Oracleの個人的イメージ
Oracleという企業を長い間外から見ていて思うのですが、ずっと「IBMになりたい」という野望を持っていたのではないかと想像しています。メインフレーム最盛のIBMは王様で、ハードウェアからソフトウェアまですべてを牛耳る存在でした。Oracleの代表的なソフトウェアであるOracle DatabaseはIBM Db2と永らくシェアを争っていましたけれども、それだけではありません。ハードウェア分野においてはSun Microsystemsの大型買収を行いハードウェアや汎用Unix(Solaris)を取り込みました。RedHat Linuxは結局IBM陣営となりましたが、Oracle Linuxという似たようなOSを作りました。VMwareに対してはOracle VMというハイパーバイザーを作り、この上だけでOracle製品の仮想化を認めた経緯があります。SAPともガチンコでぶつかっていて、ERPの分野で激しく戦っています。何しろOracleという企業は全て自分でまかなおうという確固たる意志がありました。いわゆる囲い込みです。囲い込みが悪いというわけではなく、Amazonだって楽天だって囲い込みは大好きです。全てをワンストップでという意思を強く感じてきました。
ただ、昨今のクラウドの世界にあって、囲い込みはいわゆるロックオンという言葉で嫌がられます。Oracleを使いだすとOracleから逃げられない。それを証拠にOracle Cloudのポジションは他陣営と比べるとまだマイノリティーです。
それはクラウドだけではなく、Oracle Databaseのライセンス政策にも色濃く表れていて、永らくVMwareでの稼働について明言をしていませんでした。明確にはサポートを表明しませんでしたし、実際にVMware起因のトラブルはサポートしないとも言いきっていました。また、仮想化はOracle VMにしか認めず、ライセンスカウントも物理ホストのプロセッサー単位です。したがって、2コアの仮想サーバーだけで動かすだけなのに、そのホストの物理プロセッサー分のライセンスが必要。しかもvMotionなど他ホストに動かすのであればその分のライセンスも必要。AWSとAzureにだけは仮想コアでのカウントは認めるけれども、割高な計算式を提示。仕方がないのでOracleだけは、物理サーバーの上で動かすかみたいな話も日常茶飯事で、Oracle Databaseのライセンスについてはちゃんとライセンス販売代理店に問い合わせをしてエビデンスをもらうのが、この業界の常識となっています。
しかし、当の目標としていたIBMは、もう中身がほとんど入れ替わってしまいOracleの考えるIBMはおそらくこの地球上にはありません。
Oracleはハッとその事実に最近気が付いたように見えます。競争する相手はGAFAMなのだと。
まだそう見えているだけですが。
象徴的なVMware提携のニュース
そもそも、Oracleという企業は他社と提携するぐらいなら買ってしまえという文化だったと思います。先週のニュースには驚きを隠せませんでした。
VMwareとの提携により、オラクルはオンプレミスにおいてVMware環境でオラクルのソフトウェアを実行している顧客に対してもテクニカルサポートを提供します。
オラクルがVMware環境での同社ソフトウェアにサポートを提供するのはこれが初めて。VMwareのカスタマオペレーションズ担当COO Sanjay Poonen氏は下記のようにコメントしています。
「VMware is delighted that for the first time, Oracle will officially offer technical support for Oracle products running on VMware. This is a win-win for customers,(VMwareは、オラクルがVMware上で動作するOracle製品のテクニカルサポートを初めて正式に提供することを歓迎します。これはお客さまにとってWin-Winな提携です)」
率直に言って、OracleがエンドユーザーとWin-Winを語ることはあっても、他ベンダーとはWin-Loseの関係、攻めて攻めまくるイメージしかありませんでした。
おそらく、「え、OracleってVMware上でも動いてたよね、なぜ今さら?」と言う方もいらっしゃるかもしれませんがそれは、ビジネスで使ったことがない人の感想です。今回改めて発表するくらい、VMwareにOracleを載せることは非現実的と捉えられてきました。VMware構成を取るときでも、Oracleだけは別の物理サーバーに隔離して動かすことが常識でした。正式にサポートを表明しなかったのですから仕方がありません。一方でOracleVMの運用なんてやりたくありませんでした。日本のほとんどがVMwareで動いている中であえて選択するメリットも見えませんでした。
もう永久にこの状況なんだろうな・・・と思っていたらこの提携ですから、「改心」としか言いようがないような発表と捉えています。
ただ、昨日MicrosoftとAzureに関して提携したときから変化の兆しを感じていたのも事実です。
MicrosoftとOracleは2019年6月5日(米国時間)、Microsoft AzureとOracle Cloudの相互接続などで提携したと発表した。同日付けで、Oracle Cloudのバージニア州アッシュバーン・データセンターと、Azure US Eastが、直接の相互接続を開始したという。他の地域においても、今後同様の相互接続を進める。
問題はライセンスカウントの変化があるかどうか
OracleはVMwareの提携について、ランディングページを作ってアピールしています。
象徴的なのは下記の図で、オンプレでも、Oracle Cloud上でも、VMwareのワークロードを動かせるよ、と言ったところです。
ただ、これは最後発の話であり、IBM Cloudを皮切りに、AWS、Azure、GCPとサポートする構成なので、最後発で手を挙げたということになります。
Oracleの文化的にはなかなかあり得なかった発表であり歓迎するのですが、肝心のライセンスカウントはこのページに含まれていません。
VMwareとの提携、というのであれば、VMware上のVMでOracle製品を動かしたときのライセンスカウントも仮想化に合わせたものにしてほしいと希望します。
でなければ、提携といっても競合他社をチラ見しただけの表向きのものと言わざるを得ません。VMwareで動かしやすいライセンスカウントにしてほしい。
下記には、VMwareからOracle Databaseのライセンスカウントについての詳細な記事が出ておりますが、英語の文章であり読み切れていません。
「VMware 環境向けの Oracle の認定、サポート、およびライセンスの詳細」というPDFファイルがその文書です。これまでブラックボックスとされていたVMware上でのOracleライセンスの数え方が掲載されています。日本語化された段階で読み解きたいと思っています(お金のからむ話なので)。
改心が本物かどうか、注視していきたいと思います。本気で本気なら、ほぼ勝負の決まってしまったクラウド業界にいい変化を起こしてほしいなと切に願います。