カネカの「育休復帰、即転勤」問題
先週末に騒ぎとなったカネカの「育休復帰、即転勤」問題はこのブログでは触れませんでしたが、結局のところ、正社員の転勤問題というのは繊細な問題だなと思いました。
「夫が育休から復帰後2日で、関西への転勤辞令が出た。引っ越したばかりで子どもは来月入園。何もかもありえない。不当すぎるーー」。妻の痛切な叫びが、SNSで炎上し議論を呼んでいる。発言の主である夫婦が日経ビジネスの単独取材に応じた。要点を整理するとともに、夫婦側と企業側の主張を掲載する。
特に転勤が当たり前にあるのが大企業の特徴で、その分中小企業と比べると給与水準が高いと思います。負担や責任と、給与がリンクしていることを考えると当然なのかなと思います。
さて、今日の日経にて、政府の規制改革推進会議の答申案が明らかになりました。
政府の規制改革推進会議の答申案が5日、明らかになった。
この答申案の中に「ジョブ型正社員」というキーワードがあって、これがじつは今回の件とものすごくリンクしている話なのです。
この「ジョブ型正社員」をなぜ導入したいかを説明している、規制改革推進会議内の意見が結構鋭いことを言っていて、こちらをご説明したいと思います。
情報ソース
内閣府のサイトに公開されています。
ジョブ型正社員(勤務地限定正社員、職務限定正社員等)の雇用ルールの明確化に関する意見(令和元年5月20日)(PDF形式:441KB)
意見をわかりやすくまとめる
直接上記のPDFファイルを読んでいただいてもよいのですが、自分の言葉で要約してみたいと思います。
(目的)
・日本においては、会社と労働者が働くときに、明確に労働条件を合意しないで、あいまいなまま働くことが多い。
・労働者はいろいろな働き方(転勤したくない、残業できない、リモートワークしたいなど)を希望しているにもかかわらず、合意がないので紛争が起こりがちになっている。
・労働者はいろいろな働き方が望んでいるので、労働条件を明確に合意することが必要となる。
(現状)
・正社員は、会社の指示は何でも受け入れることが当然という風潮が、今も強い。
・しかし、その風潮に法的根拠はない。
・無制限に従うということを労働者が受け入れたという証もない。
・労働者がこれを見直したいと思っても、もともと何かに基づいて従っているわけでもないので、見直すものがない。
・労働者は多様化している。いろいろな希望があるのに会社がこれを聞かず、旧来の「会社の指示を何でも従う正社員」という価値観で人材を募集しても、優秀な人材が集まらなかったり、正社員がモチベーションを下げる原因となっている。
・労働者だけではなく、企業も、見直しを求めている。
・(原文のまま転載)共働き世帯にとって配偶者の希望しない転勤は、夫婦どちらかのキャリアの中断を引き起こし、夫婦揃っての育児ができなくなるなど家庭生活の維持も困難となる。
(問題点)
・「勤務地限定正社員」、「職務限定正社員」自体は、いろいろな企業で導入がすでに行われている。しかし、実際は書面を交わすだけで、労働契約や就業規則に明示されていないケースが多い。法律上もできる限り書面で確認するとしか記載がないので、あいまいな制度となっている。
・長期に同じ会社で働くときに、その人の役割や職場も変わってくことが自然で、入社時にこれが完全に固定してしまい変更できないというのは、形式的過ぎて実情に合っていない。結局はあいまいな運用がされてしまうので、後々の紛争の原因となってしまう。
・派遣社員が5年同じ場所で勤務すると無期契約に転換できる仕組みを導入したが、これが進んでいない。原因の一つに、正社員になってしまうと「会社の指示を何でも受け入れる」風潮に従うこととなり、安易に転勤や残業を支持されてしまうのではないかという懸念がある。
(改革の方向性)
・労働条件について書面で明確化するように法律を改正する。
・無期転換ができることを企業側が労働者に通知することを義務化する。転換しやすいように制度も含めて見直す。調査を行い効果検証をする。
感想
正社員は厚遇されている分、会社の言いなりだとばかり思っていたんですが、政府の資料に法的根拠がないなんて刺激的な表現があるんですね。
ダメ押しとして、その部分をそのまま転載します。
▪ 就社型(メンバーシップ型)雇用モデルが高度成長をもたらしたという 強い成功体験から、正社員であれば企業の命令により、職務、勤務地、 労働時間等の労働条件が変更されるなど、無限定な働き方を許容するの が当然という意識がいまだに強い。
▪ 職務や勤務地等が無限定な働き方は我が国の雇用慣行に過ぎず、何らか の法規制に基づいているわけではない。実務的に契約意識の低い日本に おいて労働契約の締結も漠然としており、当事者はいつ、どのような内 容の労働契約がどのようにして締結されたのかを明確に意識していない9。 環境変化によって労使それぞれの事情が変わった場合、慣行であるが故 に、個別に労働条件の確認や見直しをしようとしても拠り所がない。
これを具現化したのが、冒頭のカネカの件だったという・・。
むしろ、経営者も労働者もみんな困っていて、どうにかしなきゃねということで、政府も同時に動いているということだったのです。
ジョブ型正社員だけが意識に上がりがちですが、この文章をよく読むと、そもそも日本人って、何を契約したかもわからず、何でも従っちゃうという風潮があり、それ自体がいろいろな弊害を引き起こしているということではないでしょうか。
ブラック企業もサービス残業も休日出勤も、転勤命令も異動指示も、結局、入社してから就労規則を知らされ、実は自分はそれをいつの間にか受け入れていたということなんですね。だから日本の就職って、「会社ガチャ」「職場ガチャ」って言われてしまうんです。何を契約したか、契約してから知らされるという。
・・って、政府が言っているぐらいだからそういうことなんだと思うのです。
規制改革推進によって、ぜひ、経営者も労働者も、どんな契約関係にあるか明確に認識できる仕組みづくりを進めてほしいですね。
追記
続報です。
元社員の転勤及び退職に関して、当社の対応は適切であったと考えます。当社は、今後とも、従前と変わらず、会社の要請と社員の事情を考慮して社員のワークライフバランスを実現して参ります。
今回の対応が正しいと強調すれば強調するほど、規制改革推進会議の意見の通り、労働者として会社と何を契約しているのかあいまいな日本の事情が透けてきますね。
意思疎通があってもなくても、契約の通り、ということであれば誤解は生じようがありませんから。