とんでもない議論
副業促進を切り口にとんでもないことが政府で議論されています。
要注意です。
柔軟な働き方の実現に向けて副業や兼業を推進するため、政府の規制改革推進会議は、複数の職場で働く人の労働時間を合計して管理するのではなく、それぞれの職場ごとに管理できるよう、制度の見直しを検討することになりました。
副業や兼業の推進に向け規制改革推進会議の検討部会がまとめた報告書では、「労働時間の厳密な管理が副業や兼業を妨げている」と指摘しています。
3つのポイント
すぐに批判をしたいのですが、まず深呼吸をしたうえで、この情報の原本を読み込むとします。
政府の規制改革推進会議、5月10日付の資料が以下にアップロードされています。
資料3-1
働き方の多様化に資するルール整備について(タスクフォース八代主査提出資料)(PDF形式:338KB)
資料3-2
ここに書いてあること(資料3-1)をまとめます。
1.副業・兼業の促進
労働時間の把握・通算を行う趣旨・目的を再定義し、以下の対応 を行うべきではないか。
① 上記の解釈の根拠となる1948年の通達を改定し、労働時間の通算規定は 同一事業主の範囲内でのみで適用し、自己の自由な選択に基づき働く労働者を雇用する、他の事業主には適用しないこと
② 主たる事業主は健康確保のための労働時間把握に努めるものとすること
今の法律では、主業と副業を合計した労働時間で労働者は管理すべきとなっているんですって。そして、副業側の事業主が割増賃金を支払うべきとされているそうです。
まあ副業側の事業主が割増賃金を払うのは「なんで?」となりますよね。法定労働時間を超えたり、深夜・休日勤務に割増をすることになっています。でも副業側で1時間働いても、副業側の事業主で割り増せというのはそれは副業流行らないよね・・と。
ただ、これ、副業での長時間労働防止としてはアリなんですよね。
この話を通してしまうと、例えば主業側で月160時間働いて、副業側でも月160時間働いても問題ないということになっちゃうわけですね。
しかも、この文章。
我が国においては、割増賃金制度が長時間労働を抑制するものとして機能してきたとしても、少なくとも労働者が自ら選択する副業・兼業の場合 には、割増賃金制度適用のために、異なる事業主間で労働時間を通算するという 解釈は見直すことが適当ではないか。
色まで変えちゃいましたが、自分で選んだんだから過重労働じゃないよね?ないよね?ってどういうことなんだろうと。
また、過重労働の対策が、
② 主たる事業主は健康確保のための労働時間把握に努めるものとすること
になっているところがあり得ない。主業側の会社から「ねえねえ、副業での仕事の時間が多いよ」って指摘したらどうなるというんでしょうか。副業側の会社に交渉してくれるとでも?
労働者が自ら選択したことを盾にして、ブラック副業というキーワードがきっと登場してくるでしょう。また、同じ仕事を事業者間で分割して、本当は一人が16時間働いているのに、一人に対して8時間ずつ別々の事業者から雇われるということも可能になりそうです。こわい。
2.テレワークの促進
(テレワークは、)
①所定労働時間の範囲内とすること、
②月又は週単位の上限時間や回数等の一定の制限を設定すること、
③インターバル規制の適用等を条件とすること、
などの条件のもとで、深夜労働への割増賃金の規制を適用除外とすべきではないか。
テレワークを行う際に、深夜に働くと深夜労働への割増賃金(時間外 AND/OR 法廷休日+深夜で50%以上)がかかるというのはテレワークを阻害しているんですって。
テレワークが割増賃金無しで深夜/時間外にできるなら、流行るよね、ってそりゃ流行りますよ。経営者側にとって都合よすぎですよこれ。
家から時間外で仕事させることに、抵抗なくなりますもん。
労働者の健康管理は何より優先される課題ではあるが、例えば家族の介護を行っている場合に、夜10時以降の時間に働いて日中の休める時間帯に休養をとるという選択が、逆に健康管理に資する場合もある。しかし、割増賃金が発生するとなると、企業はこのような選択を制限し、労働者も深夜労働を断念せざるを得なくなる。
家族の介護を日中やって、深夜時間帯に働いて深夜割増無し。それを労働者自ら選んだからって問題なしとすると読めますね。
本気ですかね。地獄か。
3.副業としての短期派遣
もっともひどいと思ったのがこの話。大事なことなのでこの部分は全部引用します。
30日以内の短期派遣(いわゆる日雇派遣)は、インターネットカフェ等に寝 泊まりしながら、不安定な雇用形態で就業する者の存在が指摘されたこと等を発端として、2012年から原則禁止とされている。副業の場合の短期派遣は例外 措置として認められているが、主たる業務における年収が500万円以上の者に限られる。
副業・兼業が認められ、政府の方針として副業の推進が挙げられている現在、短期派遣の形態で副業を行うことについて、現行規制を見直し、より広く 認められてしかるべきである。労働者が本業の勤務時間外に、その専門的能力 を生かして副業を行う場合、複数の派遣事業者に登録しておき、最も都合の良 い場所や時間を選択できる短期派遣は、極めて利便性が高い。また、企業にと っても、イベント等に関して急に生じた臨時的・一時的な雇用ニーズを満たす ことができる。
しかし、年収500万円以上の者という条件を付した現行規制のもとでは、派遣形態での副業を選択できる労働者は限られる。特に低所得の若い世代にとっては、事実上派遣による副業は閉ざされているに等しい。副業が広く認めら れ、政府も副業を推進するなかで、派遣形態による副業にのみ、年収500万円以上という高いハードルが課されていることは極めて不合理である。労働者が ニーズに応じて、雇用型、派遣型、自営型の副業を柔軟に選べるよう、副業の 場合の短期派遣の規制を緩和すべきである。
このため短期派遣に関して、労働者保護に留意しつつ、副業の雇用機会を広げるために、「副業として行う場合」の年収要件を見直すべきではないか。
日雇派遣は、ワーキングプアの温床となるために2012年から原則禁止となりました(主たる業務が500万円以上の場合のみ認められる)。
これをね、低所得の若い世代に、日雇い派遣を副業の機会と捉えて開放しようと言っているんですよ。
こんなの、主業をフェイクにして日雇い派遣を復活しようと言っているようなものではありませんか。
日雇い派遣が復活すると、得をするのは誰・・・?
業務委託・フリーランスのような副業の形態が、派遣あっせん会社に流れるだけのような気がします。
もっと働け日本人?
働き方改革の目的って何でしたっけ・・?
厚生労働省のページから。
「働き方改革」は、この課題の解決のため、働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。
多様な働き方って、過重労働ではないですよね。
本人が望めば長時間労働できる働き方なんでしょうか。
日中に介護を行って、深夜のテレワークで稼ぐ世の中なのでしょうか。
収入の低い若い世代が、日雇い派遣を副業として行う世の中なのでしょうか。
どこに上記に、「良い将来の展望」を持てる要素があるというのでしょう。
今回の件、驚くばかりです。まずは広くシェアされることを望みます。この通り進むのはおかしな話です。