orangeitems’s diary

40代ITエンジニアが毎日何か書くブログ

無駄な会議に呼ばれ、そして呼ばれなくなった話

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転職して間もなかったころの話。

新規システム構築のプロジェクトが発足し、私はインフラ側の担当者にアサインされた。結構世間でも有名な会社との取引だったし、金額も大きく、それに伴いサーバー等の規模も大きい。顧客の期待に添えたいと思い、プロジェクト開始前にいろいろな準備を整えて準備万端と言ったところだった。

営業担当より初回の要件定義が始まるので会議に参加してほしいと声をかけられた。プロジェクトの始まりであり担当者として席にいてもらいたい。なるほど。それならば聞いておきたいことがある。冗長構成についての要件。外部連携する場合のお作法。バックアップや監視まわりのこと。障害対応の流れ。運用に入ってからの連絡体制。

最近はあまりこの表現は耳にしないが、非機能要件と言われていた部分だった。

さて、この打ち合わせ、自社のオフィスから一時間半ほどかかる顧客のオフィス内にある会議室だった。午後二時からのスタートだったので、午前中会社で準備し、午後になったらすぐ顧客のオフィスへ向かった。

どうも会議自体は長丁場で、午後六時までかかるとのこと。そうか、四時間もかかるのなら、どこかで非機能要件のことを聞く場面はあるだろう。

顧客オフィスのあるビルの一階ロビーには、自社メンバーがそろっていた。開発部門から選出されたプロジェクトマネージャー、メンバー数名、営業担当、そして私だ。基本的にはシステム構築はアプリケーション側のメンバーが主力であり、インフラ担当はおまけみたいな形になることが多い。

午後二時。顧客を呼び出し会議室へ移動。顧客との名刺交換も終わり、いそいそと本題に入る。プロジェクトマネージャーは紙の書類を顧客と自社メンバーに配り、要件定義に入っていく。項目はカテゴリーで分別されていて、システム構築するに当たり決めなければいけないことが表に羅列されている。提案時にはゆるく合意しているものの、実際にシステムを作るとなれば、明確にしておかないといけない項目がたくさんある。少しでも曖昧なものを残しておくと、いざ実装して顧客にプロトタイプを見せた時に、「あれ、あれは言っておきませんでしたっけ?」ということになる。そこから作り直すと手戻りとなり、余計なコストがかさんでしまう。IT業界が未熟だったころは、要件定義にしろそこからの設計にしろ、詰めが甘かったのと実装能力不足、そしてコンピューターのパワー不足も重なり関係者は労働的な観点で大変な目にあったものだから、昨今の要件定義は本当に厳密である。

午後三時。まだ資料は三割ぐらいだったが、一時間過ぎてわかったことは、自分は知らないことだらけということだ。そりゃあ転職して入社したばかりだったし、インフラ担当だった私がアプリケーションについて知らないというのは当然と言えば当然なのだが、実際の要件を見ると何とこの会社の人は戦っているのか、よくわかった。

午後四時。いかんせん勉強にはなるのだが、自分の専門分野は来ない。ただ、急に非機能要件の話になったり、話を振られたりしたら怖いので、緊張していることもあり、とにかくヒアリングに徹した。

午後五時。多少の休憩が入りながら会議は続いていた。顧客も自社もヒートアップ。この仕様はこうだああだ。次の会議までには決めたい。調整しよう。結局、顧客が欲しかったのはアプリケーションだから、叶えたい願いも強い。大金が動くのだから失敗できない。ただし自社もなんでもかんでも要件を引き受けたら、当初の提案と乖離し、コストが膨らんでしまう。それは提案時の内容とは違いますのでコストが上がります。なるほどそれでは、差分は再見積してください。要件定義は技術的なことばかりではなく、その変化に伴うお金の話まで対応することが必要となる。だから営業担当も技術的な打ち合わせに同席しているのだ。

ただ、おかしい。非機能要件の話は全然出てこない。もしかしてこの会議、全く私は必要なかったのではないか。あと一時間あるけれど、どういう文脈となっても今日の話題とは接続しない。だからといって、別コーナーを作るにしたって資料の進み具合から見て今日は難しくないか。ということは、私は今日、要らなかった?!。

午後五時四十分。打ち合わせは今日はこれぐらいにしておきますか。残り、何か質問はありますか?。

勇気を振り絞って私は口を開いた。

「すいません、非機能要件の部分でお聞きしたいことがあるのですが・・。」

顧客は言った。

「はい、ただ、私はインフラの専門ではないので、貴社である程度お勧めの構成にしていただいて、最後に説明いただければ十分です。」

(ズコー)「承知しました。それでは会社に持ち帰り、プロジェクトマネージャーからご報告するようにします。」

結局、午後六時になり会議は収束した。

すっかり暗くなった都会の街を、貴社メンバーで一緒に駅まで向かった。

おもむろに、プロジェクトマネージャーに近づき私はこう伝えた。

「私、いらなかったですね。」

プロジェクトマネージャーは申し訳なさそうに、「すいませんね。そうですね。次からは気を付けます。」

営業担当も「本当ですね、次回からは必要に応じて同行いただくことにしますね。」と言ってくれた。

私の四時間、結局何だったんだろうか。名刺交換できたことが唯一の収穫か。また、アプリケーションの要件をゆっくり聞く機会などあまりないだろうし、貴重な機会としてポジティブに捉えた。

が、やっぱりこういう、何となく会議にメンバーを呼ぶ文化は失くすべきだと思う。会議の主催者が、どんな文脈で参集したほうがいいか、雑な仕切りをすると途端に、時間など簡単に溶ける。

ここまでは私の主観だが、どうも私は相当怒ってるように見られたらしく、二度とこの手の会議に呼ばれることはなくなった。四時間分のフラストレーションが透けて見えたのだろう。願ったりかなったりではあるが、なんとなく、こういった無駄に対する怒りはきちんと伝えないと、自分の時間を奪っていく輩からどんどんパワーを吸い取られていく。あの人は、雑に呼んだらダメだ。常に明確に伝えていく必要があるんだろうと思う。