終身雇用は崩壊の途上にある
大企業が45歳リストラを急いでいる件は広く世間に知れ渡ることになりましたが、これは人件費抑制の観点から言って片輪の話です。
もう片輪、「長く勤続しても給料が増えない」ということを企業側が取り組もうとしていることを裏付ける記事が出てきました。
正社員なのに何年勤めても給料が上がらない-。定期昇給制度のない業種が増えている。従来常識では正社員なら年齢や経験とともに賃金が上がる。だが、介護関係や、販売店員などサービス業では正社員で長期間勤めてもわずかしか昇給しない状況が厚生労働省が三月末に公表した賃金構造基本統計調査(二〇一八年)で鮮明になった。政府は「同一労働同一賃金」を掲げ、非正規社員の待遇を正社員に近づけると言うが、実際には正社員「低賃金層」が急拡大している。(渥美龍太)
労働者全体で見ると、ホワイトカラー(事務員や管理職)はRPAなど自動化を推し進め人数を削減。そして自動化できないようなブルーカラーや接客サービスなどの分野は給与の抑制。これが、終身雇用崩壊の両輪だと思います。
仮説を裏付ける資料
上記記事は厚生労働省「賃金構造基本統計調査」の結果を受けての内容です。
この原典に当たりましょう。
もっともインパクトのある資料が、下記のグラフです。
平成30年(2018年)の産業別・性別・年齢別の賃金統計です。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2018/dl/05.pdf
さて、この絵をじっと見た後に、平成15年(2003年)の様子を確認しましょう。15年前です。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z02/kekka1.html
考察
この二つのグラフを見比べるにあたって、業種分類が明らかに違っているため単純比較はできません。ただ、示唆するところはあります。
「サービス業」の結果が恐ろしく変わっています。男性の賃金ピークが平成30年では326万に対して、平成15年では450万ほどのところにあります。「他に分類されないもの」という表現の通り、21世紀に入って新しく表れたような業種については、もともと終身雇用制の想定がないのだと思います。人が集まりやすく、かつ長期間働くことを前提としていないような仕事が増えたという状況が浮かびます。
一方、伝統的な職業、建設・金融・教育・医療の分野や、逆に給与は伸びていることがわかります。
今、早期退職や依願退職で狙い撃ちにされている層は、まさにここです。なぜ業種関係なく幅広く行われているのか。終身雇用を維持してきた最後の砦である一部上場企業が今まさに手を付けようとしているということがわかります。
さて、歴史の長い名門企業ならある程度は終身雇用制が残っている。そこに新卒採用の人気が集中する。
◆新卒就職人気企業ランキング(総合ランキング)
1位「味の素」
2位「伊藤忠商事」
3位「NTTデータ」
4位「全日本空輸(ANA)」
5位「花王」
6位「資生堂」
7位「電通」
8位「サントリーホールディングス」
9位「日本航空(JAL)」
10位「オリエンタルランド」
ということで、まあなるほどな、という企業が並んでおります。
金融業は、逆に今が高すぎて逆風にさらされているのが明白で、人気を落としている・・ということですね。
大きくものを見ると、冒頭の通り、長く働いても給与が増えない仕事はどんどん増えていくと思います。知的労働ほどITによる自動化の余波が大きく、明確なスキルを身に着けないと給与が上がる理由がない、という時代が訪れている過渡期であることが言えると思います。上記にNTTデータが現れるあたりが世相を示していると思います。
最近の新卒給与アップブームは、長い期間働いた職員よりも、優秀な新卒へ投資をしたいということの表れだと理解しています。ただ、入った時の給与が高くても、スキルが付かなければそれ以上は給与が上がらない仕組みに変わっている最中なので、長い目で見るとむしろ厳しい昇給条件になっていくでしょう。
長く働いたから給与が増える、ではなく、長い時間の間にスキルを溜めていった人が給与が増える。
そんな社会の変化が表れている統計だと思います。
追記
大企業のベテランの方で、感度の高い人はもう動いてらっしゃるようですね。
50代の転職者が増えている。都心の再開発ラッシュで建築技術者の需要が高まっているほか、スタートアップ企業による求人では経理や経営企画ができる即戦力が人気だ。人手不足を背景に、スタートアップなどが提示する給与水準なども上昇。リクルートキャリアなど大手各社では50代の成約がこの3年で倍増し、業界全体では仲介による転職が年間2万人近くになったとみられる。