orangeitems’s diary

40代ITエンジニアが毎日何か書くブログ

追加関税がIT業界に与える影響

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追加関税の悪夢

本日発表された追加関税。こちらはIT業界にとってインパクトがある話であることをご存知でしょうか。

 

www.jiji.com

トランプ米政権は13日、中国からの輸入品ほぼすべてに制裁関税を拡大する「第4弾」の詳細案を公表した。現在対象から外れている3000億ドル(約33兆円)分の製品3805品目に最大25%の関税を上乗せする。発動の可否の判断は6月末にも下される見通しだが、スマートフォンなど新たに多くの生活必需品が標的となり、米国の消費者にも大きな影響が及びそうだ。

  

一方で、中国もアメリカからの輸入品に対して関税をかけると言っています。

 

www.afpbb.com

米政府が中国からのほぼすべての輸入品に関税を課す方針を発表したことを受け、中国政府は13日、米国からの輸入品600億ドル(約6兆5000億円)相当に対し、来月1日から関税を課すと発表した。

 中国国務院関税税則委員会(Tariff Policy Commission of the State Council)の発表によると、同国政府は米製品に対し、5%から25%の範囲で関税を課す方針。

 

関税対象品目に、サーバーやネットワーク機器が含まれることが確実な時点で、IT業界に影響が及ぶのはもはや必然です。

 

 

関税について事前知識

この関税という制度、正しく定義をご存知ですか?。

関税はどこでかかり誰に支払うでしょうか。

答えは、輸入して自国に持ち込むときに、「税関」に支払うのです。したがって、アメリカの25%の関税は、中国のものをアメリカに持ち込むときにその全体の価格の25%を関税として納めるのです。

したがって、アメリカ企業であっても、中国で作ったものをアメリカ以外に移動するときにはアメリカの関税はかかりません。中国の工場で製品を作りヨーロッパに持ち込んだとするとアメリカではなくヨーロッパの関税がかかるということです。

逆に、アメリカからの輸入品に中国が関税をかける、と言う場合は中国にアメリカ製品が持ち込まれたときに、中国の税関に関税を支払うのです。

関税うんぬんのニュースを読むときは以上の知識があれば、だいたいの影響がつかめてきます。IT業界で考えてみましょう。

 

アメリカ企業のコメントから影響を測る

今回の追加関税について、アメリカ企業からコメントが届いています。

 

jp.reuters.com

●デル・テクノロジーズDVMT.N
提案された追加関税は米国事業において重要な部品のコストを押し上げると指摘。デスクトップ/サーバー、コンピューター部品、ネットワークスイッチに対する関税は同社の経営と雇用に「深刻な打撃」をもたらすと付け加えた。

●インテル(INTC.O)
追加関税は米国事業にマイナスの影響を及ぼすほか、第5世代(5G)ネットワークなどの次世代技術を含めた通信インフラの「進展を阻む」と指摘した。
デスクトップ・コンピューターやラップトップ、サーバーなどのICT製品を生産している米ハイテク企業のコストを増やすとも予想した。

 

デルとインテルのコメントで、概ねわかります。

「米国事業において」と言っていますので、中国で生産した製品を米国以外で売る場合は影響を受けない、ということです。

ただ、アメリカ製品を中国に一旦輸入し、これを中国で組み立てて売る場合は注意が必要です。対抗措置としてアメリカ製品に関税が中国に輸入されるときにかかります。ということは、中国から日本等へ輸入される最終品の一部に中国の関税が含まれることになります。

中長期で言えば、アメリカに輸入するサーバーやネットワーク機器は、中国では作ったり組み立てない方がいいに決まっています。そうすれば、工場が中国から別の場所にある程度移転することになるでしょう。その時に中国の経済が耐えられなければ、生産効率に深刻な影響を与えかねません。過剰設備に陥り、これまでのような低価格で高品質な生産活動ができなくなる可能性も十分にあります。

その後新しい生産活動拠点が外にできる可能性もありつつ、しばらくは生産が不安定になる危険性があります。そうすると価格は上昇しつつ品質は低下するという恐れもあります。

 

短期的予想

日本としては、まず中国で生産されるアメリカ企業のサーバーやネットワーク機器を日本で購入して利用したとしても、アメリカを経由しなければ関税の影響を受けないことを知るべきです。したがって、直接的にすぐ影響を受けるわけではないと思います。

ただし、アメリカ製品を中国に輸入し加工している場合はコスト増に跳ね返ります。このあたりは製品によるので様子を見る必要があります。

しかし、結局はアメリカ企業のコスト増につながります。アメリカでのコスト増の影響をグローバルに薄く広く乗せていく可能性はあります。

このように、「徐々に影響が出ていく」という見方でよいのではないでしょうか。

 

クラウドサービスは?

アメリカ国内のインフラ上で動いているSaaSを利用している場合は、間違いなくインフラのコストが上がります。今やサーバーもネットワーク機器も大量に中国で生産されています。これらをアメリカに輸入するときに関税がかかるわけですから、アメリカ国内のインフラ費用は確実に上昇します。それらの費用は、クラウドサービス利用者が負担することになります。

また、AWSのようなグローバルなサービスの場合、アメリカのリージョンだけが直接の影響を受けます。しかし、この上昇分をアメリカのリージョン利用者だけに乗せるとは少し考えずらいのです。グローバルに薄く関税分を乗せて採算を図っていくのではないかな・・という予想をしています。

リージョンによって価格差があるのは現在もそうなのですが、25%もの差をリージョンによってつけるとは思えず。

 

まとめ

このように、関税とはあくまで、二国間の話であることをまず知っておくべきです。

しかし、間接的にアメリカ企業による日本へのサービス価格は影響を受けざるを得ません。

短期的には何らかの形で上乗せされます。上乗せされる価格は作り方によってさまざまでしょう。

長期的には、当のアメリカ企業がどう考えているのかにつきます。中国から本当に他国に移転するのであれば、その他国の供給力がこれまでの品質を保てるのかどうか、コストは膨らまないのか。また、いや、中国からは動かないと決めるのであればその関税分の負担をどのように長期的に日本の利用者に負担させるのか。

どちらにしろ、IT企業は、サーバーリソースの入手コストが上昇するしかないということを頭に入れておく必要があるでしょう。

複雑なサプライチェーンの中でどのように日本が振る舞うべきかはまだまだアメリカや中国待ちではありますが、IT業界の我々もかたずを飲んで今後のアメリカと中国の交渉の行方を見守る必要があります。