orangeitems’s diary

40代ITエンジニアが毎日何か書くブログ

香港とパブリッククラウドの深い関係 米中貿易戦争から派生するカントリーリスクを憂う

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香港とパブリッククラウドの深い関係

香港の政情不安を報じるニュースについて注目しています。

というのは、パブリッククラウドにおいて香港とは要の場所だからです。

英語記事ですが詳しい情報がありますので紹介しておきます。

 

www.datacenterknowledge.com

中国本土で世界最大かつ最も急成長しているインターネット市場のシェアを獲得することを切望しているアメリカのクラウドプロバイダ、および自国の外でより意味のあるプレゼンスを拡大しようとする中国のハイパースケールプラットフォームが香港のデータセンター市場でブームを引き起こしています。

 

つまり、中国市場を取り込みたかったアメリカのパブリッククラウド勢と、国内と中国外を接続したい中国勢がゲートウェイとして香港を利用することがブームとなっていた、ということです。

ここ最近の米中貿易戦争でウソのような話ですが、わたしはパブリッククラウドが主業なので肌で感じていました。

 

要約

上記記事について、情報を整理してみます。

・香港でのデータセンターにおけるクラウドの電力利用量は、2017年では43.4MWだったのが、61.7MWに増加した。42%の増加率となる。

・中国企業は、グローバル進出の出発点として香港を利用する傾向にある。

・グローバル企業は、香港を中国国内の物理インフラの代わりとして利用している。

・4~5年後に香港内で土地不足が起こる懸念がある。

・2019年から2022年の間に、5つの新しいデータセンターがオンラインになり、さらに160MWの容量が提供される予定となっている。

・データセンター市場は2018年は8億8300万ドルの市場だが、2023年には17億ドルに成長する見込みとなっている。

・成長を後押ししているのは、Amazon Web Services、Google Cloud Platform、Microsoft Azure、Alibaba Cloud、Tencent Cloudなどのハイパースケールクラウドプラットフォームである。現在市場の23%を占めている。

・現在は、ネットワーク・ITサービスプロバイダが全体の30%を占めていて最も利用している。

・ネットワーク・ITサービスプロバイダも、ハイパースケールクラウドプラットフォーマーも両方伸びている。年間15%の成長を遂げている。

・すべてのハイパースケールクラウドプラットフォーマーは、データセンターをリースしている。これは土地不足のためである。

 

また、フェイスブックが香港とロサンジェルスの間に海底ケーブルを引いたり・・。

www.datacenterknowledge.com

 

中国のテンセントが香港にデータセンターを建てたり・・。

www.datacenterknowledge.com

 

香港は見事に世界と中国とのゲートウェイとしての存在となっていることをご理解ください。

 

懸念点は一つ

中国と香港の関係にて、パブリッククラウドの観点から言うと懸念点は一つです。

金盾(グレートファイアウォール)の存在です。

 

lb-hikaku.com

 

詳しい内容は上記記事に任せるとして、香港は特別行政区という扱いであり、金盾の外にあることが特徴でした。下記はマイクロソフトの記事です。

 

blogs.technet.microsoft.com

1997 年にイギリスから中国に返還された後は法制度も中国になっているのではないかと誤解している方もいらっしゃいますが、香港は特別行政区であり、基本法に示された「一国二制度」の原則に基づき、中国本土とは異なる行政、法、経済制度で運用されています。中国では、たとえば「金盾」によるファイアーウォール機能 (Great Fire Wall of China)により、中国国内のインターネット上に出回っているありとあらゆる情報を検閲する可能性がありますが、香港は適用対象外となっています。

 

アメリカと中国が蜜月関係(Win - Win)である間はこの香港と言う場所は非常にうまく機能していたわけです。しかし、この二国間がno deal、つまり取引しないとなったとすれば中国側としては香港の支配力を強めることが理にかなっているということになります。昨今の香港の混乱と、米中貿易戦争に関連があると考えた方が自然だと思います。

 

もし仮に、金盾の中に香港が置かれることになったとしたら、意外と日本にも影響が出るのではないかと懸念しています。日本のパブリッククラウドを利用したときに、災害対策として海外にバックアップを持つ設計はごくごく自然なのですが、香港は選ばれやすいと思います。ネットワークのレイテンシーが海外であるにもかかわらず良好だからです。上記記事でも、

 

シンガポールと香港は、どちらも小さな国及び行政区ですが、どちらも政府による積極的な誘致策、および自然環境や地理的な要因により、近年アジア向けのサービス提供におけるデータセンター拠点として投資が集中しつつあります。これは海外の大手クラウドベンダー企業の動向に限ったことではなく、富士通や NTT などの日本の大手 IT ベンダーや、ソニー、ヤマハ発動機、日本通運などのユーザー企業も、データセンターの拠点としてこの 2 箇所を選択しています。

 

とあり、日本企業も積極的に利用していることがわかります。

ある日急にインターネット側から接続できなくなったり、通信が途中で切れたりと、いろんなことが起きるようになります。金盾の中では結構そんなトラブルがあると聞きます。

杞憂となることを祈りますが、もし香港に何らかの設計を組み込んでいる場合は、カントリーリスクを考えるべき時期に来ていると思います。じゃあ香港じゃなきゃどこなの、と言う場合にシンガポールまで語りださないといけないところが日本の地理的な弱点ですね。シンガポールは香港ほどネットワークのレイテンシーが早くありません。アメリカほどではないにしろ。ソウルという手もありますが、日韓関係もねえ・・。

大阪が今、東京のバックアップサイトとして脚光を浴び元気になってきているのはこの辺りの事情もあるんですかねえ・・。