orangeitems’s diary

40代ITエンジニアが毎日何か書くブログ

5年後に基幹システムが刷新できなくなる本当の理由

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5年後に基幹システムが刷新できなくなる本当の理由

日経xTechにて、5年後に基幹システムが刷新できなくなるという記事を読みました。内容に関して私の解釈とズレがあるのでコメントしておきます。

 

tech.nikkeibp.co.jp

ただ、ITベンダーが案件を受け切れないほどの繁忙にある理由は、必ずしも市場が伸びているためだけではないようだ。梅田社長をはじめ多くの関係者が指摘するのが、基幹系システムの構築を担えるITエンジニアが急速に減っている事実である。緩やかに増えている案件に対して、対応できるITエンジニアが圧倒的に不足している。その結果、「案件を受け切れなかった」というITベンダーが相次ぎ、基幹系システムの構築に関わるビジネスが好調に見えるのだ。

 基幹系システムの構築は、以前から企業システムの構築を手掛けるITベンダーにとって得意分野の1つだった。ところがITベンダーは今、デジタル変革(DX)などの新分野や、AI(人工知能)などの新技術へ対応するための人員を急激に増やしている。

 

DXのことを、クラウド、AI、IoTなどの集合体として捉えると、あたかも基幹システムという概念が旧来のモノリシックなシステムのことを示すと考えがちですが、実際はそうではないと思います。

上記の誤解があるために、この記事のような表現になってしまうと考えています。DXは基幹システムを含んでいます。DXこそ基幹システムに必要な考え方なのです。

 

旧来の日本的な基幹システム刷新と同じように考えるから破たんする

DXに一番こだわっているのは、かの経産省です。

旧来の日本的なフルカスタマイズの、ベンダー丸投げシステム(基幹システムを含む)をこれからも構築・運用するのは非生産的だと主張しています。

 

www.meti.go.jp

DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~(サマリー)(PDF形式:1,301KB)PDFファイル

DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~(本文)(PDF形式:4,895KB)PDFファイル

DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~(簡易版)(PDF形式:2,693KB)PDFファイル

 

(上記簡易版より・・・)

2.6 2025年の崖

多くの経営者が、将来の成長、競争力強化のために、新たなデジタル技術を活用して新たなビジネス・モデルを創出・柔軟に改変するデジタル・トランスフォーメーション(=DX)の必要性について理解しているが・・・

・ 既存システムが、事業部門ごとに構築されて、全社横断的なデータ活用ができなかったり、過剰なカスタマイズがなされているなどにより、複雑化・ブラックボックス化

・ 経営者がDXを望んでも、データ活用のために上記のような既存システムの問題を解決し、そのためには業務自体の見直しも求められる中(=経営改革そのもの)、
現場サイドの抵抗も大きく、いかにこれを実行するかが課題となっている

→ この課題を克服できない場合、DXが実現できないのみでなく、2025年以降、最大12兆円/年(現在の約3倍)の経済損失が生じる可能性(2025年の崖)。

 

実は日経BPの記事は同じことを言っているのがわかると思います。

経産省の文脈は、「DXに人材を取られるから、基幹システムの刷新を行う人手が足りない」ということではありません。

「DXを行わないから、既存のITシステムの技術的負債が積み重なり貴重なIT人材が奪われ、経済損失が生まれる」と言っているのです。

 

もっとかみくだく

もっと経営者目線に言葉をかみ砕いて説明します。

これまで大部分の日本の会社では現場のやりかたが第一で、ITはそれに合わせて要件定義を行いカスタマイズを行ってシステムを構築するという考え方が当たり前でした。しかも運用保守は他社のベンダーに丸投げです。そのような状況で長い間、システムの改修やリニューアルを行っているうちに、中身を理解する人が社内外通じて減少し、しかし現場はこれのシステムに依存していて、どんどん足かせになっていく。しかも高齢の技術者のリタイアが増えるにつれ問題が表面化していっているのが、現在の問題です。

海外ではどうしているかというと、方法論が真逆です。各業界で標準的なパッケージがあり、これを各会社の現場に当てはめます。したがってパッケージが変わると現場の仕事の仕方そのものが変わります。アメリカにおいては、業界において競合他社からマネージャーが転職してくるとパッケージごと変わることが多いそうです。それぐらい現場の仕事の仕方は、パッケージに合わせます。そうすることによって他社の優れたところをすぐに取り込むことができるのです。競合他社で成功した方法を自然に取り込めますし、陳腐化すれば別のパッケージに乗り換えるとともに現場の方法を全部入れ替えます。この方法論を、デジタルトランスフォーメーションと呼んでいるのです。現場自体がデジタルファーストなのです。

日本の会社は、ITを導入しようとするとすぐにカスタマイズしようとする。SAPを入れようとしても、結局大量のアドオンを開発することになってしまう。システムリニューアルをするときに、各社の提案を評価するうえで必ず話題になるのが「フィット率」と呼ばれる数値です。パッケージがどれぐらい現場の業務と適合していて、適合していないものはどれぐらい追加開発しなければいけないかを考えるためのものさしです。これがそもそもバカげていると。現場の業務をパッケージにフィットさせることを徹底することが重要となります。

ただ、日本のパッケージ会社はそこまでクライアント企業に業務の変更を迫る場合は少なく、むしろカスタマイズ要求を受けつつ自社パッケージの標準に組み込んで、日本企業のフィット率を高めようとしています。軋轢を減らすための日本的な取り組みですが、本当に人員不足となってくると、案件をお断りする・・ということも今後経産省が言うように起こりえると思います。

 

まとめ

すごく単純に言えば、現場ファーストの基幹システム構築は止めて、パッケージに合わせて業務を変えるぐらいの取り組みを今のうちからしないと、既存システムの技術的負債に飲み込まれちゃうよ、ということです。

とは言え、SIerもこれまでクライアント企業の要件に寄り添って生きて来たので、急に「パッケージに合わせて御社の業務を見直してください」とも言えず、伝家の宝刀「共創」と言う言葉を繰り出しているというのが2019年です。

日経BPの記事の通り、SIerはデジタルトランスフォーメーションにやる気満々で、既存システムの現場ファーストリニューアルになど付き合う気は(言葉では言いませんが)毛頭ないので、クライアント企業はそろそろ本気で取り掛かった方がいいと思います。「共創したいんだが・・」ってSIerに言ってみてください。ノリノリで営業されますよ。