orangeitems’s diary

40代ITエンジニアが毎日何か書くブログ

(重要)Red Hat社のOpenJDK8サポートポリシーが変更。サポート終了は2023年6月に。

f:id:orangeitems:20181121105918j:plain

 

Red HatのOpenJDK8は2023年6月に変更

Java SE 8をいつまで使い続けられるかについて、大きな変化に気が付きました。

 

OpenJDK Life Cycle and Support Policy - Red Hat Customer Portal

f:id:orangeitems:20181121102039p:plain

 

Red Hat Enterprise Linux上のOpenJDKについて、OpenJDK 7が2020年6月に、OpenJDK 8が2023年6月に、サポート終了の日付が変更されています。以前はOpenJDK 8は2020年までだったと記憶しています。

Red Hat Linux系でJava開発をされていた方にとっては、この変更は大きいのではないでしょうか。Oracle JDK 8を利用されていた方は、Red Hat Linux系であればyumで最新のOpen JDK 8を利用するのが無難だと思います。

また、OpenJDK 11についても、需要があればサポート期間を延ばすとあり、今回のように延長される可能性があります。

 

Red Hatからのアドバイスも内容が変更

過去のRed Hat社からのコメントは、「Open JDK8は予定通り2020年でサポート切れにするのでその後はOpen JDK11を使って欲しい」だったと思います。ニュアンスが変わっています(要ログイン)。

Red Hat OpenJDK 11 Advice - Red Hat Customer Portal

 

権限のある人しか読めない記事なので、内容のサマリーです。

・Red Hatは、Java SE 11リリースがリリースされた後、RHEL7.6用のOpenJDK 11の配布を予定している。つまり、11を使うためにはRHEL7.6以上を利用する必要がある。

・JBOSS上で11を認証する作業を進めている。

ということです。

 

Red HatからOpenJDK11がすでにリリースされている

すでに java-11-openjdkは見えています(要ログイン)。

https://access.redhat.com/downloads/content/java-11-openjdk/11.0.1.13-3.el7_6/x86_64/fd431d51/package

2018年11月21日現在、CentOS 7.6はまだリリースされていないので、CentOSベースではリリースされていません。

一方で、RHEL 7.6が手元にあったのでyum listしたところ、きちんと見つかりました。

# cat /etc/redhat-release
Red Hat Enterprise Linux Server release 7.6 (Maipo)

# yum list java-11-openjdk
読み込んだプラグイン:product-id, search-disabled-repos, subscription-manager
利用可能なパッケージ
java-11-openjdk.i686 1:11.0.1.13-3.el7_6 rhel-7-server-rpms
java-11-openjdk.x86_64 1:11.0.1.13-3.el7_6 rhel-7-server-rpms

おそらく、CentOS7.6が発表されたら、同時に利用できるようになると思います。

 

まとめ

RHEL系でOpenJDK 8が動いている場合は、2023年6月まで猶予ができた。

OpenJDK 11はすでに利用可能で、かつサポート期間も延長される可能性があるし、2024年10月まではサポートされる。

また、OpenJDK 14まで待つのも選択肢に入ってくる。リリースは2020年3月ごろか。

 

と言ったところです。2018年2月のころの状況と比べるとずいぶん穏やかになったような気がします。

 

世界、我に返り過ぎ | 米株式市場でFAANG銘柄が急落

f:id:orangeitems:20181121005507j:plain

 

FAANGの急落

地球レベルで身の回りを考えてみる。

地球に有り余ったお金は、米国株、特にFAANGと呼ばれる、Facebook(フェイスブック)、Amazon(アマゾン)、Apple(アップル)、Netflix(ネットフリックス)、Google(グーグル)に流れ込んだ。

2018年も終わりに近づき、いろいろありながらも世界秩序は揺るがないまま2019年に向かうと思われた矢先、FAANGから急激にお金が流出し始めた。

 

www.bloomberg.co.jp

 

上がるから上がる、これを繰り返していくと説明がつかなくなるぐらい高騰し、最後には何らかの事実によって急に調整が始まるのがバブルだが、昨今の流出はまさにこれに近い。FAANGの決算はそれぞれ悪くないにもかかわらず将来見通しを慎重に置く動きが多く、これが引き金となった形だ。

 

FAANGを個人的に考える

もともとおかしかった。

Facebookがなぜあんなにお金を集められたのだろう。私の生活には何も関与していない。今年直接的に関与したと言えばOcurus Riftを買ったときくらいか。FaceBookのアプリケーション自体が使いにくくてたまらないし、薄い仕事関係のつながりばかりなので全然見ていない。

Amazonは確かに便利だと思うが、拡大路線も限界はあるだろう。限界に達してしまうと途端に過大投資してきた資産が重荷になる。積極投資を合理的にするためには右肩上がりの成長は必須だが、永遠には続かないだろう。ジェフ・ベゾス氏の発言もよくわかる(真偽は不明)。

 

www.businessinsider.jp

 

Appleは・・。iPhone8だXだXSだXRだとやっているけれども、実質的に同じことを繰り返している。原材料を高くしてその分価格を上げている。同じ台数売れれば売上も上がるというやり方が限界だ。プレゼンのテイストからCMまで、もうずっと同じものを見せられている気分。もちろん企業規模やビジネスを維持するのが戦略であればそれでも十分だが、残念ながら右肩上がりの株価を永遠に説明することはできない。変革が必要な時期だが、市場はもう変革ができない会社だと評価しつつあるのではないか(すくなくとも私はそう思う)。

NetFlix。こちらは競合サービスが多くて長期での右肩上がり成長が見えにくい。なぜNetFlixなのか。インターネット動画サービスはもはや消耗戦のように見える。夏に急落も起きている。見たい時だけ契約して見ればよいのも弱み。NHKの受信料並みに縛るサービスでないと経営が安定しないのではないか。Amazon Primeはその点年額なところが強みである。

 

jp.techcrunch.com

 

そしてGoogle。昨今のYoutube Primiumの影響がどうなるかわからないが、今一つまだブームには乗り切れていない感じ。Google Cloudは大きく伸びておらず、主力のインターネット広告事業がコア事業と言える。AppleからiPhoneの市場を奪えれば伸びしろはまだ残っていると思われる。Google Playによる収入も無視できない。FAANGの中ではまだ収益構造やその成長性が見えやすいと思う。

 

もともと、FAANG銘柄はグローバル経済の中で利用者数を世界規模で増やすことで、地球レベルのユーザー数を獲得し、市場を最大化してきた。トランプ政権の進めるアメリカファーストは、これらの企業は足かせにしかならない。技術移転ができないので現地でビジネスをしにくくなってしまう。またビッグデータに対する個人情報保護の問題、巨大プラットフォーマーへの規制など、逆風だらけとなってきた。今の調整はあながち不自然ではないと思う。成長ドライバーがないのだ。

 

我々の仕事はどうなる

ここ数年、WEBサービスやスマートフォン関連にお金が集まりすぎた。したがって、伝統的なSIerとは違う企業がもてはやされてきたように思う。その象徴がシリコンバレーであった。インターネットに札束が飛び交った。その基盤がクラウドだった。

この動きが収束する。無駄なサービスにお金を出すエンジェルもいなくなる。有益なサービスに投資をすればリターンがあるのは今までもこれからも変わらない。ただ、お金が集まってきたときは少々の失敗は成功のための糧にできた。が、そこまで余裕のある投資案件は減っていき、厳選するようになると思われる。むしろその方が健全であると思う。

一方で、デジタルトランスフォーメーションは行っていかなければいけない。AIやIoTなどのインフラ投資はまだまだ続く。ソフトバンクが行っている投資はこのあたりの者が多く、むしろFAANG的な企業が少ない。このあたりは良く見えていると思う。バブルが終わった時のインフラは強い。

 

www.businessinsider.jp

 

FAANG自体が無くなることはないがその周辺の滞留していたお金が、どこか別の場所へ向かうのは確かだと思う。まだ私も明確には見つけられてはいないけれども、前向きに見つけていきたい。そこに近づき新しい仕事をしてみたい。

宇宙とか・・?。

 

インターネットはクレジットカードの信用によって成り立っているという話

f:id:orangeitems:20181118185941j:plain

 

昔のサーバー証明書は高額だった

インターネットのサービスに仕事で関わるようになって10年くらいは経つのですが、もともとWEBのサーバー証明書というサービスは超高級品でした。WEBサーバー1台に対して年間10万くらいかかる商品でした。したがって3台のWEBサーバーにロードバランシングを行うと年間30万。高い。

なぜこんなにかかるかと言うと、過去は企業認証と呼ばれる方法で証明書を作成しないと企業サービスとして使う証明書としては役不足と長く信じられてきたからです。企業認証とは、以下のようなフローで成立します。

 

(客)

1)サーバー証明書の発行手続きをWEBで行い、CSRキーを提出する。その際、企業の情報(法人名、責任者、連絡先)も伝える。また技術担当者の連絡先も伝える。

(証明書発行企業)

2)帝国データバンクなどで認証を受ける企業の登記情報を調べ、CSRキーの内容と一致するかを調べる。

3)登記情報のある電話番号に連絡し、責任者を呼び出し、在籍確認をする。

4)技術担当者に電話連絡し、発行内容を再確認する。

5)サーバー証明書を発行する。

 

人間が介在することもあり、高額な手数料となっていたようです。いわゆるサーバー証明書と言えばベリサイン一強だった時代、です。

 

今はドメイン認証

時は流れ、企業認証の重要性は法人の現場でも相当薄れています。今はドメイン認証を使う場面が増えています。一般人が、EV認証、企業認証、ドメイン認証と言って、ピンと来る人がどれくらいいるでしょう。特にスマートフォンの画面では何の見わけもつきません。しかもLet's Encryptで無料でもドメイン認証の証明書を配布しているくらいです。もうドメイン認証でもいいでしょ、という雰囲気が強力に流れ始めています。これまでこだわってきた企業認証への思いは何だったのでしょうか。

一時期、企業認証をよく受け付けていて利用実績もあった会社から、よく電話がかかってきて「どうですか?そろそろ切れますよね?」という営業の電話がすごくかかってきた時期があったのですが、これはその予兆だったのだと思います。

ドメイン認証については、とても安価です。Let's Encryptも意識して相当に安価で、年間3000円するかしないかぐらいで取得できるようになりました。また、ロードバランシングしても追加で買う必要もないなど、とても使いやすくなった印象です。

ドメイン認証とは以下の流れで取得できます。

 

(客)

1)サーバー証明書の発行手続きをWEBで行い、CSRキーを提出する。その際、企業の情報(法人名、責任者、連絡先)も伝える。また技術担当者の連絡先も伝える。また、ドメイン認証の方法を選択する。

(証明書発行企業)

2)以下の方法の「いずれか」でドメイン認証を行います。

・(メール)対象ドメイン名のメールアドレスにメールを送る。

・(WEB)対象ドメイン名のWebサーバーに、事前に取り決めたテキストが読み取れるよう客に指示する。

(客)

3)以下の方法の「いずれか」の対応を行う

・(メール)メールを受け取り、添付のURLを開く

・(WEB)対象ドメインのWebサーバーに、事前に取り決めた文字列を含むテキストファイルを読み、証明書発行企業が読み取りに来るのを待つ

 

企業認証と違い、ドメイン認証は証明書発行企業にとって「全自動」です。これにより大幅に価格が下がりましたし、Let's Encryptのように無料で発行するプロジェクトも存在します。

 

ドメインを持っているから、信用するということは

サーバー証明書を発行する根拠は、ドメインを所有しているから、です。

ではドメインはどのようにして取得するのでしょうか。

実はドメインを発行するための条件は、「クレジットカードを持っていること」だけです。私もいろいろなレジストラ(ドメインを取得できる会社)と契約したことがありますが、実在確認や企業認証は一切しません。契約する際に「クレジットカード」を登録し、決済できるか確認するだけです。クレジットカードを決済できるということは、クレジット会社がカード発行者の実在確認を行い、信用情報を付与しているということになります。

ということは、有効なクレジットカードを持っていれば、ドメインが取得できる。ドメインが取得できれば、サーバー証明書を取得できる。

インターネットは、クレジットカードの信用によって成り立っているということになります。クレジットカード会社はインターネットを支えているのです。

 

AWSもAzureもGoogle Cloudも

ところで、クラウドの巨人、AWSもAzureもGoogle Cloudも、はじめて使う人には無料枠を提供します。本格的には使うかどうかわからないけれども、とりあえず無料枠の範囲で使いたいな、と思ったとき。手続きをしてみてください。

必ずクレジットカードを要求されます。

 

ご利用前のよくあるご質問 | AWS

Q. 無料利用枠のみ使用したいので、クレジットカードを登録せずに利用開始できますか?

A. アカウント作成およびご利用開始にあたっては、本人確認および無料範囲を超えたご利用に対する料金のご請求といった点から、クレジットカード登録は必須となります。

尚、無料範囲内のご利用でしたら、クレジットカードに課金されることはございません。無料利用枠の対象製品・サービスが提供する無料範囲については、無料利用枠をご参照ください。

 

Azure 無料アカウント FAQ | Microsoft Azure

クレジット カード番号や電話番号がなぜ必要なのですか。

低料金に抑える 1 つの方法として、アカウント所有者が実在する人間であり、ボットや匿名のトラブル メーカーではないことを確認しています。電話番号とクレジット カードは、ID の確認に使用します。お客様のクレジット カードに請求は発生しませんが、お客様のクレジット カード アカウントに 1 ドル認証が表示される場合があります。これは、3 から 5 日以内に削除されます。

 

無料利用枠の利用のみで課金するつもりがなくても、クレジットカードの提示が必要なわけです。良からぬことをした場合、クレジットカードの情報から個人を特定し責任を追及するということの裏返しです。

 

まとめ

このように、インターネットで何かしようとする場合、最近はサーバー証明書発行会社による在籍証明などは影を潜め、クレジットカード会社による信用情報を基礎としてサービスを提供する形が中心となっています。繰り返しますが、クレジットカードがあるからドメインが取得でき、ドメインが取得できるからサーバー証明書が発行されるのです。そしてクラウドはクレジットカードによる本人確認が全てです。

したがって、最近は法人向けのクレジットカードと呼ばれる、コーポレートカードの利用が増えていると思います。法人の信用情報をもとに発行されるカードです。企業取引がクレジットカードで行われる時代の到来です。インターネットに属してビジネスをすると特にそう感じるようになっています。

インターネットは、クレジットカード会社の信用情報生成能力によって成り立っている。これは普段生活しているとあまり意識しない部分でもありますので、言及しておきたいと思います。

Google Cloudのトップが退任し、元Oracleソフトウェア開発担当プレジデントが電撃就任する件のまとめ

f:id:orangeitems:20181117165725j:plain

 

グリーンCEOが退任

Google Cloudのトップ、グリーンCEOが退任とのこと。結構大きなニュースです。

 

japan.zdnet.com

Googleのクラウド事業を約3年間指揮してきたDiane Greene氏が米国時間11月17日、退任すると発表した。後任には、元OracleのThomas Kurian氏が就任する。Kurian氏は、Oracleの古参の役員だったが、9月に辞任している。共同創業者で最高技術責任者(CTO)のLarry Ellison氏と意見の相違があったことが発端だと報じられていた。

 

tech.nikkeibp.co.jp

米ブルームバーグ(Bloomberg)は2018年9月、クリアン氏がオラクルのプレジデントを退任した背景に、クラウド事業の戦略を巡って会長兼CTO(最高技術責任者)のラリー・エリソン(Larry Ellison)氏と意見が対立したことがあったと報じていた。クリアン氏は「Oracle Database(DB)」などのソフトウエアをAWSや「Microsoft Azure」など競合のクラウドで使いやすくすべきだと主張していたが、エリソン氏はそれに反対したとされる。

 

これは興味深い。Oracle DBをめぐるORACLE内部の対立からGoogleに動いたクリアン氏が、今度はGoogle Cloudのポストを務めるということになるんですね。

アメリカのエンタープライズITは、競合企業へ電撃的に就任するから面白い。グリーン氏もVMwareの創業メンバーの一人でした。

 

そもそも一か月前の10月に、ロンドンで行われたGoogle Cloud Next '18 Londonで、グリーン氏が登壇したばかりでした。いろいろと速すぎる。

 

japan.zdnet.com

Google Cloudの最高経営責任者(CEO)Diane Greene氏は、ロンドンで開催された同社主催のイベント「Google Cloud Next '18 London」で、「われわれはまだクラウド化の初期段階にあり、ワークロード全体の約10%がクラウドに移行されたにすぎないが、クラウドがデジタル変革の大きな推進力の1つであることは明らかだ」と語った。

 

偉い人が会社を去るときなんて、そんなものなんですかねーー。

 

グリーン氏のブログでは

こちらはGoogle Cloudブログでのグリーン氏のごあいさつです。

cloud.google.com

メンターリングには、エンジニアリングや科学技術の背景を持つ女性創業者のCEOに投資して支援することが含まれます。私は、すべての女性エンジニアと科学者がいつか自分の会社を築くという考えを奨めたいと思っています。世界はより多くの女性創業者のCEOとのより良い場所になるでしょう。

教育における仕事は、低コストでスケーラブルでパーソナライズされた質の高い教育を行うために、技術と人との教育を組み合わせたイニシアティブです。ビバップがGoogleによって購入されたとき、私はすべての収入を慈善事業に捧げました。それは仕事に費やす時間です!

 

なーんとなくですが、Oracleで名を馳せたクリアン氏のリクルートにGoogleが成功し、常々今後の女性エンジニアや創業者の支援に従事したいと思っていたグリーン氏の後釜となった様子ですね。

グリーン氏はAlphabetには残るようですし、今後どうやってもダイバーシティーを推進していかなければいけないAlphabetとしても理に適う異動のように見えます。

 

しかしまあ、Oracle社内で他社のクラウドがいいという話をすると、次の日には自分の机が無くなってそうな勢いですね。

 

こんな件もありました。

tech.nikkeibp.co.jp

 

クリアン氏について

ほんの半年前の2018年5月の記事です。

japan.zdnet.com

 

もうそのままGoogle Cloudに当てはめてもいい内容で、Googleの人事もうなづけます。逆にOracleはどういう気持ちなんでしょうか。OracleとGoogleは手を組みにくくなっただろうしもともと組むつもりなどさらさらない、のですかね。

 

週末のニュースとしては結構大きなトピックでした。

ドラゴンクエストXを支える技術~大規模オンラインRPGの舞台裏~を読んでみた

f:id:orangeitems:20181116220352j:plain

 

買いました

昨日のエントリーで、面白そうな本が出た話題を出しましたが早速買ってきました。そして全部目を通しました。全部読み込むには一週間ぐらいかかりそうなくらい。ボリュームたっぷりです。私はドラクエXを3年ほどやっているのもあり、ゲームの内容説明などは斜め読みでき時間を節約しました。

 

どんな本か

一言で言えば、ドラクエXを運営するにあたって必要な情報が全て盛り込まれているすごい本です。すごい、というのは何を示しているかと言うと、著者の青山さんは今プロデューサーというこのゲームの運営トップなのですが、その組織の末端にいたるまで仕事内容を細部に把握し、これを文書化したことです。

元々プログラマー出身なので開発サイドの情報はとても詳しく書かれています。特にバージョン管理やリリースをはじめ、どんな言語を使っているか、マルチスレッドに対する考え方、メモリの利用方法やストレージの使いまわしなど、コアとなる情報はしっかり書いてあります。しかし、それだけではなく・・・

・データベースのOracle Exadataの利用方法であったり、キーバリューストアの話であったりといったデータベースエンジニアとしての知識

・キャラクターのデザインや、ポリゴンなど、デザイナーとしての知識

・ロードバランサーやスイッチなどのネットワークエンジニアとしての知識

・OSやハードウェアなどのサーバーエンジニアとしての知識

・作業分担や進捗確認、会議体運営等の、プロジェクトマネージャーとしての知識

・大人数の組織運営に関する管理職としての知識

・品質管理メソッドの知識

・広告やイベントなどの、営業としての知識

・カスタマーサポートの知識

・もちろん、オンラインゲームの知識

全部書いてあります。

正直、デザインの部分は、私の専門と全く違うため、読んでも読んでもさっぱり頭に入ってこないです。一方で、著者は自分の専門外かどうかにかかわらず全ての部門を把握し、プロデューサーとして今後全体を統括できるためにこの本を執筆したのではないか、そう思うほど全部書いてあります。漏らさずに。

インフラサイドの話はそこまで深くありませんし、デザインの部分も専門家が見ればさわりの部分かと思います。しかし、トップがここまで勉強し把握していてくれれば、これは最終決定権者としては部下も相当ありがたいのではないか、と思います。

きっと、スクウェア・エニックスの新人はこの本を新人研修で読まされるのは間違いないな‥と思うくらい全てを書ききることに執念を感じる本です。また、大規模オンラインゲーム運営企業に就職・転職される方は間違いなく読んでおいたほうがいいと言い切れる本です。

むしろ、仕事しながら良くこれだけ書けたな・・と。

書いてあること一つ一つを細かく覚える必要はないですが、国内最大級のオンラインゲームをスムーズに運営できるその体制と、苦労した内容を公開することは日本の財産にもなるのではないでしょうか。次に始める企業は、全く同じ体制・役割でスタートすれば大きな抜けがありません。もちろんスクウェア・エニックスやドラクエXチームは大人数の部類ですが、人数が少なかったとしても、チームを小さくすれば機能できる構成です。また、少ないうちに最終形を意識して組織づくりをすれば成功に近づけるのではと思いました。

 

感想

ここからは個人的な感想です。

ゲームをリリースしたのが2012年8月2日。全く触れられていませんが、東日本大震災の311はリリース直前です。この年のことを思い出すと、クラウドが脚光を浴びた時期でした。計画停電等でBCP(ビジネス継続プラン)やテレワークなどに関心が高まった際にクラウドへシステムを移すことの人気が高まりました。

逆に言えば、オンラインゲームをクラウドで運用することはまだまだ現実的でもなく、大型のオンラインゲームであればデータセンターを借りて自前でオンプレミス運用することが当たり前でした。2012年の時期においての、最も洗練されたシステム/インフラ/ソフトウェア設計だという印象です。

しかし本文中にもある通り、2018年の今は技術動向が全く違ってきています。クラウドであっても、種類によっては仮想環境だけではなく物理サーバー(ベアメタルサーバーと呼ばれる)も使えますのでオンプレミスでしかできなかったこともできるようになりました。また、ソフトウェアももっと良いものもありそうです。しかし、「載せ替えても障害のリスクがあるだけで便利になるわけでもない」という通り、過去のアーキテクチャーを継続しつつ周辺ツールの工夫で生産性を上げているそうです。

※一部はAWSを使っているが周辺システムとのこと。

ただ、やはり6年、7年と経つと、コンテナやサーバーレス、PaaSやIaaSの進化など、革新的な技術が出てきています。今まで通りのサービスレベルを続けるのか、それとも新しい技術を取り入れ時代に追随するのか。あまりにも新しい技術を無視していると以下の懸念があろうと思います。

・技術者が、新しい技術に刺激を受けたとしても、業務で使うことができないか場面が限られる。モチベーションが下がるため他の会社に転職する理由の一つとなる。故にマンパワーが低下する。

・今の技術で作った洗練されたサービスを立ち上げた競合他社から、ユーザーを奪われる可能性がある。かといって、変更するには大変な工数がかかる。

ただし、スクエニもたくさんのゲームや部署を抱えるでしょうし、新規についてはクラウドで最新のソフトウェアを使って構築するところもあろうと思います。部署異動などでメンバーの希望も聞きながら、うまく配属しているんだろうなと思います。

特に、伝説の堀井雄二さんが統括している組織なので、「支える技術」よりもそのミッションのやりがいのようなものがモチベーションに大きく寄与しそうだと思いました。

 

より大きな成功をしているサービスについて、時間が経過したときにどうしてもアーキテクチャーが古くなってしまう。オンラインゲームは特に修正と追加の連続であり、膨れ上がったゲームの内容を簡単に、移行ができない。古いアーキテクチャーを引きづりつつ、新しい機能を実装していかなければいけない。また、コアシステムとは独立している周辺のシステムは時代に合わせてクラウドを使うなど柔軟にシステム設計できる。しかし、やりすぎるとソフトウェアの数が増えるためメンテナンスの難易度が上がる。

このあたりを強く感じた本でした。

ちなみに、大企業って大変だよなあ・・いろいろな人と連携して結果責任を負わなければいけない上役は重いなあ・・、と思ったのは余談です。

 

 

ドラゴンクエストXを支える技術 ── 大規模オンラインRPGの舞台裏 (WEB+DB PRESSプラスシリーズ) 単行本(ソフトカバー) – 2018/11/14