女関係なく働いていこうという政策がすでに行われていることは事実だと思います。

単なる税制からの共働き推奨からもっと進めて、学校を卒業して時間が経ち、就労するためのスキルが不足している人々に「学び直し(リカレント)」を行っていただき新しい労働人口を増やそうという試みが行われています。大学までの教育は優秀な労働力を生み出すための重要な役割がありますが、長く専業主婦になり就労から長く離れたり、高齢となり時代が必要とする知識と乖離したりすると、働きたくても合う仕事がないという状況に追い込まれてしまいます。単に働くことを推奨したとしても、一方で学習環境・労働訓練環境を整えないと、無理ゲーとなってしまうということです。

働き方改革に話を戻すと、3つの課題を克服することをミッションとしています。
(1)長時間労働の改善
(2)非正規と正社員の格差是正
(3)高齢者の就労促進
この具体的な対策の1つとして、リカレントという概念がクローズアップされてきたことになります。そもそも日本の社会構造として、新卒からのスキルパスから離れてしまうと途端に活躍しにくくなります。職務経歴書に職歴のない時間があると問題視する傾向にあります。いわゆる派遣やアルバイトなど、非正規かつ低収入、責任のない業務しかアサインされなくなり、いくら能力が高くても活躍できない風土があります。したがって労働意欲が高くても能力にフィットした職業に就けないといったところで、社会全体の生産性を大きく下げているということは明確な事実です。

高度な能力を必要とする仕事に対して、能力のある人をアサインできないというのは国全体としては大きなマイナスです。能力があるが就労していない人に対して現在必要とされるスキルを学習してもらい国として資格などブランドを与え、よりよい仕事に就いてもらうことは、これからの時代大変必要になっているというわけです。必要とされるスキルとは、一例として、育児・介護の分野、デジタルの分野、またメンタルヘルスの分野などここ最近で需要が急増している分野になろうと思います。それこそ時代の変遷とともに教育機関が柔軟に対応していけば良いものだと思います。

ここ最近、リカレントに関する記事も散見されます。

toyokeizai.net

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ジェネレーションギャップがもたらす対立

リカレントを進めていく目的は労働力の確保だけではなく、もう1つあります。世代間でスキルが乖離ことによって、ジェネレーションギャップが深刻になることです。日本においては60代ぐらいから、デジタルに対する大きなギャップがあります。この層から上はテレビや新聞が主な情報源です。一方で最近の世代はインターネットを基盤とするデジタルからの情報入手をメインにしています。デジタルの中で議論しデジタルで物事を決めていきます。とすると、社会全体で物事を決めていくのが民主主義なのに、デジタルに触れない人々の意見が取り込まれないことになります。地球規模で考えると、デジタル対応できている先進国と、デジタル対応できていない発展途上国の間の意見の集約がどんどんできなくなっていくなど、温和な社会を作る上で大きな問題となっているのです。若宮さんが国連に呼ばれたのはこれをテーマにしたイベントにご参加されたからなのですが、このあたりは別記事にしています。

若宮正子さんが国連本部で演説した意義 - orangeitems’s diary

 

いかにリカレントを進めるか

さて、リカレントがよっぽど大事なことはわかったとして、具体的にどうやって進めていくかということが働き方改革の中身ということになります。裁量労働制のことばかりクローズアップされるのはミスリードもいいところです。リカレントをするのは教育機関の大きな大きな使命です。まるで22歳以下の若年層に授業をするのが使命と社会ではまだ思われていますが、これを大きく変えていかねばいけません。そもそも大学卒業資格など、国家が与える資格が若年層に限られていて、リカレントに対する資格がないところから考え直さなければいけません。リカレント教育を受けた人は優先的に企業などが受け入れることが業績の向上につながるような政策が必須であると言えます。

具体的な例として、日本女子大の成功事例があります。

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同大学は、2007年以来、離職女性の再就職支援を行っている。そのプログラムの名は「リカレント教育課程」(以下、リカレント)。就業経験のある4大卒女性(年齢不問)を対象とした1年間の通学課程で、2015年9月までの全入学者は399人に上る。

全入学者の平均年齢は38.9歳。約半数が主婦であり、小・中学生の子どもがいる人も多いにもかかわらず、就職実績が驚異的だ。全修了生の就職希望者は約8割で、そのうち79.1%とほぼ全員が就職をかなえているのだ。今年3月修了者(14回生)の就職率は、100%だった。修了生23名中、就職希望者20名全員が仕事を得たのである。

ちなみに、例年、中堅企業で採用されるケースが多いが、14回生は国公立大学や独立行政法人などに就職した人が多かったそうだ。 

 各大学など教育機関はもっとリカレントに対して取り組むことで、少子化による生徒減に対応することができます。国も単にこれを補助金などで支援するだけではなく、何らかの国家資格を与える権利を授与することで取り組むメリットを出すべきだろうと思います。民間企業で、能力はあるかもしれないがスキルにギャップがある人を、再教育して労働させるのはかなり限界があります。そもそも再教育中に退職するリスクもあります。まずは教育機関にこれを担わせることを積極的に実施しなければいけないと思います。

これまで、生涯教育は人生を豊かにする、というような抽象的な観点で語られることが多かったと思います。文部科学省の1981年の答申にズバリ記載されています。

生涯教育について(答申) (第26回答申(昭和56年6月11日)):文部科学省

生涯教育の意義
 人間は、その自然的、社会的、文化的環境とのかかわり合いの中で自己を形成していくものであるが、教育は、人間がその生涯を通じて資質・能力を伸ばし、主体的な成長・発達を続けていく上で重要な役割を担っている。
 現代の社会では、我々は、あらゆる年齢層にわたり、学校はもとより、家庭、職場や地域社会における種々の教育機能を通じ、また、各種の情報や文化的事象の影響の下に、知識・技術を習得し、情操を培い、心身の健康を保持・増進するなど、自己の形成と生活の向上とに必要な事柄を学ぶのである。

 まるで現在のリカレントの観点はありません。これは働き方改革が取り組む3つの課題が存在しなかったもしくは意識していなかったときの、生涯教育の考え方です。今はリカレントを進めることで社会の大きな問題を解決しようとしていますから、過去の生涯教育が福祉的観点が強かったのを考えると、全く違う話をしていることを理解しなければいけません。

 

まとめ

「何で学校を卒業したのにまた勉強しなければいけないの?」ではなく、「今の時代にあったスキルを学び直せば社会で活躍できるよね」という考え方に社会が変わっていくことがより、全国民にとってもウィンウィンであることを理解していかなければいけません。

学校を出てから時間が経っている人で、何らかの理由で休職期間が長かったり、今の会社でスキルが学べていなかったりする人は、リカレントについてもっと興味を持っていただきよりよい就労機会を得られるような施策に興味を持っていただければと思います。過去の学歴や職歴だけで全てが決まってしまうのは、これからの時代もったいないと思います。なお、旧来の生涯教育をリカレントと名前を変えただけで、社会人向けにオープン講座をやっているだけの大学も多いです。これでは教養にしかならず就職まで結びつきませんので、検討の際はきちんと説明を受けた方がいいと思います。大学自身が、リカレントを理解していないケースもあります。