orangeitems’s diary

40代ITエンジニアが毎日何か書くブログ

年収1億円をもらう研究者はIT技術者ではない 基礎研究にもっと投資を

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日本のIT技術者のイメージとは程遠い好待遇

AIが登場すると人間がやらなければいけないことはどんどん減っていって、人間の価値が出しにくくなり、給与も上がりにくくなる。そんな悲観的な話もあると思うのですが、一方で、高い報酬の仕事も生まれ始めています。

 

tech.nikkeibp.co.jp

「10年後以降の将来を見据えた基礎研究に取り組んでいく。GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)のように企業を買収するのではなく、一流の研究者のネットワークを広げて連携し、世界で通用する研究所にしていく」――。NTT 代表取締役社長の澤田純氏は、「シリコンバレー」で2019年7月8日(現地時間)に開催した発表会でこう意気込んだ。この発表会は、シリコンバレーに設けた基礎研究所の開設を記念して開催したもの。まずは、量子コンピュータや暗号、生体の3分野の基礎研究に集中する。これまでNTTのシリコンバレー拠点では、クラウドやセキュリティーといった分野の研究開発に注力していた。

 

この好待遇の根拠はどこから来ているのでしょうか。 

 

基礎と応用

SI関連に携わっていると、既存の技術を組み合わせて、顧客の希望を叶えることが技術だと思っている側面があります。各種ベンダー資格なども結局はすでに実装された技術の集合体です。

日本にも私を含めてたくさんのIT技術者と呼ばれる職業の人はいらっしゃいますが、今話題になっているのは、既存の技術を使ってお客様のビジネスそのものを変えていく。つまりデジタル化、DX(デジタルトランスフォーメンション)の話です。

勘違いしてはいけないのは、一般のIT技術者は新しい技術を生み出しているわけではないということです。あくまでも既存技術の組み合わせです。アプリケーション、という言葉があります。これは日本語に訳すと「応用」という言葉になります。基礎技術を応用して仕事をしている人がほとんどという理解をしなければいけません。応用と応用を組み合わせる仕事ばかりです。

現在、1000万・3000万・1億円、なんて景気のいい年収が並ぶ仕事は、応用研究ではありません。基礎研究です。基礎の中でも「AI」「量子コンピュータ」「暗号」「生体」のような部分が今、価値があり集中投資されているということです。

だから、そもそも論として、日本のIT技術者の99%以上は基礎研究者ではないのですから、彼らの給与水準を自分たちと比べることそのものがナンセンスだということが言えると思います。

もし、基礎研究にてすさまじい結果をたたき出し、実装が完了しようものなら、たくさんのIT技術者が殺到して実装側に回るのです。いわゆる「くいぶち」を作ってくれているのが彼ら基礎研究者です。

IT業界以外を見渡せば、過去は日本も基礎研究で世界をリードしていると言われた時代もありました。しかし、現在はアメリカや中国を筆頭に基礎研究に大金をつぎ込む国家がその位置を奪い、日本のたくさんの研究者がこの状況を嘆いています。

今日の読売新聞の社説も同じことを言っています。

 

www.yomiuri.co.jp

基礎研究は、将来どう発展するのかを見極めにくい。日本人ノーベル賞受賞者の多くが「自分の研究が何の役に立つのか、最初はわからなかった」と語る。地味で息の長い基礎研究の価値を評価し、取り組みを支えるべきだ。

日本では、基礎研究という「種」から、商品や新薬などの「花」を咲かせるまでのリレーがうまくいっていない。

 

情報処理技術者試験でいうところの、基礎と応用という区分も、よくよく考えると良くないのかなとも思います。基礎研究の基礎は「ベーシック」ですが、これはBase、基盤のような意味です。どこかで「簡単」という意味に捉えられて誤解されているところがありますよね。

 

基礎研究が遅れる日本

日本にはITをひょうぼうする会社がたくさんあるので、まるで技術力に問題のないような雰囲気もあるのですが、結局のところアメリカからもたらされた「基礎研究の実装」を応用しているに過ぎないということを心に刻む必要があります。ですから、大手のSIerはこぞって北米へ研究所を設立しています。

 

www.jetro.go.jp

(答)カナダの企業や大学で人工知能(AI)・量子コンピューティングの分野の研究が精力的に行われており、また、同分野の優れた人材が豊富であるからだ。富士通としても、同分野を革新的コンピューティング技術の1つと捉えており、研究開発強化のためにカナダに拠点をつくることにした。また富士通の事業部門が、2018年にバンクーバーにAI拠点を設置したが、その際は、既に協業している企業の存在や、連邦政府やブリティッシュ・コロンビア州政府、研究機関の支援も設立に至った理由だ。

 

www.nikkei.com

NECは20日、米国シリコンバレーに新事業の創出を支援する新会社を設立すると発表した。米国のスタートアップ企業と自社の持つ人工知能(AI)などの技術を掛け合わせ、新しいサービスを生み出す。ベンチャーキャピタルからの投資を呼び込む狙いもある。世界中の先端技術やIT(情報技術)人材、投資マネーが集まるシリコンバレーで迅速な事業化につなげる狙いだ。

 

IT業界にいると、ベンダーが発表したアプリケーションを仕入れ、設計し実装し、運用し保守するのがライフサイクルだと思いがちですが、これを生み出す源流のような部分にできるだけ多くの日本人が近づき、何かを生み出していく仕組みを日本国内で生み出していかなければいけない。

我々は「基礎」のイメージを変えなければいけない。そう思います。