orangeitems’s diary

40代ITエンジニアが毎日何か書くブログ

ニコニコ動画がなぜこうなってしまったのか

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出典:https://image.itmedia.co.jp/l/im/news/articles/0703/06/l_yuo_nikoniko_01.jpg

 

ニコニコ動画の不振、その原因を考える

ニコニコ動画運営元のカドカワおよびドワンゴが揺れているようですね。

 

www.asahi.com

 カドカワは13日、川上量生(のぶお)社長(50)が同日付で辞任し、代表権のない取締役になったと発表した。新社長には松原真樹専務(65)が昇格する。川上氏が創業したドワンゴの動画投稿サイト「ニコニコ動画(ニコ動)」の不振で、親会社のカドカワの2019年3月期の純損益が43億円の赤字に転落する見通しになったことから、降格で責任をとる。

 

ニコニコ動画がなぜこうなってしまったのか。

その始まりから原因を考えてみたいと思います。

 

2007年

1月

ニコニコ動画って、2007年1月15日に、ドワンゴの子会社だったニワンゴの取締役管理人だったひろゆき氏がリリースしたサービスだったんですよね。

 

www.itmedia.co.jp

ニワンゴは、2005年11月に設立したドワンゴの子会社で、ひろゆき氏が「取締役兼管理人」を務める。ニコニコ動画は、携帯メールの情報サービスに次ぐ、同社サービス第2弾だ。(中略)

 「でも、YouTubeとかAmebaVisionに面白い動画がすでにあるんだから、それを借りちゃった方がラクじゃん、と」。既存のサービスから動画を引用することで、独自コンテンツや動画サーバを不要に。1日400万PVものトラフィックがあっても、負荷は比較的低いという。

 「動画自体を置いてないので。ユーザーの滞在時間に比べるとコストパフォーマンスはいいんです。それもYouTubeとAmebaVisionのおかげ。“便乗モデル”です(笑)」

 

ということで、インフラただ乗りで上からテキストをかぶせるという斬新な設計。動画そのものではなく動画につくコメントに価値があるんだと。そういえば、今のニコ動の惨状はYouTubeや新興のTikTok、インスタグラムやツイッター、ShowRoomなどとのコンテンツ争いに負けたから、という分析が多いと思うのですが、もともとコンテンツはただ乗りだったわけです。欲しかったのはYoutube上に集まる人たちとそのコミュニケーション。今となっては著作権やら何やらで絶対にできないようなWebサービスですが、まだ議論が未成熟だった穴をついて勝負したひろゆき氏のセンスに感心します。

実際、ニコニコ動画がコンテンツで勝負しようとした時点で、負け戦が始まってしまったのではと思いますね。

 

2月

そういえば、ニコニコ動画はリリースしてすぐ翌月に閉鎖に追い込まれたのでした。

 

markezine.jp

ニワンゴが運営する「ニコニコ動画(β)」が、2月22日夜からDDoS攻撃を受けて、サービスを一時停止していたところ、ほぼ同時期にYouTubeが「ニコニコ動画」からのアクセスの一部を遮断していることが判明。同社は、一時的に「ニコニコ動画」のサービスを終了することを2月24日に発表した。

 

リリース1ヶ月で1億PVとかって何なのという状況で、YouTubeから遮断され、DDoS攻撃受け、というカオスな状態。とりあえずYouTubeを除外してサービス再開することとしたようです。こういうわしゃわしゃした状況って、今のインターネットには無くなっちゃったよなあ。

 

3月~6月

んで、動画インフラに投資したり、サービスを作り替えたりと先行投資ずんずんやってたら、お金を使いすぎちゃってとにかく収益化しないと続けられないところまで来てしまいました。ここでプレミアム会員の話が出てくるわけですね。

 

markezine.jp

しかし、3月6日からクローズドガンマサービス「ニコニコ動画(γ)」を開始。今度はYouTubeなどに頼らず、自前の動画投稿サイト「SMILEVIDEO」を開設。サービス開始から72日目でID登録ユーザー数が100万人、5月の月間総ページビューは約9億3,500万、コメント数はサービス開始時からトータルで1億1,500万を超えるなど破竹の勢いだった。

しかし、5月15日にニワンゴの親会社ドワンゴが発表した平成19年9月期中間決算発表で、同社の主力サイトである「dwanog.jp(メロ)」の会員数の減少と「ニコニコ動画」などに対する先行投資によって、平成19年9月期の連結業績は、営業損失7億円、経常損失7億円、当期純損失19億円となる見通しであることを発表。爆発的な人気と裏腹に、「ニコニコ動画」サービスを維持しつつ、早期に収益化することを迫られていた。

 

このあたりから大人が登場してきます。爆発的な集客力が魅力ではあるものの、ドワンゴ自身が豊富にキャッシュがあったわけではないので、投資を長期化できない。

今の時代だったら、大きなベンチャーキャピタルがついて投資先行で継続できたんだろうになあと。当時のインターネットはまだまだ娯楽の延長だったのでそうは行きませんでした。収益化のためにつまらない要素が埋め込まれはじめます。

このプレミアム会員導入のときのひろゆき氏のインタビューは強く覚えています。

 

www.itmedia.co.jp

――なぜ月額525円なんでしょうか。

 深い意味はありませんが、某SNSのプレミアム会員よりは高くしよう、という意地があったみたい。あんまり安いとカード課金手数料割合が大きくなっちゃうとか……。

(中略)

お金が大事だというのは確かにそうなんですけど、面白いものをつくるために有料化しているというところを誤解してほしくないなぁと。別に払いたくない人は払わなくていいと思うんですよね。

(中略)

 ニコニコ動画はどうしても、ビジネスの話になりがちなんです。会社がやってるのでしょうがないですけど。でもビジネスに寄りすぎると面白くならない。ちょっと前に企業が「CGM」(ユーザーが生成するメディア)を作るというのが流行しましたが、企業主導でやってそこまで面白いコンテンツが生まれたかというと、微妙です。

 

ひろゆき氏も、この収益化の圧力をユーザーに「ビジネス」と悟られないために必死に論理武装しているという形になっています。そして、私もここでひろゆき氏がおっしゃっていることは正しくて、「面白さ」が継続するためにはビジネスを持ち込んではいけなかったと思います。 

 

10月~11月 

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日本音楽著作権協会(JASRAC)は10月30日、ニワンゴが運営する「ニコニコ動画」と、米Google傘下の「YouTube」上で使用されているJASRAC管理楽曲の利用料を、それぞれの運営企業から支払ってもらう契約締結に向けて協議に入ったことを明らかにした。年内にも暫定的な契約を結ぶ予定だ。

 

著作権をちゃんとしよう、と。もともと「YouTubeのかぶせ」から始まったサービスなので180度の転換になると思います。

このあたりでのひろゆき氏のインタビューの温度感が面白いです。

 

japan.cnet.com

「ユーザーが動画をアップロードすると、著作権法に違反しているコンテンツも出てくる。それ自体があまりよろしくないイメージなので、そんなところに広告主は広告を出したくない。ニコニコ動画は暇なユーザーが多いので、ゲームなどの広告であれば費用対効果が高いが、ブランディング広告は出さないだろう」

 また、動画制作コストが広告効果に見合わないとも指摘。「ネットのためだけに動画を制作するような会社はほとんどない。制作費を考えたら検索連動型広告のほうが確実」

 「これらの要素が全部成り立たないと難しい。だから個人的には、1〜2年は動画ビジネスは成り立たないと思う。親会社(ドワンゴ)は株価対策のために2008年9月期中の単月黒字化を宣言しているけど、僕はうまくいかないと思ってる。僕はドワンゴの株は持っていないので」

 

収益化を急がないとドワンゴの経営自身が揺らぐほどの状況で、「成り立たない」と言うひろゆき氏のコメントは当時の経営陣に戦慄を与えたのは間違いないだろうなあと思います。

 

2008年

3月

この時点までは、まだひろゆき氏の意向が強く働いていたのだと思っています。

 

ニワンゴ、ブログ上でも視聴できる「ニコニコ動画(SP1)」を本日18時に開始

質疑応答では、事業に関する説明を(株)ドワンゴ代表取締役社長の小林宏氏が行なった。小林氏は事前に「一部の投資家の方は耳を塞いでほしい」と前置きしたうえで、「弊社が目指しているのはできるだけ多くのユーザーに利用してもらうことだ。そのために十分に満足できるような機能を追加していくのを第一に考えている。単月黒字化を考えていないとは立場上言えないが、今は一番に売り上げ向上を目指す時期ではないと思っている」と強く述べた。

 

風向きが変わったのはこの年の夏です。

 

7月

ここで夏野氏が登場します。2019年2月からドワンゴの代表取締役社長となることは全く想像していなかったでしょう。

 

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――黒字化担当として、今後をどう展望していますか

夏野 こういうサービスは、面白くあり続けることがすごく重要だと思うんです。面白くあり続けるには1年前と同じことをやっててもダメ。そっちの方向はもう、あまり心配いらないくらいどんどん面白くしているが、そっち以外があまりやってなかったと思う。

 これまでの1年半は、とにかく新しいサービスをきちんと立ち上げてサービスとして軌道に乗せることに集中していた。でも普通に上場企業としてサステイナブル(持続可能)にビジネスをやっていくためには収支を回さないといけないし、今後の基盤を作らないといけない。ビジネスとして成り立つようにしないと、いつまでも赤字のままならどこかでやめないといけないから。

 今後は全面的に、本格的なビジネス展開を組み込みながら、楽しく面白いプラットフォームはこのまま維持し、さらに進化させるというのをやっていきます。

 

黒字化することが夏野氏のミッションだった。これを2年ほどの短期で成し遂げることになります。ただ、ひろゆき氏があんなにインタビューで、ビジネスをエンターテイメントに入れたらつまらなくなると言っていたのに、夏野氏がビジネスという言葉を連呼しているのを読んで、このあたりで辻褄が合わなくなっているなと思う次第です。

 

11月

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ドワンゴは11月14日、「ニコニコ動画」を2009年6月以降に単月黒字化させる見通しを明らかにした。

 

ですから、夏野氏のコストマネジメントの実力は間違いないものだったとは思います。

 

12月

一方で、ひろゆき氏の表情は暗いです。これまでのインタビューの表情と比べてもらえればと思います。

 

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見通しは明るいと、僕らは思ってるんですけどねぇ」――「ニコニコ動画」が1000万ユーザーを突破し、人気は健在だ。

 その一方で運営は赤字続きで、月間1億円の赤字が出ているという。世界同時不況はネット業界も例外ではなく、ニコ動を取り巻く環境は厳しいはずだが、ニワンゴの取締役の西村博之(ひろゆき)氏は冒頭のように強気だ。

 

読めば読むほど、もっと面白いことだけに集中していればニコ動はもっと面白くなるのだけれども、黒字化しなければいけないことは事実であり夏野氏がその実績と手腕があるのは事実であり・・。と読めました。

多分に、ひろゆき氏も「思ってたんと違う」というところも随所に出てきていたのでは・・と思います。

 

2009年

11月

そして時は流れて。

 

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しかし運営元のニワンゴ取締役で、元2ちゃんねる管理人「ひろゆき」として知られる西村博之氏は、いまのニコニコ動画に対して「いろいろ不満がある」と話す。それは運営組織が大きくなり、機能が増えたからこそ生まれたジレンマでもあるようだ。西村氏はニコニコ動画の運営ではアドバイザー的な立ち位置にある。

「こういうのは良くない、というのは誰かが言わないと止められない。『いや、実は大丈夫なんだよ』と言えるのであれば、言ってもらって構わない。ダメなものはダメだと言えなくなると、だいたいそういう会社は廃れていく」――こういって西村氏は、最近のニコニコ動画に感じていることを語ってくれた。

 

今のニコニコ動画を予見したようなインタビューとなっています。

 

2010年

5月

ニコ動、悲願の「黒字化」達成──原動力はプレミアム会員

ニコニコ動画は、2006年12月の開始以来、通信インフラの利用料や「ニコニコ大会議」などのイベントなどに投資してきたため、事業として赤字が続いていた。2008年7月には「黒字化担当」として、元NTTドコモ執行役員の夏野剛氏を取締役として招き、黒字化を外に向けて強くアピールするようになる(関連記事)。それから1年10ヵ月、ようやく「悲願」が達成されたこととなった。

 

夏野氏が誇らしげですね。ミッションを成し遂げたのですから当然だと思います。

 

2013年

2月

ひろゆき氏がニワンゴを離れるときがやってきます。

 

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ドワンゴは2月18日、「niconico」の運営などを手がける子会社のニワンゴで取締役を務めていた西村博之氏(ひろゆき氏)が同日付で辞任したと発表した。(ひろゆき氏がコメント)

 理由は「一身上の都合」としている。

 

ひろゆきが辞任の理由を初ポロリ……ニコニコ超会議2の超ZUNビール特番

 一番驚いたのが、番組の最後で、ひろゆきさんがニワンゴ取締役を辞任した理由をちょろっと語ってしまったこと。

 というのも、3月7日に行なわれたニコニコ超会議2の発表会では、冒頭でひろゆきさんの追悼(?)ムービーを流したうえ、ドワンゴの川上会長が「辞任の理由はひろゆきに説明してるんだけど、彼が黙ってて思わせぶりに引っ張ってる。ひろゆきが言うタイミングに任せる」と語っていたからだ。

 ZUNさんが「ニワンゴじゃなくて今何やってるの?」と話を振ると、「僕元々、ニワンゴではまったく働いてなくて……」と話を始めて、「川上さんと社長の荒木さんと話をしたときに。『色々めんどうくさいんで辞めてくれない』と。厄介払いですよ。『あー、いっすいっす』って」と真相を明かしていた。あまりに波乱に満ちた生放送だった。

 

まあこのときはひろゆき氏にいろいろあったのは事実ですが、ニコニコ動画サービスインの2008年から見ると、よくわかるのではないのでしょうか。ひろゆき氏のコンセプトはどんどん外されていき、夏野氏のビジネスメソッドの方に会社の方針は動いていったということになろうと思います。

 

ちなみに川上氏は

今回のように、ひろゆき氏と夏野氏を取り上げると非常にわかりやすく、ニコニコ動画がなぜこうなってしまったのかわかりやすいのですが。長らくドワンゴの会長であった川上量生氏のことを触れざるを得ません。結局のところビジネス基盤は川上氏の会社だったわけですので、フィクサーと言えます。

フィクサーって何でしょうか。Google先生によれば、「面倒な出来事を調停する人(特に、黒幕)。」なんだそうです。なるほどね。結局ひろゆき氏の発想力は日本を熱狂に包んだわけで、そして夏野氏のマネタイズ力はニコニコ動画を立派なビジネスにしたわけです。そこにフィクサーとして君臨していた川上氏がフィクサーである間はうまく回っていたものの、ひろゆき氏のフェードアウトに従って、自身がメインアクター(主役)となってしまい・・。これが適役ではなくカドカワや夏野氏にその座を譲ったのが今、ということになります。

フィクサーがいないと、事業は成長できません。しかしメインアクターはまた別の能力だと思います。そしてイノベーターがいたりビジネスマンがいたりして、うまくかみ合うとどんどん前に進むのが、ビジネスです。

こんなに良くできた教材はあまり存在しないと思います。ひろゆき氏、夏野氏、そして川上氏のそれぞれの立ち位置とその変遷は、一般の企業においての成長やマネジメントでも起こりうることを暗示しています。

そういえば、スティーブジョブズがAppleを一度終われ、Appleが窮地に陥ったあと、戻ってきて急成長したように、ひろゆき氏がまたニコニコ動画を変革してくれたら、ニコニコ動画がまた輝けるかもしれない、と素人考えで思いました。そのときは、今の幹部は一掃しなければいけないんでしょうけどね。

 

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結局、ジョブズは1996年、非常勤顧問という形でアップルに復帰を果たします。徐々に経営の実権を掌中に収め、経営陣をほぼ一新。ジョブズに縁のある人材を役員に据えていくのです。