国産クラウドが育たなかった理由

 

大昔、クラウドだって言い張った単なる仮想環境を作ったおぼえがあるけど、全然スケールするイメージが付かなかった。

一番の問題は、個別の顧客に対していろいろと要件を聴きすぎたということだった。顧客ごとにユニークに設定を入れ込んでいくと、どんどん設定が複雑になっていく。これ十社ならいいけど百社入ったらアウトかな、なんて感覚があった。

AWSなど、スケールするクラウドは個別の要件なんて聞かないで、どの顧客にも同じ機能を提供するという姿勢を貫いた。そもそも顧客と直接コミュニケーションをせず、Webサイトを通じたコミュニケーションが基本だった。スケールする前提を守るには必須だと思う。

これが、「地場のデータセンターは、直接お客様にお伺いし、Face to Faceをするのがバリューです」なんて言っちゃったものだから、クラウドではなくなる。

そうなると、顧客の声が強くなりすぎて、あれやこれや拡張しちゃうんだけど、それが次の顧客の足かせになる。

そのうち容量が足りなくなって別のクラスターを作ろうとすると、元のクラスターの仕様とずれちゃう。そうやって、ヘンテコでユニークな建物がどんどん増えて行って、収拾がつかなくなる。

そこに、「バージョンアップ」「保守切れ」なんてイベントが訪れる。どうせ、どこやらの有名メーカーのハードウェアやソフトウェアを買って、組み上げた構成を使うもんだから、どこかで保守切れが近づく。すんなり無停止でアップデートできればいいけど、そこでいろんな技術制約が出て来て、単に移し替えるだけなのに、ものすごく工数がかかることになる。

スケールアウトするにも、移行して最新にするにも、全然楽にならないのがクラウド構築で、実際にやってみて、こんなの全然楽じゃないよなという記憶がある。そしてAWSやAzureが出てきた時も、うまくいくはずないよな、なんて決めつけていた。

 

ところが、今やクラウド全盛だ。彼らはスケールできてしまった。今では世界中のデータセンターに基盤を立てまくって、そして、私が困難と感じたハードウェアやソフトウェアの入れ替えを日々できてしまっている。

なぜそれができるのか。基盤のハードウェアやソフトウェアまで、自社でコントロールできるような仕組みを取り入れているからだろうと思う。

どうしても日本国内で内製で作ろうとすると、マルチベンダーで機材を調達したプラモデルになってしまう。そしてベンダーごとに保守の事情が違う。国内クラウドはおそらくすべてそうだと思う。完全な内製などできはしない。

全ての海外クラウドの状況は知らないが、ハードウェア・仮想基盤・ネットワークなど、結構な自社専用のカスタマイズが入っているらしい。本当の内製が進んでいる。保守のコントロールが半端ない。

保守フェーズを大規模化に合わせてシンプルにし、世界で本番環境を無停止で動かし続けつつ、ハードウェアやソフトウェアを最新にするという離れ業をやってしまっている。

じゃあ、個人や日本企業がそこまで踏み込んでクラウドを設計できるのかというと、これには大変なお金を突っ込まないとそこまで実装するのは厳しすぎる。もはやハードウェアやソフトウェアも、輸入に頼りきりである。

もともと、政府は、国内ベンダーに仮想基盤を作らせ、それをデジタル基盤にしようとしていた。ところが余りの経済性の低さに、AWSなどメガクラウドにリソースを移しつつある。

ところがここにきて、「国内クラウドの育成」に舵を切ったというニュースがあった。

 

xtech.nikkei.com

 自由民主党と経済産業省が「国産クラウド」の育成に動いている。狙いは「国民データの安全な管理」と「クラウド技術の確保」という経済安全保障上の2点だが賛否両論がある。

 

正直、これまでの国産クラウドの挫折を身をもって知っているので、何を表しているのかわからない。昔に戻すと言っているようなものだ。

そもそも、何をもって国産なのか。何がクラウドなのか。昔の定義なら、もはや国内ベンダーは敗れたのではないか。

インフラエンジニアのはしくれとして、2022年から「日本でクラウドを作る」と言われたときに、何を示すのか興味がある。また、ベタベタなオンプレの仮想環境ができあがらなければいいのだが。