1990年代後半の話。
そのころのIT企業のオフィスは暑かった。なぜかというと、ディスプレイはブラウン管で今みたいな薄型じゃなかった。昔のテレビ・・と言ってどこまで通じる人がいるのかわからないが、15インチや17インチの画面なのに奥行きが80センチくらいあった。そしてディスプレイの裏側に行くと、もわんとした温かい廃熱が出ていた。
オフィス机で向かい側に座っていた人の机にも大きいディスプレイがあり、そして私の席にもディスプレイがあったから、背面が隣り合う。ここに熱が溜まる。そしてIT業界は残業の塊のような仕事場だったから、オフィスは廃熱による気温の上昇が止まらなかった。ディスプレイだけではなくパソコンも熱がすごかったので、冬などは暖房要らずとも思えるほどだった。
この昔ながらのブラウン管、解像度が1024 x 768、いわゆるXGAと言われる仕様で、それはもう小さい画面を見てみんな仕事をしていたのだ。デュアルディスプレイもないし、そもそもウィンドウをたくさん起動しているとメモリ不足にもなりがちだった。こんな状況でシステム構築をしなければいけなかったものだから、そりゃ残業地獄にもなるよね。
OSもまだ安定していなくて、パソコンを使っていてフリーズしたり突然再起動したりするのは日常茶飯事。だからドキュメントを書く時はいつもCTRL+Sで気づいたら保管する癖が付きまくっているが、今の若い人にはわからんよね。基本的にコンピューターを信じていないので、保管につぐ保管。
このころのパソコン環境、相当遅いパソコンも多くて、OSが起動するのに5分かかったパソコンもあった。先輩に相談すると「その時間仕事しなくていいからいいじゃん」と言われた記憶がある。それぐらい牧歌的な仕事現場だったんだな。今ではパソコンなんてスリープ状態なら1秒で起動するから、結構いろんなことが素早くできるんだけど、だからこそ仕事が遅い人が目立つようになっちゃったね。
当時はインターネットが無かった。いやあるにはあったが、個人のホームページしかなかったので、何かわからないことがあっても今のように検索とかできない。オフィスには技術書がいっぱいあってそれを読んだり、マニュアルに当たって調べたりしていた。だが情報は少なかったので、一度技術的に難しい部分にハマると帰れない人続出だった。
2000年あたりに「グループウェア」というジャンルが流行って、企業内で情報共有することをナレッジマネジメントなんて言って今のDXのような状態になったことがある。あれはインターネットの情報が適当だったので、社内の情報の方が緻密で正確であり、それをITの力で整理しようということだった。今でもグループウェアはあるが、このナレッジマネジメントというのは廃れたように思う。というのも、インターネット全体に落ちている知識量の方が量も膨大でしかも常にアップデートされるからだ。
社内に情報が落っこちていたとしても、誰か更新してくれる保障はない。そのうち古い情報と新しい情報が入り乱れて、あんまり使われなくなるのがオチだ。
今ではプロジェクト管理ツールであったり、スケジューラーなど、流れていく情報を整理する方が社内システムとしてはよく使われていると思う。
こうやって過去から今に向かって考えていくと、インターネットが会社や仕事に与えた影響の強さを思い知る。今ではインターネット無しに社会はまわらない。
一方で、今日のニュース。
Zホールディングス傘下のヤフーは1日、英国と欧州経済地域(EEA)で大半のサービスの提供を4月6日以降に中止すると発表した。検索サイト「ヤフージャパン」やニュースサイト「ヤフーニュース」がこれらの地域からは閲覧できなくなる。「コストの観点で、欧州の法令順守を徹底するのが難しくなったため」(ヤフー)としている。
そう、1990年代後半から社会を変え続けたインターネットは新しい局面を迎えている。無制限に国家を超えて知識を拾い続ける性質は、急激に国家を意識し出している。特に今は、「ログインしないと見られない」「ログインしてもフィルタリングされている」といった状況が強くなってきている。このままでは、インターネットにつないでも、ほんの限られた情報にしかアクセスできなくなるかもしれない。
ここまで20年は刺激的だった。ここから20年、インターネットはどこに行く?。