多重請負からユーザー企業に転職した方のお話
うーん。これは良くない。
もともとは2016年の日経xTECHの記事だそうですが、問題があります。
長いですが、最後まで読んでみてください。
私の考えるこの記事の問題点
私も下請けからユーザー企業ではないですが転職した経験があるので、初めの方は共感して読んでおりました。この記事の4ページまではふむふむと読んでおりました。
5ページ目以降、「銀の弾丸はあった」の章以降に、問題を感じます。
問題を凝縮している段落が下記です。
だが、彼女は現場の空気を一変させる力を持っていた。彼女が現場に入ってしばらくすると、今までいたメンバーが異常なほど高い生産性を発揮し始めた。
思い当たる節がある。当時の開発現場は典型的な男性職場だった。火事場になると、身だしなみに気をつける余裕もなくした男性陣が、うつろな目をして蠢くようになる。
私も現場をたらい回しにされていたころ、半年以上女性と口を一切きかなかったことがある。そもそも現場に女性がいなかった。女性を見るのは通勤の行き帰りだけ。それが当たり前の業界で、当たり前の環境だった。
そういうところに女性が現れたのだ。20代、30代の独身も多い。男性陣に感じるところがあったのは間違いない。
火事場になった男性職場において、若い女性がいることでモチベーションが上がる。これを「銀の弾丸」と呼んでいるようですが。
今もって男性職場が多いIT業界において、女性を潤滑油のように機能させることを期待したり、それが「銀の弾丸」のようにポジティブに表現することは、私は「悪」であると考えます。
銀の弾丸とは
銀の弾丸の意味については、Wikipediaより引用します。
原論文は英語である。日本語では『銀の弾丸はない』と、翻訳されることもある。ブルックスは、「銀の弾丸」(Silver Bullet)として、魔法のように、すぐに役に立ちプログラマの生産性を倍増させるような技術や実践 (特効薬) は、今後10年間(論文が著された1986年の時点から10年の間)は現れないだろう、と主張した。
男性職場に若い女性を投入すると、すぐに役に立ちプログラマの生産性を倍増させるような特効薬になる、と言っているのです。
なぜおかしいか
逆の立場になって考えましょう。
あなたが男性だとします。
火事場になった女性職場があるとして、その会社に一定期間派遣されるとします。
そうすると、あなたの魅力によって、女性社員の生産性が倍増するというのです。
あなたがシステムエンジニアだとして、そんな仕事を受けますか?
考えるべきは、男性・女性比率にかかわらず生産性を上げるためのマネジメントであり仕事のやり方です。そして性差に関わらず、本来のスキルにしたがってプロジェクトに組み込み、評価する態度こそ職場にとって重要です。
ユーザー企業の担当者がこの「銀の弾丸」を期待し、それをベンダー側がくみ取って若い女性をアサインするようなことは、IT業界にとって「悪」です。優秀な女性ほど、このような扱いを受けることに傷つくでしょう。
プロジェクトに必要なのは、技術はもちろんだが、やる気、そして円滑なコミュニケーションである。男社会であった開発現場に女性が登場すれば、女性の存在がきっかけになって、チーム内のコミュニケーションの度合いが向上し、男性はやる気を出す。最近、聞く機会が増えた多様性の好例といえばいいのだろうか。
多様性の効果について、絶対に意味を取り違えていると思います。多様な価値観によって異なる価値観、視点、経験やアイデアをコラボレーションすることで、より良いサービスを生み出すことがメリットです。今回の文脈では、女性の役割は女性であることだけであり、本来の業務にはタッチしていないので多様性の意味を為していません。
こういう記事に対して問題であるという声を挙げることに意味があると思います。私は本来の意味で女性がIT業界に技術者として参加してほしいですし、そうすることで生産性は上がると思っています。このような記事が2019年になっても表に出てくるようだと、明るい未来が見えません。
女性を男性職場の潤滑油のように利用しないでほしい。