orangeitems’s diary

クラウドで働くインフラエンジニアの日々の感想です(ほぼ毎日更新)。

労務管理上宙ぶらりんになりがちな客先常駐IT技術者と、コロナウイルス対策

f:id:orangeitems:20200215095922j:plain

 

他人事ではない件

大型のシステム構築プロジェクトなんて、確実に一社ではまかないきれません。元請の会社がいたとして、その業務全体を完遂させるために、いろいろな会社に声をかけてプロジェクトを形成します。今の時代リモートで完結・・なんて絶対にそうはならず、元請けのビルなどに人が集められ、就労することとなります。

昨日、NTTデータの拠点ビル内にコロナウイルス感染者が存在したとリリースがありました。

 

www.nttdata.com

2020年2月14日

株式会社NTTデータ

当社拠点ビルに勤務している協働者1名が新型コロナウイルスに感染していることを本日確認しました。

本件を受けて、社員の健康と事業継続を保てるよう本社対策本部を設置し、所管保健所と連携を図り対応を進めてきました。その結果、感染者の当社拠点ビルにおける行動履歴と、14名の濃厚接触者が保健所によって特定されております。

感染者が発生したビルに対しては、本日時点で以下の対応を取っております。

・当該ビルおよび周辺3拠点の関連部門に勤務する社員/協働者の在宅勤務指示

・当該ビル居室の消毒作業の実施

なお、感染者の当社拠点ビルにおける行動履歴ならびに、濃厚接触者の特定がされたことから、2月15日(土)以降については、濃厚接触者を除き在宅勤務指示を解除するとともに、濃厚接触者への14日間の在宅勤務指示を行うこととします。

以上

 

注目すべきは、「当社拠点ビルに勤務している協働者」という表現です。NTTデータの社員ではないということを示しています。

私自身も長いこと「協働者」たる経験があります。その中で問題だなと常々思いながら就労していましたのでそのことを書きます。

 

問題

自社ではない、お客様先のオフィスに通勤して仕事をする人のことを、客先常駐と業界内では表現しています。契約形態は派遣の場合もあれば請負の場合もあります。ただよく使われるのは準委任、もしくはSESという契約です。SESの場合、やっていることは派遣と同じ、ということはよくあるケースだと思います。SESの問題点も挙げればきりがないのですが今回はやめておきます。

さて、元請の立場で考えた時に、実際派遣契約は嫌われます。派遣契約は二重派遣を禁止しています。例えば10社くらいを使いたいとしたら、元請は10社とそれぞれ派遣契約を結ばなければいけません。それはものすごく面倒なことなので、できれば10社をまとめてくれるような下請Z社と契約したい。しかし、Z社が10社と派遣契約し、その集めた人を元請に派遣契約で送ることはできないのです。派遣契約の基本は直接契約です。

しかも、派遣契約は年々法改正にて運用が厳格になってきていて、ある程度契約期間が長くなると契約を切りにくくなったり自社の正社員に雇用しなければいけなくなります。プロジェクトは期間が決まっているので、派遣契約は使いにくいのです。しかも、同一労働同一賃金の縛りも始まり、金額も上昇しています。

また、金額の問題だけではなく、労働時間や健康管理も元請がやらなければいけません。派遣契約の場合、自社の正社員に対する義務と同じことが派遣社員にも適用されます。元請からすれば、自社の従業員はともかく、他社の技術者まで労働時間や健康を管理するのって面倒ですよね。

一方で、請負契約についてはさらに面倒で、請負の場合は仕事の範囲をきっちり決め、成果物が納品されてから初めてお金を支払う必要があります。もしプロジェクトが長期の場合、例えばお金の支払いは2年後ですとなったら下請けは厳しいでしょう。その間も技術者に給料を支払わなければいけません。また、成果物の定義も難しく、一緒にプロジェクトを始める上でどんなタスクが発生するかあいまいな中、仕事を切り出して請負契約はなかなか難しいところがあります。また、もし下請けにも完遂できない場合にお金を受け取れないリスクがあります。

ということで、派遣でもなく請負でもない、SES(準委任)に業界が向かうのは必然に思います。SESの場合、サービスを提供する、という形式のため毎月単位で精算できますし、成果物のしばりもありません。また、元請が下請の技術者の労務管理を行う必要もありません。もちろん「やっていることは派遣じゃないか」というツッコミを受けないためにいろいろな工夫をやるのですが・・。SESであれば、下請が集める技術者もSESで他社を集めることができ、いわゆる多重SESについては規制もありません。

ここまで書くとお分かりかと思いますが、IT業界にはSESがはびこっていて、その結果元請のビルにはいわゆるたくさんの協働者が常駐することとなります。

 

・・で、コロナウイルスのケースです。

元請が、従業員に施策をうったとします。例えばこのように。

 

www.asahi.com

ヤフーは14日、国内で新型肺炎の感染者の死亡が確認されたことを受け、国内の全従業員約6500人に対し、通勤ラッシュを避けて時差出勤するよう通知した。100人以上が集まる会議なども原則禁止する。

 

この全従業員について、客先常駐している他社の技術者はどうなるのか、ということです。SESと仮定した場合に元請は下請の会社と対応を話し合うことになります。上記のように全社的に、となった場合は話はしやすいのだと思いますが、結構グレーなケースもあります。正社員はテレワークができるように設備を与えられているけれども、下請けの技術者にはない。正社員は時差通勤するけれども、常駐技術者には指示が無いので通常勤務。大きい会社にありがちなのですが、客先常駐者の労務管理など視界にないので、ずさんな現場が存在するというのは日常茶飯事と言いきっておきます。

私も過去、ワークライフバランス、という言葉が流行した時に、常駐先の正社員ばかりが早く帰宅し、共働者たる客先常駐の社員が残って仕事をしている場面をよく見かけました。

一方で、このSESを使って客先常駐技術者抱えている会社にありがちなのは、労務管理が適当、ということです。管理職は自社オフィスに構えていますが、他の社員は他社のオフィスにいます。どうやって労務管理するのでしょう。何も見えません。しかも労働時間や労働環境も契約している会社次第、という状況ですからコントロールできません。一方で、SESを行った元請にも労務管理する義務はありません。宙ぶらりんとなりやすいのです。

また、こういった会社は、自社オフィスにて社員に机を与えていません。外に出払っているから不要と言えば不要ですが、私も長年その立場にいて、自社に自分の机もないのになぜこの会社の社員なのだろうとずっと疑問を抱いていたのを告白しておきます。

業界全体がSESによる複数社の共同戦線を常識化している前提で、客先常駐技術者が労務管理されない状況に置かれがちで、でもウイルスに正社員もSESもないんだよ、ということです。

 

宙ぶらりん

この問題は、フリーランスなどの個人事業主にも降りかかってくるものと思います。会社の総務は「はい、テレワーク~」と言えばいいかもしれませんが、プロジェクトは耐えられるのでしょうか。

テレワークではどうにもならない仕事はたくさんあります。そんなことはないと言う人は、自分とその周辺がリモートでできる種類の仕事で成り立っているからに過ぎません。

現場でしかできない仕事こそ、アウトソーシングされていることも多く、それを専門に従事している客先常駐タイプの技術者は、労務管理上宙ぶらりんとなりやすいことを指摘しておきたいと思います。