輸入されたワインの中身を検査する作業を自動でやってくれる機械
「輸入ワイン中味自動検査機」という何だか身も蓋もない機械のネーミングは、もしかしたら藤子不二雄F的なドラえもん的な世界に現実が踏み込んでしまった前兆なのかもしれません。
アサヒビール株式会社は17日、日本電気株式会社(以下、NEC)と共同で画像処理技術を活用した「輸入ワイン中味自動検査機」を開発したと発表した。現在、人が目視で実施している輸入ワインの検品作業の品質水準を維持した上で、さらに「自動検査機」を導入して効率化することで、最適な品質管理体制を目指すとしている。
最近のNECはなかなかキレのある仕事をするなあと思います。
顔認証の件といい、画像処理のソリューションはかなりの可能性を持っていますね。
画期的なこと
このニュース、技術的なことはさておき、これが成し遂げる労働者への影響に驚きを隠せません。
現在は、検査作業員が目視による検品を実施しており、瓶を光に透かしてラベルの隙間から液体に微細な異物が混入していないか確認する作業のため、経験と熟練した技術が必要で、輸入ワイン販売数量を検品作業するために1ラインあたり10人程度の作業員が必要となっているという。
ということで、一つの運用を行うために10名程度の作業員が必要で、かつ経験と熟練した技術が必要とあります。
こうした状況に対して、自動検査機を導入することで、検品作業の効率化を図ると同時に、今後見込まれる労働力不足に対応すると説明。初心者でも対応できるため労働力が確保しやすくなり、今後の輸入数量増加に対応できる柔軟な勤務体系とすることも可能になるとともに、作業員の成熟度の違いによる差がないため、検査品質の均一化が図れるとしている。
という記載があり、ということは作業員のスキルが不要。初心者でも作業を行うことができ、しかも検査品質が高いレベルで一定化するとのことです。
職人芸ともいえる経験や技術が、このようにITの力で機械化され、それにともない少ないもしくは安価な労働力で賄えるようになる。RPAの事例だけではなく、このようにITと関係のない分野でデジタルの力を使って劇的な生産性向上を測るのがデジタルトランスフォーメーションのあるべき形であると思います。
熟練工のIT化は避けられそうにない
この例然り、終身雇用制度の崩壊と結びついてくる話です。同じ仕事をずっと続けることで、経験と熟練した技術が備わり、これが生産性に結びついていくという神話が終身雇用なり年功序列を生み出してきました。
ある日、機械がやってきて、あなたの仕事は全部これがやってくれるよ。
そんな分野が日に日に増していくのが、世界で起こっている情報革命の破壊力だと思います。インターネットだ、スマホだ、SNSだ、だけではなく実はいろんな仕事にこの情報技術の力が及ぶ分野が広がっています。
外国からそのような技術を持った企業が突然日本に訪れ、既存の市場を破壊していく。いわゆるデジタル・ディスラプションの世界。
スマートフォンに代表されるモバイル端末の普及や、ビッグデータの解析技術の発達などによって的確にユーザーニーズを捉え、「デジタル」に置き換えられたソリューションを提供することで既存の産業をディスラプト(破壊)する。そんなデジタル・ディスラプター(創造的破壊者)たちが急成長を遂げている。
この「輸入ワイン中味自動検査機」を、日本の古参SIerであるNECと、日本企業アサヒビールが共同開発しているところから、このデジタル・ディスラプションを外資ではなく内資が手掛けるようになったということを、意義のあることと思いました。
一方で、内資自らこのデジタル化に積極的に取り組むということは、これまでの終身雇用や年功序列の文化は全くかみ合わないことになります。企業は、新しい仕組みに対応できる柔軟性を持ち、デジタルに対し拒否感の無い人材を求めることとなります。
自分はデジタルとは無縁の仕事だし、今の仕事は未来永劫続いていく。そんな認識をしている熟練工に、デジタルの矢が降りかかることは避けられないのではないかな、と思ったこの輸入ワイン中味自動検査機のニュースでした。
ドラえもんの道具が笑えない時代がやってきているのかもしれませんね。