個人の勉強は誰がコストを負担するべきか
年末年始のお休み期間は、自分自身のありようについていろいろと考える人は多いようです。普段忙しい時には棚上げしていたことを考える時間が急に与えられるわけですから。いろんな決断をされた方もいらっしゃるでしょう。
さて、Twitterにて、以下のツイートに反響を頂きました。
社員「AWS勉強したいです」
— orangeitems🍊 (@orangeitems_) January 2, 2022
上司「勉強、いいね!(時間外にどんどんやってね自費で)」
となるの、コミュニケーションロスなんだけど、いい加減にしてくれないかなと思う。業務時間に会社の教育費使ってやりなさい。
会社によっていろいろな考え方はあるでしょうが、技術者としての技術力向上をどうやって実現するかは共通の課題だと思います。
例えばこういう会社は多いでしょう。
「会社は学校じゃない。お給料を頂いて働いているわけだから、その時間で勉強することはおかしい。それは業務時間外でやりなさい。」
「業務時間外で努力した結果を、業務に反映し、会社に貢献するのだ。」
私も、何度も何度もこの手のセリフは聴いたことがあります。しかし明確にこの考え方は誤っていると主張したいです。
3つの理由を挙げます。
理由① 会社員はたくさんの時間を拘束されている
多くの人が平日の9:00から18:00ごろまで拘束されてますよね。しかも通勤時間や睡眠時間を別に用意しなければいけません。残業がある職場だともっと限定されます。また、家族がいる人は、家族とコミュニケーションする時間も必要です。
業務時間内に勉強できないとしてそれ以外の時間を使って勉強しようとしても、かなりの犠牲をはらう必要があります。休みに休めないというのは、業務時間では仕事、その外では業務関連の勉強。これでは効率も上がりません。
理由② サーバーサイドの学習にはコストがかかる
上記ツイートではAWSの例を出しましたが、他のクラウドでも同様です。単純に、勉強のためにサーバーサイドのリソースを動かすだけでお金がかかります。
いや、無料使用枠があるよとのご指摘も頂きますが、無料使用枠で使えるリソースなど微々たるものです。無料使用枠でできることを組み合わせてどれぐらい実用に使えるかを追求する方もいらっしゃいますが、残念ながら仕事で使えるレベルではありません。
あらかじめ予算を立ててその中で学習していくべきでしょうが、この予算を個人の懐から出すのは理不尽なように思います。
仕事で使えるレベルで学習するには、個人の努力では限界があり過ぎます。
理由③ 会社が個人の努力にフリーライドする姿勢が非効率
会社は利益を追求する最大目的があり、それを実現するために社員がいます。
社員の成長は会社の利益を生みますから、本来、会社は社員の成長を促さなければいけない宿命があります。そうでないと、例えば社員が何にも学習もせず進歩もせずだと、業績は平行線どころか衰退します。なぜなら、市場はいつも競争していて、競争相手は絶えず成長しようとするからです。
そのような状況で「社員の学習は業務時間外に」というルールを掲げていては、社員が勉強するかどうかは会社がコントロールできません。仮に勉強してくる社員がいればそれを活用する。つまり教育に対して何もコストをかけず、給料の中から自主的に自己学習に支払ってくれた社員の結果にフリーライドする。この姿勢はよくありません。
もし経営者が、今後この分野は、会社が成長するためには必要だと認識する分野が明確なのであれば、利益や内部留保を人材に振り向け投資しないと、会社の未来はありません。
教育コストをかけない会社に限って、
・業務時間外に自分で勉強しろ
・うちの社員は全然勉強しない
・中途採用で新規スキルを補いがちで、既存の社員が腐って辞めていく
・全てをアウトソーシングで他社にやらせ、社内が空洞化する
という現象が起きます。これでは、結果的に会社の成長どころではなくなります。
まとめ
現在、デジタル人材を増やすべく、大企業がこぞって従業員へのデジタル教育を活発化させています。これ自体は会社が教育コストに投資しているので望ましいことです。
ただ、デジタルの世界はどんどん技術内容が変化していきます。ですから、今回のブームで教育をしてしまえばデジタル人材の出来上がり、ではないのです。今の技術は明日の負債になることはよくあることです。明日廃れる技術を、今日ありがたがって勉強しているというのがデジタルの本質です。
ですから、結果的に教育コストはかけ続けないと、IT人材が輝き続けることはできません。企業はデジタルに舵を切ったわけですから、今のブーム時だけではなく、恒常的に教育に投資してほしいところです。
会社の言い分として多いのが、「勉強するつもりのない人に教育コストをかけるのが嫌だ」ということ。でもこれもおかしな話で、会社が能動的に社員に教育コストもかけない状況で、社員に何を期待するのかという話です。それでも自主的に勉強する人は、会社に依存しないで成長しようとしていく人材であり、転職志向も強く、外に出ていく可能性も高まります。会社の都合のいい態度が見透かされ、社員からも見限られることになりがちです。もっと社員に教育することに積極的な会社を目指して会社を移ることに合理的な理由を与えてしまいます。
会社は、社員が成長したいという意志を大切にし、一方で事業戦略を絡めながら、積極的に投資しないと他社との競争に敗れることは必至です。
成長なんてしなくていい、利益なんていらない、なんて経営者はいないでしょうから、社員教育は必須事項と考えて欲しいものです。