orangeitems’s diary

40代ITエンジニアが毎日何か書くブログ

テレワークの問題点は安全配慮義務にあると考える理由

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会社が課せられている義務の一つに、「安全配慮義務」があります。

 

www.reloclub.jp

安全配慮義務は、企業が負う義務です。その義務とは、従業員が安全で健康に働けるように配慮することです。労働契約法の第5条に定められ、2008年3月に正式に施行されるようになりました。

使用者としての安全配慮義務を怠ったことで、労働者に損害が生じてしまった場合、安全配慮義務違反となります。過去には安全配慮義務違反によって、損害賠償が発生している判例もあります。

<安全配慮義務違反となる視点>

事業者が予見できた可能性があったかどうか(予見可能性)
事業者が回避できた可能性があったかどうか(結果回避性)

また、企業の安全や健康というと、工場や建設・工事現場などの危険作業や有害物質に対するものをイメージされる方も多いと思います。厚生労働省は、条文の文言にある「生命、身体などの安全」には、心(メンタル)の安全や健康も含まれると通達しています。

 

そう、安全配慮義務は法律が根拠なので絶対に会社が守らなければいけないのですが、メンタルヘルスや、日々の健康まで含まれているのです。

従業員が仕事をするときに、心や体の健康を乱すような要素を会社が放置していたら、法律違反になります。

職場の人間関係がこじれている、激務過ぎる、不公平・・等々は会社側が積極的に気づき、改善を促さなければいけません。

この改善活動について最も重要な役割を果たすのは現場の管理職でしょう。メンバーが病もうがどうしようが、俺には関係ない。結果を残すのが仕事で、それについていけないメンバーは自己責任だ。そういうリーダー像は大昔は存在しましたが今となっては化石で、立派な法律違反です。

どういうふうにすれば、メンバーの心身の健康を保てるか。これについての知見も日々溜まってきているので会社側が管理職には教育を施すのが当然です。知識無しに健康維持の取り組みはできません。

管理職は、メンバーの日々の様子を把握する必要があります。いつもの調子、がどんなもので、あれ?おかしいな?という違和感があれば積極的に対処する必要はあります。積極的と言えども治療する観点ではなく、何しろ違和感を共有するということ。異常の兆しがあれば、産業医など専門家へ橋渡しし早期対応しつつ、職場の調整を行っていくべきです。

健康に不調がある際、特にメンタルヘルスが起点となっている場合は、本人が無自覚であったり、深刻になるまで我慢していたり、もしくは人に相談するエネルギーすらなくなっていく場合もあります。周りが積極的に気が付き、管理職がサポートしていく。そんな職場づくりこそ、管理職の大事な仕事の一つになっています。

 

さて、そんな安全配慮義務なのですが、テレワークが基本となった場合は相当難しくなるという感覚があります。

テレワークがコロナ禍で急に流行したときに、管理職が空気だ、という話をよく聴きました。

 

gendai.ismedia.jp

 

business.nikkei.com

 

オフィスでうるさかった管理職が、テレワーク配下で存在感を失くし、いい気味だ。そんなやっかみも含まれていると、私は思っていました。

普段管理職は人に指示するばっかりで自分は手を動かさず、それでいて高い給与をもらっていて不公平だ、そんな心理があったでしょう。

しかし、前段の安全配慮義務から考えて、テレワーク配下であっても管理職は従業員の健康を積極的にサポートする立場となる必要があります。

そのノウハウがないまま、事前の教育もなされないまま、テレワークモードに突入してしまったのが現在である、と私は分析しています。

具体的に、安全配慮義務および管理職の観点から、問題例を挙げてみましょう。

 

・声かけ、雑談といったことが、リモートではやりにくい。雑談のための会議をセッティングしようものなら、「管理職が余計なことをする」と批判される。ビデオ会議での雑談は、やった人ならわかると思うが難しい。特に3人以上の会話は音声がバッティングし成立しにくい。

・「普段の様子」という非言語的な情報がビデオ会議では共有されない。常時ビデオ会議をつないだ状態で働く、のような監視を行うと、かえって従業員に過度のストレスを与えてしまう。

・従業員が孤立しやすい。もちろんビデオ会議をうまく使って同僚とコネクションを作れるタイプの人もいる。しかし、そんな器用な人ばかりではない。安全配慮義務は、苦手な人に対してこそ必要だ。しかし孤立していることや、孤立感を持っていることも共有しにくい。

・自宅の環境まで管理職がわからない。周辺の環境が劣悪である可能性はある。また、通勤がないので体を動かさない。自己管理で運動や食生活に気を付けられる従業員ならよいが、乱れる人もいる。特に、一人暮らしだと、物理的に24時間一人になってしまうので、より偏った環境に身を置いてしまう。

 

これらのように、テレワーク配下では、安全配慮義務を管理職が実行しようとしても、いろんな壁があるのです。オフィスでは普通にできていたサポートが、やりにくくなる。それを「従業員の自己管理に委ねる時代で、会社はサポートにまわればいい」なんて言う詭弁で企業側がごまかすのは、私は会社の安全配慮義務違反だ、と明確に思います。自己管理の失敗は、従業員側が悪いと言っているようなものです。

しかし、じゃあ、テレワーク配下ではどうすればいいの?、ということは、社会全体でノウハウも溜まっていないし、ビデオ会議の機能自体が追い付いていません。そもそも会議のためのものですから、就業期間中の空気の共有までは想定されていません。

 私個人のことを言えば、今週からオフィスに完全に戻ったのですが、やはりこういったデメリットに長期間目をつぶっているわけにはいかない、と思ったのがきっかけでした。

あと10年もすれば、テレワーク下での管理職の行動ももっと標準化されているに違いありません。今はまだ、混乱の状態です。

緊急避難的なテレワークは有りだとしても、大企業が表明しているような、テレワークがデフォルトだとするやり方は私はいずれ、大きなひずみを生み出すと予見しています。運動不足による生活習慣病や、孤立によるメンタルヘルスの悪化。こういった問題が社会問題化してしまったときには、すぐにどうにもできません。健康の問題ですから。

テレワークというと、得意な人が定着のために大きな声を出している印象があるのですが、一方でこういった問題が存在することは言っておきたい、と思います。推進している大企業は安全配慮義務に対して、果たしてどんな対策を打ち出しているのか、気になります。