大量閉店はなぜ起こるのか
たくさん読まれた下記の記事を膨らませてみようとおもいます。
リアル店舗の大量閉店が起こっていることは事実なのですが、なぜこんなことになっているのでしょうか。私はリアル店舗が抱える大きな問題を感じていて、これをECサイトの対比で表現してみたいと思います。
リアル店舗とECサイトとの対比
スケールアウトしない
仮に商品やサービスが大ヒットしたとします。リアル店舗には人が押し寄せます。するとどうなるでしょう。店内は人であふれます。例えばセールの時期など。商品が見られないぐらい混雑します。
店舗面積が需要に対して広がることがありません。店が急に横に増えるわけではありません。
そうするとサービスレベルが下がります。せっかくバスったのにもったいない。私はあの人ごみが苦手です。
ECサイトの場合、需要に基づいてスケールアウトできます。セールやキャンペーンなどの時期に合わせてサーバー増強するのは普通の文化です。
スケールインしない
商品やサービスが思った以上の需要をつかんだとして、リアル店舗を増やすとします。しかし商品やサービスが永遠にヒットし続けることもなく、店舗が実は多すぎたとします。しかしなかなか店を増やすのも減らすのも大変なコストがかかります。不動産ですので改装費用しかり、原状回復費用しかり。そして店舗に張り付けたスタッフの処遇まで考えなければいけません。
セール時期だけ、土日だけ店舗を増やせればいいんでしょうが、そんなに簡単に店舗を作ることはできません。
ECサイトの場合、需要に基づいてスケールインします。遊休状態のサーバーは無駄なコストですから運用設計の時点でスケールインを組み入れます。
スケールアップには限界がある
いわゆる生産性向上の話です。1つのリアル店舗の性能を上げていく、という話です。店員を増やすことで客をさばくスピードは一定程度上げることが可能です。しかし、限界があります。カフェのレジに百人の店員がいたら動けなくなってしまいます。また、百人も用意できるのか、という人手不足の問題も最近は発生しています。
ECサイトの場合も同様ですが、ITの性能向上スピードは人間のそれと比べてすさまじく、CPUやメモリー、ストレージのスピードもどんどん向上しています。何らかの事情でスケールアウトできない場合でも、サーバーを増やさず性能を上げる、スケールアップによる対応ができます。
スケールダウンにも限界がある
店舗にてたくさんの従業員を雇ってしまった場合に、ピークが過ぎたので解雇します。ということを繰り返していると誰も来てくれなくなってしまいます。
シフト調整で四苦八苦しているリアル店舗は多いのではないでしょうか。
ECサイトならば、コンピュータの話ですのでそんな苦しい調整をする必要はありません。
在庫管理が大変
リアル店舗でお客様に直接商品を届ける場合、その商品を欠品させたら大きな機会損失につながります。リアル店舗の面積も限られているので、在庫切れを生じさせないというのは結構大変な技術です。品揃えを充実させればさせるほど在庫管理も大変となり、店舗数が増えると今度は流通網を整える必要が出てきます。
ECサイトではバックヤード(ピッキング・倉庫)と連携するため、豊富な品揃えを流通と高度に連動させることができます。
リアル店舗の商圏が小さい
リアル店舗に直接来られる人数は、その物理的な場所で限られてきます。
したがって、商圏を広げようとした場合に、各地にリアル店舗を置く必要がありますが、これまでのお話の通り、需要を読み間違えたときのリスクが大変大きいものがあります。
ECサイトであれば、全国をカバーできますから、商圏の問題をはじめからクリアしています。
なお「コンビニ」はこれらの問題に対して、フランチャイズの仕組みを利用しスケールアウトしつつ、24時間営業でECサイトよりも利便性があり、かつ巨大流通網を構築することで欠品を生じないという鉄壁のビジネスモデルを作ってきたのですが。ここにきて人材不足や現場の疲弊などでいきなり限界を迎えてしまいましたね。
新しいリアル店舗のかたち
これまでの、「店員・商品・客」の関係を大きく見直すB2Cビジネスはもう兆しがあります。
「ネット販売が成長し、リアル店舗は衰退する」といわれて久しい。そんな中、新たなリアル店舗の動きが生まれている。
マーケティング戦略コンサルタントであり、『売ってはいけない』の著者でもある永井孝尚氏によると、「ネットが当たり前になったおかげで、“リアル店舗2.0”とも呼ぶべき新たな潮流が生まれている。キーワードは『売らない店舗』だ」という。そこで、新しいリアル店舗のあるべき姿を語ってもらった。(本記事は、同書の一部を再編集したものです)
詳しくはこの本をお読みください。
売ってはいけない 売らなくても儲かる仕組みを科学する (PHP新書)
広告にお金をかけた大々的なプロモーション。小売店に卸した結果、中抜きが行われたり、安売り合戦に巻き込まれてしまうメーカーたち。季節ごとに新しいデザインの靴を投入し、次のシーズンにはまた新たなモデルが大量生産・消費されていくというビジネスモデル。
シューズ業界のこうした慣習に疑問を感じていた創業者の2人が立ち上げたのが、「オンラインでのみ販売」「季節ごとのモデル入れ替えはしない」「小売店には卸さない」というポリシーを掲げた靴のブランドだった。
これらの記事のように、リアル店舗は商品やサービスと消費者を近づけるツールであり、小売する場所ではないという考え方です。むしろ販売チャネルは簡単にスケールできるECサイトに近づけています。
もちろん、飲食などはこの形態は無理でしょう。しかし、牛角のサブスクリプションやケンタッキー・フライド・チキンの食べ放題のように、新しい試みも出てきています。
焼肉チェーン「牛角」を運営するレインズインターナショナルは1月7日、サブスクリプションサービス「焼肉食べ放題PASS(11,000円)」の新規販売を終了した。
牛角の「焼肉食べ放題PASS」は、首都圏3店舗(赤坂店・三軒茶屋店・花見川店)を対象として、“お店の月額定額サービスポータルメディア”「MONSTER PASS」(モンスターパス)で2019年11月29日から試験販売を開始。2020年に入ってから、SNSで話題化したことや各メディアで紹介されたことも影響し、「多くのお客様から反響をいただき予約で連日お席が埋まりご来店いただけない状態」になっていたという。すでに購入したPASSについては、翌月以降の更新を停止する一方、利用可能店舗を東京・神奈川・千葉・埼玉の計48店舗に拡大して対応する。
ケンタッキーフライドチキンによる食べ放題形式のレストランが関東に初進出し、11月13日のオープン以来、毎日整理券が1時間半~2時間ほどで無くなってしまうほどの人気を集めています。
旧来のB2Cの常識が大いに崩れていく一方で、リアル店舗の新しい可能性を構築し始めた流れができ始めています。
大量閉店の現象だけみて嘆くのではなく、消費者として、こういったイノベーティブな動きに注目し楽しんでいきたいと思います。