「顧客に寄り添う」の是非
SIerなら誰しも(?)チェックしていると思われる木村氏のコラム。今回は「顧客に寄り添う」の是非です。
だから「顧客に寄り添う」あるいは「絶対に逃げない」と人月商売のITベンダーの経営幹部が口々に言うわけだ。私からすれば「気色悪いから客に寄り添うな」である。あえて気色悪いと罵倒するのには意味がある。「寄り添う」といった情緒的な言葉を使って、今の商売を正当化しているから先に進めないのである。
考察
私の半径の中での話として考えると、ちょっと意見が違います。
SIerの経営陣は「顧客に寄り添う」を連呼しているとは思いますが、どうも現場によっては顧客に寄り添うことすらできていないSIerも少なくありません。話を聞いてみると、あの大手SIerであるにもかかわらず、全く顧客志向ではないのです。
例えば、
・見積が欲しいといっても、全然出てこない。
・相談しても、聞き流される。
・課題一覧(エクセル?)が最新化されていない。
・作業が遅い。報告がない。
本当なのか?と思うほどの品質で、まあだとすれば、付き合いをやめたくなるだろうなあという感想を持ちました。そんなSIerとうまくいっていないお客様は、逆に私としては入り込むチャンスではあるのですが、そうやっていろんなところでSIerは切り崩されているのではないか・・と思うのです。
文中では外資系コンサルティングファームが切り崩しているように見えるのですが、いや、もしかすると小回りのある中小のSIerに切り崩されているようにも思えるのです。
ユーザー企業の情シスもSIer丸投げなのはもう反省していて、できるだけ主導権を取ろうとしていますが、運悪くSIerが顧客に寄り添えていない場合、ベンダーを小回りの利くSIerに振り替えつつ、現行システムを再定義しようとしているように見えます。
中小企業のSIerは異動も少なく人があまり変わらないので、丸投げではなく相談相手としてはベストなように見えます。かかりつけの医者とか、街の電気屋さんみたいなもんですね。
大手SIerのツッコみどころをまとめておきます。
組織変更による担当者変わりがち
大手企業だと平気で今年度から組織変更で担当者変わります、なんてことをやってくるので構築時の関係は時とともに薄れていきやすいです。
アカウントSEだけではなく営業担当者も含めて年単位でどんどん変わるので、ユーザー企業からすると「寄り添われてない」となりがちです。
担当者が変わるたびに、関係がリセットです。
下請けマージンの存在
大手SIerにありがちな伝統的な工数見積がまだ幅を利かせていています。またその単価も大手SIerは高い。なぜ高いかというと協力会社にぶん投げるためにマージンを乗せるためです。直で契約する中小SIerが安くなるのは当たり前です。
工数主義による弊害
もともと費用が高いのに、工数を超える仕事をやりたがらないという矛盾が起こりやすいです。システムが安定すると作業が減り工数が少なくなるのに、何か依頼すると別工数とか言われてお金がたくさんかかるイメージを持たれています。
上流ばかりで手を動かしていないことの積み重ね
ITゼネコンと言われる所以ですが・・。実作業は下請け任せという構造ばかりがはびこると、上流しかやっていないSEは手を動かせません。
実感として、やっぱり構築や本番変更作業をたくさんやってきた人は、新しい技術にも強いです。どちらかというと営業的な動きしかできなくなり、よくわからなくて見積に時間がかかる・・。そんな傾向が見えます。
・・・と、今回はこれぐらいにしておきます。
まとめ
顧客の経営課題に切り込むといいつつも、一番大事なのは担当者同士の信頼関係です。結局は人間同士ですから、心を開かなければ課題も話してくれないのです。
小さい悩みでも懇切丁寧に対応してくれるから、経営課題まで打ち明けてくれるのです。小さい悩みも拾えずに、いきなり大上段から担当者が「御社の経営課題を聞かせてもらえませんか」なんて言おうものなら、「そんなこと言える状況か」と打ち返されて終わり・・です。
ですから、経営者が顧客に寄り添うことを発言するのは、顧客に寄り添っているからではなく、寄り添うことすらできていないから危機感として発言しているのだと私は理解しています。でも、それを大企業がやるためには下記の課題を抱えているでしょう。
・ITゼネコンと呼ばれるような多重請負構造
・上流しかやらない大手SIerの文化
・経営陣により毎年のように行われる大型の組織変更
結局のところ、大手SIerの上流SEより、大手SIerから下請けで受注し実際に手を動かしてきたSEのほうが、顧客の課題について俊敏に対応できると思っています。大手SIerは顧客に寄り添うこと自体、過去のIT業界の負債ともいえるゼネコン型の体質による機能不全で満足にできなくなっているのでは、と思います。
属人的であることを否定しがちな大企業、いいところばかりではない。ということです。