orangeitems’s diary

40代ITエンジニアが毎日何か書くブログ

IT業界 ユーザー企業の怒りを考える

 

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ユーザー企業の怒りはどこから来ているのだろう

IT業界に20数年いますから、「ベンダー、ユーザー企業の怒りが爆発寸前」と聞くと何だろうと考えてしまいます。心当たりを探ってみたいと思います。

 

tech.nikkeibp.co.jp

顧客満足度調査はIT製品とサービスを提供するベンダーへの評価をユーザー企業の意思決定者に聞く企画だ。24回目の今回は、14部門で首位が代わる波乱の結果となった。「アジャイル型」経営のベンダーが高評価を得た一方、硬直的で変化を嫌う「ウォーターフォール型」のベンダーに不満と怒りを爆発させるユーザーの姿も浮き彫りになった。ユーザーは品質、コスト、ニーズの3点で不満を強めている。事業構造や収益モデルを転換したベンダーだけが競争を勝ち抜ける。ユーザーの「怒り」を解き明かし、製品・サービス改革の方策を探る。

 

考察

本記事を(有料会員部分も含めて)全部読むとベンダーはダメだという気持ちにさせられるかもしれませんが、これはユーザー企業も悪いです。

この記事は属人化こそ諸悪の根源のように書いています。担当者が変わった途端にスキルが落ちた。担当者がつかまらないと案件が進まない。担当者が高齢化して今後不安だ、と。担当者が変わっても均一で継続的なサービスをしてほしい。というのがユーザー企業の言い分だと思います。

そもそも、なぜユーザー企業はベンダーにアウトソーシングをしたのでしょうか。それはユーザー企業のIT部分について属人化をしたくないからです。特定の社員にITを依存した場合その社員がいなくなったら誰もわからなくなる。ベンダーにアウトソースし長期契約すれば人材も含めて担保してくれるだろうという思惑です。ベンダーの高額の見積にも応えるユーザー企業の期待はこの一点です。

私が新人だったころは「若手」と呼ばれる人が掃いて捨てるほどおりました。いわゆる団塊ジュニアでありやたら同世代の人数がいたにもかかわらず就職難であり、未経験者からIT業界にたくさんなだれ込みました。低単価でたくさんの人数が確保でき、しかも労働条件が悪くて勝手に辞めていったとしても、また新しい人を雇えばいいので人材の確保に苦労しない時期でした。現在のIT業界でも話題となっている多重請負の仕組みはこの人材の流動性から生まれたのは間違いありません。

ユーザー企業は実は、この多重請負を含む人材確保システムにうまく乗っかって過ごしてきたのです。ベンダーは今までは協力会社とうまくつきあって人を確保することができました。しかし、ここに来てもはや旧来のIT業界のこのやり方は若手に見透かされるとともに、少子化で人数自体も減っています。もはやベンダー自体がこの仕組みの維持自体に悲鳴を挙げているのが現状であろうと思います。

当然、人材の流動化がなくなるわけですから、辞めてしまうと次の人が見つかりません。見つけたとしても案件とのフィット率が下がります。あと、本当におぞましいと思うのですがユーザーは若い人が大好きです。単価が低いけれども地頭が良くて素直で、勉強熱心なので長い期間頼りになる存在、と言うファンタジー設定が根強いです。そんな人はもはやなかなかいませんし、それこそ若手でも優秀ならば年収一千万の時代ですから、ユーザー企業は夢を見過ぎているのだと思います。夢ならば醒めよう。

結局はユーザー企業もベンダーも属人化から逃れることはできていないわけで、誰が悪い、怒り、なんて言っている時点で大きな視点から言えば責任転嫁しているだけに過ぎません。むしろ属人性を逃れたいならば、お金を二倍支払って一人のところを二人用意しなさいと言ったところです。いわゆる冗長化をするべき。冗長化するということはお金が倍かかるということです。シングル構成のお金しか支払ってないのに、いざシングルポイントでトラブルが起こるとベンダーに責任を押し付けるユーザー企業のいかに多いことか。ユーザーもベンダーも共犯関係だと思います。

また、アジャイルに関しても触れておきましょう。もしユーザー企業主導で物事を進めたいのであれば、まずはユーザー側に業務とITに精通した人材を登用しなければいけません。ユーザー企業側にそういった人材がいないのに、アジャイルを叫んでいるのは滑稽としか言いようがありません。仮にいないとすればベンダー側にそういった人材すらアウトソーシングすることになりますが、高額になります。ユーザー側の業務に深くコミットしつつ、そのデジタル化まで入り込むということは、もはやコンサルタントの領域です。しかもAIやデータサイエンスの分野までたどり着かなければいけない人材。

これまでの旧来の丸投げアウトソーシングの延長で、アジャイル提案なんて出てくるはずないではありませんか。

 

脱属人化の幻想は捨てよ

属人化しないSIなんてありえません。

人が介在せずシステムが運用されていくというのは幻想です。

ITを支える人間が活躍し、安定運用や新規案件が成り立ちます。

もしビジネスの継続をITの分野から考えるのであれば、優秀な人間をいかにユーザー企業と密接に結びつけておくかが重要です。結びつきを与えるのは、信頼関係です。それは高い金額を支払うだけではなく、コミュニケーションであったり、一緒に仕事をした間で生まれた絆であったり。とても人間系の話です。

もし本当にユーザー企業が必要な人材だと思い、かつそれがアウトソーシング先にいるとすれば二倍の給与を支払ってでも自社に引っ張ってくるべきでしょう。もしくは、アウトソーシング先が自社と長期に付き合ってくれるようにその担当者に高評価を与え、ベンダーの中で担当者が安定するように指示すべきでしょう。

もしくは採用活動をもっと熱心に行い、自社を自分のことのように考えてくれる優秀な人材を招き入れるべきでしょう。

どうもユーザー企業は、長い夢からまだ醒めていないように思います。ベンダー丸投げで何とかしてくれる時代は終了しました。むしろいつまでも「ユーザー企業に怒り」なんて言っているユーザーは、ベンダー企業の方から切られます。

属人化を前提に、これまでの商習慣を見直し、ぜひIT業界が適正化してほしいものだと強く思います。多重請負なんてそのうち滅ぶでしょうし、もう「ベンダーは若手を育てているのか」「SEやコンサルタントの質が年々下がっていると感じる」なんて言う話が出てきている時点で現在進行形だなと思います。