orangeitems’s diary

クラウドで働くインフラエンジニアの日々の感想です(ほぼ毎日更新)。

「属人化の排除」にだまされるな

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属人化は排除すべきか

よく企業サイドからは「属人化を排除したい」という声を聴きます。属人化とは、仕事が特定の人に依存することを言います。

属人化すると悪いことはかなりあります。私が見たのは、あるひとり情シスです。とにかく情報の整理が下手。フォルダを見るとカオス状態。しかも仕事に対する姿勢が斜めというか、依頼は嫌な顔をする。言葉遣いが悪い。そしていつも「忙しい忙しい」と言っている。

その人は多分に、地頭はいいんだけれどもとかく、効率が悪かったのです。裏に、一人で情シスをやらされる不満やら会社への不満やら、もしくはプライベートでの不遇やらいろいろあったのかもしれません。なにしろサービスレベルとしては低いものでした。

しかし、情シスの仕事は彼一人しか全体を把握していない。彼を避けるとできないこともかなりあったので、社員ははれ物を触るように対応していたのでした。よく意味のわからない地雷を踏まないように、慎重に、ていねいに。

もし、彼に、誰かに取って変わられるかもしれないという危機感や、会社から三行半を突き付けられるかもしれないという意識があれば変わったかもしれません。でも、人が一人変わるというのは結構大変なことだと思います。

彼はある日、自己都合で退職してしまいました。

その、放り出した情シス業務を実際に引き継いだのは私でした。とにかくゴミ整理。今でいうプロセスマイニング。何が仕事なのかを定義し、それに必要な情報だけを整理していきました。情報処理が破綻している人の仕事にありがちなのが、過去も現在も未来も同じフォルダに無造作に置いていく。一つ一つ見ていくと同じような用途のファイルが複数ある。どれかが今使っているもので、もう使っていないものがたくさん。どれが生きているのかは本人しかわからない。

私もしばらく途方には暮れつつ、とりあえず全部を一度アーカイブ(「過去情シス」フォルダに固める)して、全てを新しく作り直しました。過去のアーカイブから使えそうなものは流用する。そんなこんなで彼のカオス情シスワークフローは3カ月ほどで収拾させることができました。

あとは、情シスができそうな人材に再度仕事を引き継ぐことで、仕事の定義もできているしプロセスもそのための情報も整理できているので、属人化を排除することに成功しました。

・・と書くと、属人化は排除しなければいけないね、となるのですが一つ気を付けなければいけない点があります。

 

属人化の裏の意味

会社の視点から見れば、属人化の排除はメリットしかありません。社員を入れ替えても業務が継続できるのですから願ったりかなったりです。ただ、特定社員の側から見てみましょう。自分を取り替えても業務が廻るというのは楽しいことではありませんよね。保身的になると仕事にカオスをわざと取り入れます。自分の仕事を難読化して人にわからなくします。そうすると会社に対して仕事を人質にできます。私をぞんざいに扱うとこの仕事から得られる収益がフイになるぞ、と会社に対して意思を示すことができます。

最近AI関連のエキスパート人材が年収一千万や二千万という景気のいい話を聞きます。この人たちは雇った時点では彼らにAIスキルは属人化していると言えます。人の中に技術があるのですから。その人の中にある技術を使って、何らかの製品やサービスをリリースしたとします。その技術を社内で標準化して誰でも使えるようにする。属人化した技術をどんどん汎用化することで待っているのは何か。その年収二千万の人、もういらないよね、という終末です。

ですから、基本的に属人化解消に付き合うことは、その属している人の価値を最小化することにつながっているのではと思うときがあります。社員が「心理的安全性」を得るためには属人性がある程度必要なのではないか、と。

一方で、属人化だけで会社を作るといろんな弊害が生まれてきます。冒頭のように、へたくそな仕事で社内標準化されたらたまったものではありません。また、個人の能力以上にはイノベーションが生まれないので組織の良さも失われてしまいます。

このバランスを取るために、以下が必要なのかもしれません。

・社員に新しい能力を付けさせて、たえず「新しい」属人化を行なわせる。一方で「古い」属人化はどんどん汎用化させる。今の仕事にしがみつくな、新しい仕事をやれるように成長するという姿勢。

・冒頭のような、悪い属人化が発生したら人事異動を決行する。はじめはカオスになるかもしれないが、最終的には仕事が整理され、より良くなる。

ということで、属人化。排除すればいいってものじゃない、と言いたいです。

 

一見、属人化の排除っぽいがそうではないもの

よく、社内業務を切り出してアウトソーシングするということが語られます。そうするとアウトソーシング先は法人なので、安定して仕事が任せられます。

しかし問題なのは、アウトソーシング先での属人化です。昔見た現場に、ベンダーのSEが現場の社員以上に威張っていてその人なしには仕事が成り立たなくなっていた事例がありました。属「ベンダー」化です。これも、実際はその人が仕事を過大に見せかけていたり、難しく仕立て上げていた可能性があります。

ではAWSでクラウド化したことでベンダーを排除し、内製化に成功した例はどうでしょうか。これも実は「属AWS化」かもしれません。AWSでしか動かないシステムがどんどん作られていくことで、AWSの支配を受けてしまう恐れがあります。

このように、属人化の排除というのは角度を変えると違う側面が生まれます。

従業員サイドで考えると、単なる属人化の排除だけではWIN-WINではありません。じゃあそれを属人的でなくしたら、自分はどんな立場を与えられるんだい?教育を受けられるんだい?という、駆け引きが必要になるということを主張しておきたいと思います。

属人化の排除、という当たり障りのいい言葉に騙されてはいけません。自分にとっていいことじゃないのであれば、いいことになるように会社に掛け合うべきだと思います。