orangeitems’s diary

40代ITエンジニアが毎日何か書くブログ

RPAを導入成功した後に考えるべき本当のこと

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横浜市報告書にたくさんの反響

横浜市が公開した「RPAの有効性検証の成果について」報告書の記事について、たくさんの方に共有頂きありがとうございます。

ツイッターやはてなブックマークへたくさんのコメントが寄せられておりまして、私なりに読み解き、代表的な意見に考察を加えたいと思います。

 

考察

野良RPA・RPAガバナンスの問題

業務フローが見直されないまま部分的にRPAに置き換えられ自動化される。そのうちRPAがどんなことを行っているか把握している人すらいなくなり、野良RPAが氾濫。システムの改修とともにRPAのロジックが破たん。業務が突然まわらなくなる未来が見える。

 こちらの懸念はRPA導入に際してよく言われるリスクですね。「野良RPA」問題。何と昨日(2019/3/19)にNECが発表したRPAの管理・運用を支援するソリューションで、このリスクに対応しています。

 

cloud.watch.impress.co.jp

日本電気株式会社(以下、NEC)は19日、RPAソリューションを拡充し、RPAの管理・運用を支援する「RPAロボット管理ソリューション」を4月19日から提供すると発表した。

 RPAロボット管理ソリューションは、企業内のさまざまな部門が保有するRPAライセンスやロボットの稼働状況・バージョン情報を、RPAの利用管理者が一元管理できるソリューション。これにより、ロボットのメンテナンスや作業内容の把握を効率化し、より安全で統制がとれたRPAの利用と管理を可能にする。

 さらに、今回新たに「WebSAM IT Process Operations for RPA」の機能をロボットの定義に組み込むことができるようになり、ロボットが作業した内容をより詳細なログや動画形式で自動記録するなど、ガバナンス強化に加え、効率的なメンテナンスが可能になる。

 また、2018年9月から提供しているRPAの「導入・運用ルール策定サービス」を通じて、RPAに関わる企業内の体制やロボット運用環境の定義などにより、ソフトウェアロボットの作成者・管理者が不明あるいは管理の仕組みがないなどの理由で、管理が行き届いていない「野良ロボ」を発生させない仕組み作りも支援していく。

 

RPAを企業に導入する際に、どのように企業活動へポジティブに組み入れていくかについては、もはや有力SIerはすでに知見を持ち合わせていると言えます。

また、失敗事例も大きく積みあがっていて、RPAを現場任せにしたら失敗するとの記事も今週見かけました。

 

www.itmedia.co.jp

安部さんは「(トライアルも含めて)大企業の9割以上はRPAを導入しているが、そのうち8割近くは大した成果が出ておらず、スケールしないことに悩んでいる」と指摘。導入コストに見合う成果を得られている企業には共通点があるという。

 特に安部さんが強調するのが、RPAプロジェクトを推進する専門チームの必要性だ。RPAを部門横断でスケールさせ、それなりの成果を出すには「現場主導ではうまくいかない」と語気を強める。

 現場主導のRPAは、担当者レベルで改善したい範囲を決め、時間をかけて少しずつ進めるやり方のため、スケールさせるのに時間がかかる。これに対し、専門チームを作って全社プロジェクトとして進める「直下型RPA」は、大きな改革効果を狙えるという。

 

横浜市の事例もNTTが大きく関わって現場の業務分析を実施し、適用範囲を設定し、組織縦断的に実験を進め大きな成果を出しました。

RPAを現場に投げつけてもうまくいかないということは常識となっており、いかにガバナンス(統制)を利かせるかを初めから考えないと、現場にとって中期的には悪影響な存在となり使われなくなるのでしょう。

RPAはうまくいかない、ではなく、うまくRPAを導入する方法を行う、という観点が重要でかつこれだけブレークしている要因に、導入方法論が確立されつつあるということだと思います。

 

業務の変化に既存RPAをどうメンテナンスするか

瞬間的にはRPAを使って大きく工数削減できるかもしれないが、システムや業務、法制度など外部環境が変わった時、RPAを誰がメンテナンスするの?。結局手作業に戻らないか?

 RPA導入時の破壊的な/派手な効率化に目を奪われがちですが、むしろ数年単位で導入したRPAをどのように最適化していくか、という運用の問題こそ肝だと思います。

RPAはAIではなく単なるマクロですから、業務ロジックが変われば人間が変更しなければいけません。ということは現場の人がRPAを道具として使いこなすスキルがないと、「RPA管理センター」のような人が呼び出されまくって疲弊するということになるでしょう。

横浜市の報告書にも、RPAの使い方を研修するシーンがありました。現場の人々が、繰り返し業務等のプログラマブルな作業に対しRPAを活用して、仕事が生まれた当初から効率化する態度・文化が大事でしょう。

 

システム化すればいいのに

なぜ、こんなに無駄の多い作業をシステム化せずに、RPAにお金を使おうとするのか。

それは・・、システム化予算が限定されており、重要な案件から処理されるためです。またシステム改修するにも時間も予算もかかりますから、マンパワーで何とかできることは後回しにされがちだからです。

また、日本の長い歴史の中で社内システムも新旧交えて乱立し、組織もベンダーも保守できゅうきゅうとしていて、システム化によって業務改善する雰囲気が無くなってきて言うというのもあります。むしろ、ハードウェア更改に合わせてリプレースするだけでせいいっぱい。業務要件もわかる人がいない。そんな状況に日本の組織が陥りつつある、いわゆる「2025年の崖」「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の問題です。下記に詳しく書いています。

 

www.orangeitems.com

  

もう現場は、システム化が業務改善するということへの信頼感が薄れていて、それより目の前が楽になる方がすぐに結果が出るということで、RPAがブレークしていると想像します。

RPAでしのぎつつ、本筋のDXを進めるというのが、あるべき論だと思います。

 

役所の仕事は硬直的である

役所の仕事は、型が決まっていて簡単に方法を変えられない。決裁がないと何も実行できない。だからRPAを使えば、やり方を変えずに効率化できる。

これは金融の世界でも同様かと思うのですが、その業務プロセスの根拠が、法律や条例、規格などの場合が多い業界は、おいそれと方法を変えられないんですよね。その結果「判子リレー」「捨てられない大量の書類」「規定で決まった文書形式」など、非効率の原理のような現象が生まれます。

勝手に変えると誰かが責任を取らなければいけない。その結果、特に日本の企業やお役所が硬直的なワークフローにがんじがらめになり競争力を失っているのは有名な話です。海外勢やスタートアップが、破壊的に既存業界に攻め入り成功しています。抜くことが御法度だったとされるワークフローを平気で省略して勝負してきますから、勝負になるはずがありません。

RPAは、仕事の仕方を変えずに業務を効率化するための魔法の杖として扱われており、このあたりが、本来の業務改革コンサル的な目線から言えば「一時しのぎだし中長期的には害悪」と見られるのはよくわかります。

本質は、やらなくていいことを減らすこと、それはRPAではなくて、無くすという人間の判断です。RPA万能論は間違いだと認識しなければいけません。

 

まとめ

RPAは、ガバナンス(統制)せずに現場にぶんなげるとうまくいかない。これは金言として捉える必要があります。

運用方法は、導入に成功事例を持つ企業に相談するのが現時点では最もよいでしょう。導入すれば即バラ色、というのはあり得ません。

非効率な業務が21世紀になっても、たくさんの企業・組織にはびこっている状況で、これを改めるのは更なるシステム化・・ではありません。RPAは即効性はありますが本質的ではありませんし、運用を考えれば新たなコストやリスクを生みます。

本当に進めるべきは、デジタルを軸とした業務改革、つまりデジタルトランスフォーメーション(DX)です。DXは、バズワード的だし抽象的なのでなかなか浸透しない概念ですが、RPAで生まれた時間的余裕は、本当に業務改革へつぎ込んでほしい、と思います。それができた企業が、次のステージに進めると考えます。